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過去10年間における子どもの運動実施時間の推移

―「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」からみる「三間」の変化①―

2025年2月3日

過去10年間における子どもの運動実施時間の推移

1.子どものあそび環境の変化

 「三間」とは子どもの外あそびに関する「時間」「空間」「仲間」の3つの「間」を総称した言葉であり、子どもが自由にあそべる「時間」、道路や空き地、公園など自由なあそびができる物理的な「空間」、近隣に住む子どもや幼稚園、学校の友だちなど一緒にあそぶ「仲間」を意味する。「三間」は子どもが自由に外あそびをするためには重要な要素であるが、仙田(1992)はわが国の高度経済成長を期とした都市化によるあそび空間の縮小、核家族化、コミュニティの喪失によるあそび集団の減少など、子どもたちのあそび環境の変化を報告している。また、中村(2004)は山梨県内の小学校児童とその父母および祖父母約6,000人を対象とした調査で、外あそびの時間の減少、あそび空間の変化、あそび仲間の数が減少し大人世代が経験した外あそびは消失しつつあると指摘している。このように「三間」の減少は子どもの外あそびの長年の課題であり、文部科学省(2002)も子どもの体力低下の一因としている。しかしながら、近年では全国的な少子化の進行に加え各地域で都市化はより一層進み、共働き世帯や習いごとをする子どもの増加など、これまで以上に「三間」の確保が難しい社会へと変化している。そして追い打ちをかけるように新型コロナウイルス感染症が蔓延(以下、コロナ禍)し、友だち同士の交流が制限される時期があったなど、時代の経過とともに子どもが自由にあそべる環境への制約は大きくなっている。

 このような状況下において子どもの運動・スポーツ・運動あそびの実施環境がどのような変化をたどってきたか、「411歳のスポーツライフに関する調査」より、過去1年間に「よく行った」(実施回数の多い)上位5種目における「時間」:運動・スポーツ・運動あそびの実施時間の合計、「空間」:運動・スポーツ・運動あそびの実施場所、「仲間」:運動・スポーツ・運動あそびの主な実施相手の経年データをまとめ、「三間」の変化という視点で考えていきたい。

 本稿では「時間」について2013年から2023年までの推移を中心に考察する。なお、ここで示す運動実施時間は過去1年間に「よく行った」運動・スポーツ・運動あそび種目のうち、上位5種目の合計時間から1日あたりの時間を算出し、外れ値の影響を受けにくい中央値(全データを順に並べたときの中央に位置する値)を用いた。

2.子ども・青少年のスポーツライフ・データからみる時間の変化

 まずは411歳全体の推移をみてみよう。図1に示したとおり、1日あたりの運動実施時間を中央値でみると、2013年から2023年まで30分前後で推移している。なお、ここでの運動実施時間には学校での休み時間・クラブ・部活動は含まれるが、体育の授業や運動会・マラソン大会などの行事は含まれていない。したがって、小学生以下の子どもたちは授業以外で1日あたり30分程度の運動を行っていることがわかる。時系列でみると直近2023年の28.3分がこの10年間で最も低かった。2013年から2019年にかけては30分を超え、2017年の35.4分をピークとして2021年と2023年は30分を下回っている。2020年以降の減少はコロナ禍の影響とも読み取れるが、子どもの運動実施時間は全体として2019年頃から徐々に減少傾向にある。

 子どもの体力低下防止および運動実施率向上のため、厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」子ども版では、身体活動の基準や座りすぎ・スクリーンタイムの低減とともに、身体を動かす時間が少ない子どもは「何らかの身体活動を少しでも行うこと」が推奨されている。国際的には世界保健機関(WHO)が定める「身体活動及び座位行動に関するガイドライン(2020年)」によって、子どもは「中強度以上(3メッツ以上)の身体活動(主に有酸素性身体活動)を1日60分以上行うこと」が推奨されている。それぞれに基準が異なり単純な比較はできないが、いずれにおいても2019年以降の減少傾向は子どもの体力低下が懸念される要素である。

 

 性別の推移はどうだろうか。図2に示したとおり、1日あたりの運動実施時間を中央値でみると、いずれの年でも男子のほうが女子よりも長い。男子は2013年から2017年までは増加傾向にあったが、コロナ禍による影響を受けたと予想される2021年以降は大幅に減少し、ピーク時の2017年と比較すると10分程度短くなっている。一方、女子では男子のような大幅な変化はなく、2015年以降はゆるやかな減少傾向が続いている。

 男女差は2017年に最大で約16分の開きがみられたものの、その後は縮小傾向にあった。しかし2023年には男子の増加に対して女子は減少が続いたため、その差は再び開いている。

 

 さらに就学状況別の推移をみていこう。図3に示したとおり、1日あたりの運動実施時間の中央値は、未就学児から学年が上がるにつれて長くなる。未就学児では20分前後とほぼ横ばいで推移している。未就学児の場合は同伴する保護者のスケジュールに左右されやすいだけでなく、小学生に比べて行動範囲が限定的であったり、実施種目もおにごっこなどの運動あそびが中心で比較的に実施時間が長い競技スポーツが少なかったりするなど、複数の要因を伴って大きな変化が生じにくい実態があると考えられる。

 小学生においては、身体的成長によって体格とともに体力が向上し、実施種目の選択肢も増えることから、学年が上がるほど実施時間も長くなりやすいと予想される。学年別にみると小学12年と34年の推移はおおむね近似しており、ともに2017年をピークに減少傾向にある。相違点としてはコロナ禍にあった2021年の変化があげられる。小学34年では2019年から6.8分の減少となったが、小学12年ではほぼ変化がみられなかった。一方、小学56年では2013年から2019年まで40分以上で推移していたが、2021年は34.7分で2019年から8.2分の減少と変化がみられた。しかし2023年には40.6分と盛り返しており、休校や外出制限によるあそびの減少といった社会的制約による影響が大きかったと推察できる。

3.連関する3つの「間」

 「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」からみると、小学生以下の子どもたちの運動実施時間(学校の授業を除く)は、この10年間にわたって1日あたり30分程度で推移している。運動実施時間は全体として2019年ごろから減少傾向にあり、このまま継続すれば子どものさらなる体力低下につながる。特に女子では男子に比べて実施時間が短く、行動制限によって運動実施の機会が減ったはずのコロナ禍でも大きな変化はみられなかった。2023年では男女の時間差が再び開き始めており、性別による運動実施状況の違いは今後も注視していく必要がある。

 一方で学年が上がるほど実施時間は長くなる分、コロナ禍の影響も受けやすかったと推察できる。高学年になると行動範囲が拡大し、公園などの公共施設で友だちと集まって運動あそびをしたり、習いごとなどで競技スポーツを実施したりと空間や仲間によって実施時間が左右される可能性が高くなると予想される。

 これまでの「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」の分析によれば、幼児では男女ともにスポーツ系の習いごとが人気であるが、学年が進むにつれて女子は学習・文化系の習いごとへとシフトする傾向がみられている(武長 2018)。また、コロナ禍における子ども・青少年のスクリーンタイムの増加は顕著であり、コロナ以前から確認されていたスクリーンタイムの増加が一層加速したと指摘されている(城所 2022)。このように生活時間全体の変化が運動実施時間に与える影響も小さくないだろう。政策的にも「三間」の減少が社会問題として取り上げられて久しいが、ここで示した「時間」の変化は子どもの運動実施を取り巻く状況の一側面を捉えた結果にすぎない。その変化は実施場所やあそび相手の状況とも密接に関わっており、同じくスポーツライフ・データからみた「仲間」や「空間」の変化を合わせて多角的に捉えることで子どもの運動実施状況がより立体的にみえてくる。

<参考文献>

・城所哲宏(2022コロナ禍で子ども・青少年のスクリーンタイムはどのように変化したのか?

・仙田満(1992)子どもとあそび-環境建築家の目-,岩波新書

・武長理栄(2018習い事・スポーツクラブ活動状況からみる幼少年期の子どもの運動・スポーツ-「指導する」から「一緒に遊ぶ」活動へ-

・中村和彦(2004)子どものからだが危ない!-今日からできる からだづくり-,株式会社日本標準

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活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
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