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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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コロナ禍で子ども・青少年のスクリーンタイムはどのように変化したのか?

2022年12月7日

コロナ禍で子ども・青少年のスクリーンタイムはどのように変化したのか?

はじめに

私たちのスクリーンタイム(テレビやスマートフォンなど、電子機器を使う時間)は直近10年で大きく変化したと言われています。スマートフォンなどの電子機器は、私たちの生活を便利にしてくれる一方、使い過ぎによる心身への悪影響が数多くの研究で報告されています1)。こうした研究を踏まえ、カナダやオーストラリアなどの諸外国では、子ども・青少年における余暇のスクリーンタイムを「1日2時間未満」にすることを推奨しています2,3)

このようにコロナ以前から、子ども・青少年のスクリーンタイムの増加が報告されていましたが、コロナ禍に伴う様々な活動制限(ステイホームなど)により、この傾向が一層加速した可能性があります。本コラムでは、スポーツライフ・データを解析し4、コロナ禍で子ども・青少年(4歳~21歳)における余暇のスクリーンタイムがどのように変化したかを検討したいと思います。具体的には、諸外国におけるスクリーンタイムのガイドラインを参考に、余暇のスクリーンタイムが「1日2時間未満」の割合(ガイドライン達成者)を算出し、2017年以降、子どものスクリーンタイムがどのように変化したかを検討したいと思います。

 

スクリーンタイムガイドラインの達成率の年次推移(2017年~2021年)

①子ども・青少年(4歳~21歳)

まずは、子ども・青少年におけるガイドライン達成者の年次推移を示しました(図1)。結果、コロナ前(2017年および2019年)と比べ、コロナ禍(2021年)でガイドライン達成者が減少していることが確認されました。具体的には、平日において、2019年の達成者が51.2%だったのに対し、2021年は43.3%でした(7.9ポイント減少)。同様に、休日においては、2019年が28.2%だったのに対し、2021年では19.3%でした(8.9ポイント減少)。

②年齢別

 次に、年齢別の子ども(4歳~11歳)・青少年(12歳~21歳)におけるガイドライン達成者の年次推移を示しました(図2)。全ての調査期間において、子どもと比べ、青少年でガイドライン達成者が少ないことが示されました。また、コロナ禍の平日において、子どもと比べ、青少年でガイドライン達成者がより減少していることが確認されました(2019年から2021年の変化:子ども=4.3ポイント減少[66.8%-62.5%]、青少年=11.2ポイント減少[36.3%-25.1%])。一方、コロナ過の休日においては、子どもで10.1ポイント減少[39.8%-29.7%]、青少年で7.9ポイント減少[17.3%-9.4%]が確認されました。

③男女別

図3では、男女別にガイドライン達成者の年次推移を示しました。全ての調査期間において、女子と比べ、男子でガイドライン達成者が少ないことが示されました。また、平日においては、2019年から2021年にかけて、男女差が拡大している傾向が確認されました(男女差:2019年=3.0ポイント[52.7%-49.7%]、2021年=5.0ポイント[45.8%-40.8%])。一方、休日においては、男女ともにガイドライン達成者が減少し、約8割の子ども・青少年がガイドラインを達成できていないことが示されました。

④世帯収入別

 子どものスクリーンタイムは、家庭の社会経済状況の影響を受けることが報告されています。そこで、世帯収入別にガイドライン達成者の年次推移を検討しました(図4)。ここでは、世帯収入が「600万円以上」と「600万円未満」の2グループに分けて分析しました。結果、平日および休日ともに、「600万円以上の世帯」と比べ、「600万円未満の世帯」において、ガイドライン達成者が少ないことが明らかになりました。一方、コロナ前と比べ、コロナ禍において、2グループともにガイドライン達成者が減少したことが示されました。

都市規模別

 図5では、都市規模別にガイドライン達成者の年次推移を示しました。ここでは、「東京都区部」、「20大都市*1」、「人口10万人以上の市」に住んでいる子ども・青少年を「都市群」、「人口10万人未満の市」および「市町村」に住んでいる子ども・青少年を「その他の市町村群」に分類しました。結果、「その他の市町村群」と比較し、「都市群」において、コロナ禍でのガイドライン達成者の減少が顕著であることが示されました。具体的には、平日のガイドライン達成者の割合が、2019年では両群に差がなかったのに対し(ともに51.2%)、2021年では「その他の市町村群(46.2%)」と比べ、「都市群(41.7%)」で少ないことが明らかになりました。また、休日のスクリーンタイムに関して、2019年では「その他の市町村群」と比べ「都市群」で高かったのに対し、2021年には同程度であったことが示されました。

*1) 20大都市(札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市)

まとめ~「スクリーンタイム」から「グリーンタイム」へ~

 本コラムでは、2017年から2021年におけるスポーツライフ・データを解析し、コロナ禍で子ども・青少年のスクリーンタイムがどのように変化したかを検討しました。これまで、コロナ禍における子ども・青少年のスクリーンタイムの変化を報告した研究は国内外でいくつか散見されていますが5,6)、全国規模のデータを用いた研究結果は非常に限られていました。本調査より、コロナ禍における子ども・青少年のスクリーンタイムの増加は顕著であり、コロナ以前から確認されていたスクリーンタイムの増加が一層加速したことが推察されます。また、基本属性別(年齢別、性別、世帯収入別)の分析より、若干の違いはあるものの、全ての属性でガイドライン達成者の減少が認められました。つまり、属性を問わず、全ての層において、余暇のスクリーンタイムが増加していることが予想されます。一方、都市規模別の分析より、都市部に住んでいる子ども・青少年において、より大きな影響を受けた可能性が示されました。人が密集する大都市部においてコロナ感染者数が多かったことを踏まえれば、そうした地域に住んでいる子どもでは、より厳格な活動制限などに強いられ、余暇のスクリーンタイムが増加した可能性が考えられます。

 最近、学校現場から「スクリーンタイムのことについて話して欲しい」という依頼を頻繁にいただくようになりました。それだけ、現場の先生および保護者の方が気になっているテーマということなのでしょう。具体的な取り組みとして、「家庭内でルールを決める」、「寝る前は電子機器を使用しない」等、使用時間を減らす取り組み(≒使用制限)は一定の効果があると思います。一方、「スクリーンタイム以外の時間を増やす」という視点も大切です。ヒトは消極的な目標設定(使用制限など)よりも、肯定的な目標設定の方がモチベーションにつながるからです。また、私たちの時間は有限ですから(1日24時間)、スクリーンタイム以外の有意義な時間を増やすことで(外遊び、対面での交流など)、結果的にスクリーンタイムが減ります。

 近年、「グリーンタイム」という概念が注目されています。グリーンタイムは「自然の中で過ごす時間」と定義され、登山や森林浴などはもちろんのこと、校庭や公園で遊ぶこともグリーンタイムに含まれます7)。そして、自然の中で過ごすことは、身体活動量だけでなく、受光量(太陽の光を浴びること)の増加にもつながり、睡眠改善等の健康効果が期待できます。スクリーンが私たちの生活の一部になっている現代社会だからこそ、グリーンタイムの確保は今後ますます重要になるでしょう。

 最後に、「現在の子ども」は「将来の大人」であり、子どもの健康増進は、将来における社会全体の健康増進に寄与します。このように考えると、コロナ禍における子ども・青少年の電子メディア利用状況の悪化は、極めて深刻な問題であり、迅速な社会的対応が求められていると思います。

<引用文献>

1. Carson et al. Systematic review of sedentary behaviour and health indicators in school-aged children and youth: an update. Appl Physiol Nutr Metab, 41:S240-65.2016.

2. Tremblay et al. Canadian 24-Hour movement guidelines for children and youth: An integration of physical activity, sedentary behaviour, and sleep. Appl Physiol Nutr Metab, 41:S311-27, 2016.

3. Okely et al. A collaborative approach to adopting/adapting guidelines. The Australian 24-hour movement guidelines for children (5-12 years) and young people (13-17 years): An integration of physical activity, sedentary behaviour, and sleep. Int J Behav Nutr Phys Act, 19:2, 2022.

4. 笹川スポーツ財団. 子ども・青少年のスポーツライフ・データ2017~2021.

5. Trott et al. Changes and correlates of screen time in adults and children during the COVID-19 pandemic: A systematic review and meta-analysis. EClinicalMedicine, 48:101452, 2022.

6. Hyunshik et al. Change in Japanese children's 24-hour movement guidelines and mental health during the COVID-19 pandemic. Sci Rep, 11:22972, 2021.

7. Oswald et al. Psychological impacts of "screen time" and "green time" for children and adolescents: A systematic scoping review. PLoS One, 4;15(9):e0237725, 2020.

  • 城所 哲宏 日本体育大学体育研究所 助教
    専門分野:発育発達、運動疫学
    順天堂大学、英国ラフバラ大学大学院を経て、東京学芸大学大学院で博士号(教育学)を取得。子どもの身体活動・座位活動・体力・早期生活習慣病を研究テーマとした疫学調査に従事。調査研究に加え、学校環境に介入する研究も展開(例、スタンディングデスクの導入等)。子どもの身体活動・体力に関する国際共同研究を多数進行中(米国、英国、カナダ、豪州、ケニア等との国際共同研究)。順天堂大学スポーツ健康医科学研究所、国際基督教大学、明治安田厚生事業団体力医学研究所を経て、2021年4月より現職。
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活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード
年度

2022年度

担当研究者
  • 城所哲宏 日本体育大学体育研究所 助教