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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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職場における支援は運動・スポーツの取り組みにどう影響するのか

―ポストコロナ社会におけるスポーツとシームレスな職域の展開に向けて―

2023年5月23日

職場における支援は運動・スポーツの取り組みにどう影響するのか

 3年にわたる新型コロナウイルスの影響も引き続き看過できない状況ではありますが、少しずつ社会経済状況にも変化の兆しが見え始めています。感染症法における5類への移行に伴い、働き方もパンデミック前に近い形態へと戻る傾向がみられます1)。こうした“出社回帰”によってテレワークや在宅勤務の日数が減少し、子どもの通院や送り迎えに支障が出るなど子育てとの両立への負荷が高まる声2)も懸念されますが、勤労者自身の生活習慣にも影響を及ぼすことが予想されます。とくに深刻とみられる運動不足に関しては、職場における運動やスポーツ活動の定着に向けた支援の拡大やさらなる多様化が求められることになるのではないでしょうか。

広がる運動不足感、運動・スポーツとの距離が遠い勤労世代

 笹川スポーツ財団(以下SSF)が実施した「スポーツライフに関する調査」2022では、全体の約8割が運動不足を「感じる」と回答しています。長引くコロナ禍の影響もあってか、やはり多くの人が運動不足を感じているようです。また成人の週1回以上のスポーツ実施率は、2050代で全体よりも低くなっています。いわゆる働き盛りの人たちがとくに日頃、運動・スポーツの機会から遠ざかっている状況です。仕事や家事・育児に追われる勤労世代では、運動・スポーツを含む余暇活動に費やす時間が確保できないといった課題があります。

 そんな勤労者が運動やスポーツを始めるための機会やその後の習慣化に関しては職場での支援にも大きな期待が寄せられています。スポーツ庁も示しているように、健康的なライフスタイルを定着させるためには、一日の大半を過ごす職場において、運動・スポーツに親しむきっかけづくりを進めていくことが重要です。裏を返せば、運動・スポーツと職場が分断されている現状があり、その垣根を超えること=シームレス化が実施率を高める上で一つの大きなポイントとなるでしょう。たとえば最近では大手フィットネスクラブのコンビニ形態化も話題となりましたが、日々の仕事場が運動・スポーツに親しみやすい環境となればさらに多くの人が取り組める社会の実現へとまた一歩近づくことになります。

 そこで本稿では、同調査による統計データや具体的な事例を取り上げながらそのヒントを考えてみたいと思います。

運動・スポーツ「続かない」・「関心がない」…運動不足感とは裏腹に

 はじめに運動・スポーツの実施状況について「ここ1ヶ月間の運動・スポーツの取り組み(行動変容ステージ)」に着目してみましょう。回答をみると、継続的に実施をしている人(実行期+継続期)は全体の31.6%となっています[1]。前回(2020年)調査と比較すると2.7ポイントの増加となりましたが、コロナ禍を経て少しずつ社会活動を取り戻しつつある中でも運動実施率の大幅な改善はみられていません。

  さらに運動不足感との関連をみると、「感じる」層(とても感じる・少しは感じる)では無関心期(ここ1ヶ月間行っていないし、これから先もするつもりはない)~準備期(ここ1ヶ月間行っていないが近い将来(6カ月以内)に始めようと思っている)が比較的多く、「感じない」層(あまり感じない・まったく感じない)では継続期(ここ1ヶ月間週2回以上行っていて6カ月以上継続している)が多くなっています[1]。また「感じる」層のうち3割は無関心期が占めていることから行動変容がスムーズに進んでいない実態がうかがえます。

【表1】運動不足感と運動・スポーツの取り組みのクロス表

  ここ1ヶ月間の運動・スポーツの取り組み(行動変容ステージ)
無関心期 関心期 準備期 実行期 継続期 合計
運動不足感
(2区分)
感じる 727
31.1%
549
23.5%
496
21.2%
166
7.1%
403
17.2%
2341
100.0%
感じない 134
20.8%
33
5.1%
105
16.3%
30
4.7%
343
53.2%
645
100.0%

χ2=378.2 df=4 p<.001 V=.356

資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022

職場における支援は運動・スポーツの取り組みにどう影響するのか

 SSFでは2022年調査において新たに「勤め先でのスポーツや運動習慣の定着に向けた具体的支援」を調査項目に追加しました。回答をみると「支援がある」13.0%にとどまり、職場における支援の取り組みはまだ十分に広まっていないことがうかがえます。また「わからない」31.6%と支援そのものを認知していない人も一定数いることがわかります[2]。また『スポーツライフ・データ2022』において甲斐(2022)は、性や従業員数によって支援の有無に差があること、一方で性・年齢・社会経済的状況にかかわらず支援を受けている人の方が支援を受けていない人と比較してスポーツ実施率が高いことなどを明らかにしています3)

 このような状況において、職場における支援は運動・スポーツの取り組みにどのような影響を与えているのでしょうか。

 結果として支援「あり」では継続期が多く、無関心期が少ないことがわかります。反対に「不明」では無関心期が多く、継続期が少なくなっています。このことから職場における支援があることによって運動・スポーツに対して関心を持ちやすい、習慣化しやすいといった効果がうかがえます。一方で支援「なし」が行動変容にマイナスの影響を及ぼすとはいえないことや無関心期については支援の存在そのものが認知されづらいことから、職場と運動・スポーツの間に存在する見えない溝を反映しているのかもしれません[2]

【表2】勤め先における支援の状況と運動・スポーツの取り組みのクロス表

  ここ1ヶ月間の運動・スポーツの取り組み(行動変容ステージ)
無関心期 関心期 準備期 実行期 継続期 合計
勤務先支援 あり 45
17.6%
49
19.2%
65
25.5%
19
7.5%
77
30.2%
255
100.0%
なし 310
28.7%
226
20.9%
244
22.6%
62
5.7%
238
22.0%
1080
100.0%
不明 213
34.6%
145
23.6%
124
20.2%
33
5.4%
100
16.3%
615
100.0%

χ2=41.0 df=8 p<.001 V=.102   ※ 赤 :統計的に度数が多い/ 青 :統計的に度数が少ない

資料:笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」2022

職場における運動・スポーツ支援の取り組み-スポーツエールカンパニーの事例-

 こうした情勢を鑑み、スポーツ庁では従業員の健康増進のためにスポーツ実施に向けた積極的な取り組みを行っている企業を「スポーツエールカンパニー」として認定しています4)。具体的には、朝や昼休みなどに体操・ストレッチをするなどの運動機会の提供、階段の利用や徒歩・自転車通勤の奨励、またはスタンディングミーティングの実施など、スポーツ競技にとどまらず、従業員の健康増進のための積極的な取り組みが対象となります。

 認定数の推移をみると、2017年認定は217社でしたが、2023年認定は910社と年を追うごとに認定数は増加しています。日本総研の調査によれば、スポーツエールカンパニー認定企業の従業員等の運動実施率は一般的な同性・同年代の者の割合を上回っており、取り組みが従業員等のスポーツ実施に寄与しています5。また企業側の申請理由としては、従業員等の健康増進(精神面・身体面の改善)はもちろん、企業としてのブランディング(認知度向上、イメージアップ)や組織文化の醸成(部門内外のコミュニケーション活性化など)も上位に挙げられ、従業員だけでなく企業全体への派生的メリットにも期待されていることがうかがえます。

 スポーツエールカンパニーに認定されている企業では実際にどのような活動が行われているのでしょうか。代表的な取り組みとしては、ウォーキングなど定期的な運動イベントの開催、オンラインラジオ体操、加速度センサー付き歩数計の配布などが行われています。また医療福祉系の職場では健康づくりセミナーの開催、IT系の職場では自社開発アプリを用いた歩数集計など企業の強みや環境特性を活かした取り組みも行われています6

 しかしコロナ禍を背景にスポーツも個人化が進み、ランニングや筋力トレーニング、ヨガなど人数や場所による制約が小さく、気軽にできる種目への取り組みが増えています。その意味では職場を会社や役所、店舗などに限定せず、自宅等を含む広範な職“域”と捉えれば、より多様な支援の方法やアプローチの可能性も広がるでしょう。しかし、そうした取り組みへのハードルが高いのも事実です。再び日本総研の調査から、組織として運動・スポーツに取り組むことの効果をみると「従業員の企業への満足度や信頼感」が向上したと回答した企業は大規模(従業員数301名以上)が多い一方、「従業員の健康増進」が向上したと回答した企業は比較的小規模(従業員数300名以下)が多く、企業規模に応じて課題が異なる実態がみえます5)

2つの方向から考える運動・スポーツと職域のシームレス化

 スポーツエールカンパニーの認定はひとつの指標ではありますが、各々の企業が組織や従業員の実態に応じて可能な範囲や手法で取り組める支援を着実に実践に移していくことが大変重要です。冒頭でも述べたように、2050代の勤労世代において運動実施率が低い背景には運動・スポーツが職場と切り離されている現状があります。その課題解決策としての運動・スポーツと職域のシームレス化に向けて、ここでは大きく2つの方向からのアプローチを考えてみましょう[3]。1つは情報や知識の提供です。認定企業の取り組み事例にもあるような健康セミナーの開催や運動・スポーツの実践に向けた具体的な方法などを紹介することも効果的でしょう。こうしたソフト面のシームレス化は、表2で示した行動変容ステージの関心期や準備期にあたる人々に対してニーズが高いと考えられます。もう1つは場所・機会の提供です。こちらも同様に先行事例にあるような定期イベントの実施はもちろん、歩数計やウェアラブル端末の貸与など自発的な行動を促す方法も含まれるでしょう。こうしたハード面のシームレス化は、行動変容ステージの実行期や継続期にあたる人々に対してニーズが高いと考えられます。また日常的に関わる職域においてこうしたアプローチを積極的に行うことによって、無関心期の人に対しても興味や実践につながるチャンスが広がるでしょう。

【図3】運動・スポーツと職域のシームレス化イメージ

【図3】運動・スポーツと職域のシームレス化イメージ

 双方向からのアプローチはもちろんですが、いずれか一方からでもニーズに応じて取り組みを始めることで職場と運動・スポーツとの親和性を高めることが可能でしょう。しかしながら、支援にあたる人材やノウハウの不足など現実的な問題を抱えている企業も少なくないとみられます。スポーツエールカンパニー認定企業でも運動指導員や管理栄養士といった専門家と協働で取り組みを進めているケースもあり、必ずしも自社に限らず外部の機関とタッグを組んで取り組みを実現させることも効果的な成果を生み出すために必要となるでしょう。

<参考資料>

1) 株式会社帝国データバンク「新型コロナ「5類」移行時の働き方に関する実態調査」2023年4月24日.
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p230408.html

2) NHK NEWS WEB「新型コロナ5類移行で在宅勤務廃止 親たちが悲痛な声 転職希望大幅増|NHK|ビジネス特集」2023年4月21日17時22分.
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230421/k10014043881000.html

3) 甲斐裕子(2022)「健康経営はスポーツ実施に寄与しているか」『スポーツライフ・データ2022 スポーツライフに関する調査報告書』笹川スポーツ財団, pp.60-63.

4) スポーツ庁「スポーツエールカンパニー」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop05/list/1399048.htm

5) スポーツ庁「スポーツエールカンパニーの取組効果分析」(株式会社日本総合研究所/スポーツエールカンパニー認定事務局)2020年3月6日.
https://www.mext.go.jp/sports/content/20200331-spt_kensport01-000005194_04.pdf

6) スポーツ庁「スポーツエールカンパニー2022認定事業の取組事例」
https://www.mext.go.jp/sports/content/20220215-spt_kensport01-300000816_2.pdf

データの使用申請

最新の調査をはじめ、過去のスポーツライフ・データのローデータ(クロス集計結果を含む)を提供しています。

活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード
年度

2023年度

担当研究者