ほんとうなのだ。大槌町には、スポーツをする場所もなければ、施設もほとんどないのである。役場を出て、大槌湾のほうを見下ろせば、な~にもない。かつて家やビルが密集していた町並みは津波で流され、こげ茶色の荒涼たる更地がひろがっている。
盛り土をする黄色のクレーン車とこげ茶色の大型トラックが動き、ぽつんと小さな自動販売機があるだけだ。
「景色は変わらないですね。復興は進んでいるはずなんですが…」と、平舘さんは小声で漏らした。
「3年経って、この風景ですから。がれきがなくなっただけですね。スポーツ好きな子にはたまらないと思います。土地がない。ほんとうに土地がないんです」
住宅や病院などの生活基盤の復旧が一番だろうが、ほんとうにそれでいいのか。町もJOCによるオリンピック・デー・フェスタや、笹川スポーツ財団によるチャレンジデーへの参加、ウォーキング大会などの独自事業を手掛けるが、全体として大槌町の子どもたちはスポーツをする機会を失い、平成25年度の全国体力・運動能力、運動習慣等の調査結果をみると、シャトルランや50メートル走、立ち幅跳びなどの平均は軒並み、全国と県の平均を下回っていた。
肥満傾向出現率も高まり、中学校では全国の約2倍の出現率となっている。もろ運動不足によるものだろう。
スポーツ環境の現状をみるため、平舘さんに学校の校庭に連れて行ってもらった。サッカー場がつぶされ、プレハブの2階建ての合同校舎がつくられた大槌中学校、大槌小学校。ちょうど放課後、中学生たちが雪でぐちゃぐちゃになった校庭にたたずんでいた。