2024年3月19日
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2024年3月19日
コラム④ 青少年の「する・みる・ささえる」スポーツ参加状況の変化 ←今回のコラム
-単一化するスポーツとの関わり、進む女子のスポーツ離れ-
2011年に制定されたスポーツ基本法は、全ての人々がスポーツに親しむ権利を保障し、安全かつ公正な環境でスポーツを楽しむ機会を確保することを目指している。特に青少年のスポーツは体力向上や人格形成に重要であり、学校、スポーツ団体、家庭、地域が連携して推進する必要性が強調されている。
スポーツ基本計画では「する・みる・ささえる」の概念が2017年の第2期計画から導入され、スポーツを「する」だけでなく、「みる」「ささえる」ことで国民みんながスポーツの価値を享受できると示している。しかし、人々がどのような方法でスポーツと関わっているのかといった現状分析はなされてはいない。
コラム①~③では、「スポーツ実施率(する)」「直接スポーツ観戦率(みる)」「スポーツボランティア実施率(ささえる)」の2011~2021年にかけての推移を分析した。シリーズ最後となる本コラムでは、青少年が「する・みる・ささえる」の活動にそれぞれどのように関わっているのか、その構造について分析し、青少年スポーツの現状と課題について検討したい。
まず、現代の青少年はスポーツとどのような関わり方をしているのだろうか。2021年の調査データをもとに、12~19歳の「する・みる・ささえる」スポーツの構造を分析した(図1)。過去1年間に1回以上の運動・スポーツ実施(する)、スタジアムや体育館などの競技会場における直接スポーツ観戦(みる)、スポーツボランティアの経験(ささえる)によって分類した。
その結果、「するのみ」が58.4%と最も多く、次いで「する・みる」が26.0%、「する・ささえる」5.0%、「みるのみ」3.9%であり、わが国の青少年スポーツは「する」を中心として、そこに「みる」が加わるという構造であるといえる。その中で、「する・みる・ささえる」という多様なスポーツ経験をしている青少年は3.6%であり、全体のごく一部となる。一方で、全くスポーツとの接点を持たない「しない・みない・ささえない」は16.6%であり、推計では151万人にのぼる。
ちょうど2021年調査は、コロナ禍であった2020年の状況を反映している。この期間はスポーツイベントの中止や延期、運動部活動や地域のスポーツ活動などが休止となり、スポーツ実施や競技会場での直接スポーツ観戦、スポーツボランティア活動などが制限され、スポーツとの関わりが減った時期も含まれる。今後、コロナ禍以前の水準に戻っていくのかどうかは、今後も分析を行う必要があるが、この状況はスポーツへの興味関心を引き出すための新たな手段やアプローチが必要であることを示している。
注) 過去1年間に1回以上の運動・スポーツ実施、スポーツ観戦、スポーツボランティアの経験の有無により分類
資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2021
図2に2011~2021年における12~19歳の「する・みる・ささえる」スポーツの構造の変化を示した。「する・みる・ささえる」タイプは2011年の10.4%から2021年の3.6%へと減少傾向にある。一方、スポーツに全く関わらない「しない・みない・ささえない」タイプは12.5%から16.6%へと増加している。
コロナ禍はこの変化に一定の影響を及ぼしたが、スポーツ参加の単一化はそれ以前から進行していた。「するのみ」タイプは2011年の35.8%から2021年の58.4%へと増加傾向にあり、「する・みる」タイプは減少傾向にある。「ささえるのみ」「みる・ささえる」タイプは0.5%未満である状況は変わらず、増える兆しはみられない。
このように、過去10年間でスポーツを「するのみ」の割合は増加しているが、「みる」や「ささえる」も含めた複数の活動を経験している青少年は減少している。特に「する・みる・ささえる」タイプである豊かなスポーツ経験をもつ青少年は減少の傾向を示している。新型コロナウイルスの影響もみられるが、近年における青少年のスポーツ環境やスポーツへの興味関心の変化がうかがえる。
図2に中学生から大学生の「する・みる・ささえる」スポーツ構造の推移を性別に示した。「する・みる・ささえる」タイプをみると、過去10年間でいずれの学校期においても男女ともに減少傾向を示している。特に中学生男子においては、2017年9.9%、2019年7.5%、2021年4.1%と年々減少している。一方、「するのみ」タイプは増加傾向を示している。中学生男子でその傾向が強く、2017年以降、年々増加傾向にある。
他方で、「する・みる」タイプは全体的に減少しており、特に中学生男子と大学生女子でその減少が際立っている。また、「する・ささえる」タイプは一部で増加しているが、全体的にはあまり変化がみられない状況だ。このように、性別や学校期別にみても青少年のスポーツ参加は活動の単一化が進んでおり、特にスポーツ観戦やボランティア活動といった多角的な関わりが減少傾向にあることが示唆される。
図4に中学生から大学生の「しない・みない・ささえない」タイプの推移を性別に示した。これは、スポーツに全く関わりをもたない青少年の割合を示している。
過去10年間の推移をみると、性別によって異なる動向が確認された。男子は、中学生では2011年からほぼ横ばいで変動は少ないものの、高校生と大学生では増加傾向にある。特に大学生では、この10年間で約8ポイントの増加がみられている。
女子では、中学生から大学生にかけて全体的にスポーツとの関わりが薄れている傾向が強く、特に大学生においては「しない・みない・ささえない」タイプの増加が顕著である。女子の割合は、中学生では一時的な減少後に増加に転じ、高校生と大学生ではより一層その傾向が強まっている。2011年から2021年にかけて大学生女子では約13ポイント増加し、高校生でも2015年から2021年にかけて顕著な増加が確認できる。
全体として、特に女子においてスポーツから遠ざかる傾向が顕著になっており、年齢が上がるにつれてこの傾向は強まっている。2017年以降、高校生と大学生で男女差は拡大しており、その差は10ポイント以上となっている。女子では高校進学のタイミングでスポーツへの関わりが大きく減少し、大学生になってさらに減少する傾向があることを示している。
スポーツ参加の構造は、コロナ禍によって大きく変化したが、その影響は一時的なものだけではなく、それ以前から青少年のスポーツとの関わりは単一化の兆候がみられている。2017年以降、「する・みる・ささえる」それぞれのスポーツへの関わりが減少傾向にあり、「しない・みない・ささえない」タイプは増加傾向にある。特に、女子はスポーツへの関わりが減少している傾向がみられる。
このように、近年、青少年のスポーツ参加は「する」を中心とした単一化の方向へ進んでおり、それは生涯スポーツの実現とは逆行する。子どもの頃の運動習慣が大人になっても持ち越されることを踏まえると、幼少期から運動やスポーツの様々な接点をつくる必要がある。
例えば、宮城県角田市では幼児期から運動に親しむ習慣をつける取り組みとして、保育現場での運動あそびプログラムの実践や保育者向けの研修などを行っている。また、いつでも親子で体を動かして遊べる室内遊具施設の整備や、乳幼児健診を活用した親子での運動遊び教室の開催など、保護者へも運動遊びの重要性を伝えている。角田市は、このような取り組みを継続的に行っていくため「スポーツネットワークかくだ」という組織を設立し、行政(市長部局・教育委員会)とスポーツ関係の市民団体(スポーツ協会・スポーツ少年団・総合型クラブなど)が課題や情報を共有しながら、幼児の運動遊び促進のほか、中学生の運動部活動に関する取り組みも行っている。このような組織を設立した背景には、子どもの数が減り続ける少子化社会では、今後行政だけでは子ども・青少年にスポーツの機会を保障していくことは困難になるという危機感からであった。
継続性のあるスポーツ環境を地域でどのようにつくっていくのか、子どもを中心にスポーツ少年団や総合型地域スポーツクラブ、民間企業などの様々な組織(大人)が連携し、それぞれの地域で子どもたちのスポーツのあり方を話し合い、実践していくことが望まれる。
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活用例
スポーツライフ・データ
2023年度