2019年9月13日
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2019年9月13日
2020年東京オリンピック・パラリンピック開幕まであと1年となった。大会ボランティアには定員の8万人を大きく上回る20万人の応募があり、また観戦チケットの抽選販売では公式販売サイトへのアクセスが殺到するなど、人々の大会への関心は高まっている。
スポーツ庁は「する・みる・ささえる」といった多様なスポーツライフを通じて、スポーツ参画人口の拡大を目指している。東京2020大会は「国民がスポーツに親しむ機運をより一層高める絶好の機会」とし、アスリートのプレーを「みる」、ボランティアの「ささえる」活動を通して、「する」スポーツへの興味が喚起され行動へとつながることが期待されている(スポーツ庁,2018)。
ところで、日本では、どのくらいの青少年がする・みる・ささえる活動を通して豊かなスポーツライフを送っているのだろうか。スポーツ参画人口拡大のためには、まずはその全体像を明らかにする必要がある。
本コラムでは、笹川スポーツ財団が実施している全国調査「10代のスポーツライフに関する調査」をもとに、青少年のする・みる・ささえる活動の実態について二次分析した。
図1に10代のスポーツする・みる・ささえるの活動状況を示した。1年間に1回以上何らかの運動・スポーツを行った者を「する」、スタジアムや体育館などの競技会場で直接スポーツを観戦した者を「みる」、スポーツボランティアを行った者を「ささえる」として分類した。
3つの活動のいずれも行っている「する・みる・ささえる」タイプの青少年は全体の10.3%であった。一方、「しない・みない・ささえない」という全くスポーツに関わっていない者も10.4%存在し、10代の人口から推計すると123万人※にのぼる。する・みる・ささえるのいずれの活動でもよいので、このような青少年がスポーツに関わるきっかけづくりが必要であろう。
また、「するのみ」タイプが42.5%、「する・みる」タイプが29.5%と、「する」と「する・みる」というスポーツ行動が全体の7割を占め、10代のスポーツライフはスポーツを「する」行動を中心に、それに「みる」行動が加わる構造となる。「ささえる」に着目すると、「ささえるのみ」タイプは0.3%にすぎず、「する・ささえる」タイプは4.4%、「みる・ささえる」タイプは0.1%と、スポーツをささえる文化が定着していない様子がうかがえる。
※10代人口11,836,576人(2014年1月1日現在の住民基本台帳に基づく)より推計
【図1】10代のする・みる・ささえるスポーツの構造
資料:笹川スポーツ財団「10代のスポーツライフに関する調査」2015
スポーツをする・みる・ささえる活動を行う10代にはどんな特徴があるのだろうか。運動・スポーツの好き嫌いとの関係を図2に示した。
「するのみ」タイプでは「好き」と回答した者は47.3%と半数にも満たないが、「する・みる・ささえる」タイプでは8割が「好き」と回答し、「どちらかというと好き」を含めると96%が運動・スポーツを好きと回答している。するだけでなく、みる・ささえるという活動も行っている10代の方がより運動・スポーツを好きと感じている。
一方、「しない・みない・ささえない」タイプは6割近くが嫌い(どちらかというときらい・きらい)と回答していた。
スポーツイベントへの興味関心度として、2020年の東京オリンピックを直接会場に行って観てみたいか(観戦希望)、またボランティアをしたいと思うか(ボランティア希望)との関連を図3に示した。
観戦希望率は「する・みる・ささえる」タイプが最も高く、63.2%が「そう思う」と回答した。「ややそう思う」も含めると8割近くが観戦してみたいと回答している。一方、「するのみ」タイプでは「そう思う」は28.5%であり、「ややそう思う」も含めても半数程度にとどまる。
ボランティア希望率は「する・ささえる」タイプが最も高く、28.0%が「そう思う」と回答した。次いで「する・みる・ささえる」タイプが24.3%と、ささえる活動を普段から行っている人たちの関心が高い。
このような結果から、多様なスポーツ活動をしている10代のほうが、スポーツイベントへの関心も高いと言える(2020年東京パラリンピックへの観戦希望・ボランティア希望についても同様の傾向であった)。特徴的なのは、「するのみ」タイプではオリンピックの観戦以上にボランティアへの関心は低いことである。ボランティアに対する関心は、普段のささえる活動の経験のある・なしがポイントとなると思われる。
図4にする・みる・ささえるのタイプ別にみた保護者のスポーツボランティア実施率を示した。「するのみ」タイプの保護者の実施率は45.2%であるのに対し、「する・みる・ささえる」タイプ、「する・ささえる」タイプの保護者では7割近くがボランティアの経験がある。
このような傾向は保護者の運動・スポーツ実施率やスポーツ観戦率との関係をみても同様であり、するのみならず、みる・ささえるも含めた多様なスポーツ活動をしている10代の保護者もまた、スポーツをしたり、みたり、ささえたりしている状況がうかがえる。
保護者は子どもにとって身近なロールモデルであり、子どものする・みる・ささえる活動を推進していく場合は保護者にも様々なスポーツの楽しみ方を知ってもらう機会をつくり、理解してもらうことが大切である。
10代のスポーツをする・みる・ささえる活動状況のなかで、「ささえる」文化が定着していない実態が示された。そこで、10代のスポーツボランティアの実施状況に着目した。
過去1年間にスポーツ活動の手伝いや世話など、スポーツ活動をささえるボランティア活動の有無をたずねたところ、行ったことがあると回答した10代は全体で15.0%であった。
また、図5に行ったスポーツボランティア活動の内容を示した。「スポーツの審判(以下、審判)」が49.4%と最も多く、次いで「スポーツイベントの手伝い(以下、イベント)」41.6%、「スポーツの指導や指導の手伝い(以下、指導)」33.9%となる。このように、青少年がスポーツボランティアとして行っている活動は、自身が所属するスポーツ少年団や運動部活動などのごく身近なスポーツ活動を通して行っているケースが多い。
図6にスポーツボランティア実施希望率を全体・学校期別に示した。「今後スポーツボランティアをやってみたい、または続けたいと思いますか」とたずね、「非常にそう思う」および「ややそう思う」を合計した割合となる。 全体では38.3%であり、スポーツボランティア実施者(15.0%)の2倍以上の青少年がスポーツボランティアをしてみたいと思っている。学校期別にみると中学生が最も多く、次いで高校生、大学生となる。
ボランティアの潜在的なニーズは高く、活動のきっかけをつくる、また継続してできる活動を提供することが必要となろう。
スポーツボランティアを実施した10代に対し、その活動は楽しかったかどうかをたずねた。「楽しかった」「どちらかというと楽しかった」を合わせた回答は、「指導」が最も多く9割を超える(図7)。「審判」「イベント」のいずれも8割近くを占め、スポーツボランティアを行った10代の多くが楽しさを感じている。
図8にスポーツボランティアをしてよかったことを示した。「人の役に立っていると感じた」が50.0%と最も多く、次いで「いろんな人と出会えた」「スポーツに対する知識や技能を得られた」であった。
また、「スポーツをもっとやってみたいと思った」「もっとスポーツを観たいと思った」という回答もみられることから、ささえる活動をきっかけとして青少年のする・みる活動への関心も高めていくこともできるのではないだろうか。
スポーツが文化として人々の生活に根付くためには、個人がスポーツを「する」だけではなく、「する・みる・ささえる」活動をバランスよく楽しめる社会の構築が不可欠である。しかし、わが国では「する・みる・ささえる」といった多様なスポーツ活動をしている10代は1割程度にとどまる。スポーツを「する」行動を中心に「みる」が加わる構造であり、「ささえる」はまだまだ定着していないことが課題として挙げられる。
スポーツ庁「第2期スポーツ基本計画」では、「する」「みる」「ささえる」といった多様な形での「スポーツ参画人口」の拡大を目指しており、2020年東京大会をはじめとするスポーツイベントを契機とした日常様々な場面で活躍するスポーツボランティア参画人口増加のための施策が示されている。しかし、青少年の「ささえる」については、大学でのスポーツボランティア育成の取り組みにとどまっており、スポーツボランティアへの関心が高い中学生や高校生に対するアプローチは示されていない。
スポーツにはいろんな楽しみ方があり、スポーツは苦手だけど少年団や地域のクラブなどの運営をささえる活動でスポーツと関わりたい、という子がいてもよい。ささえる活動(スポーツボランティア)を行った10代の多くは楽しさを感じ、また人の役に立っていることや人々との出会いを喜びとして感じていた。子どもたちのスポーツとの出会いに様々な選択肢を用意してあげることが必要である。
例えば、スポーツ少年団や地域のクラブで普段の練習や試合といった活動のほかに、スポーツ観戦や地域のボランティア活動も行ってはどうだろうか。多様なスポーツ活動をしている10代の保護者もまたスポーツをしたり、みたり、ささえたりしていることから、保護者も巻きこんだ活動にしていくのもよいだろう。すでに様々な活動を行っているクラブもあるが、多くのクラブでそのような取り組みが広がっていってほしい。
地域の多様な人たちと関わり、ささえ・ささえられる経験は子どもたちを大きく成長させる。子どもが主体的にスポーツに参加し、活動を継続できるような場を提供していくことが求められる。
笹川スポーツ財団 研究調査グループ スポーツライフ調査チーム/シニア政策オフィサー 武長 理栄
参考文献
最新の調査をはじめ、過去のスポーツライフ・データのローデータ(クロス集計結果を含む)を提供しています。
活用例
スポーツライフ・データ