2024年12月5日
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2024年12月5日
笹川スポーツ財団では2023年6月から7月にかけて「子ども・青少年のスポーツライフ・データ(4~21歳のスポーツライフに関する調査)」を実施した。「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」2023では運動部活動への加入率や中学校期、高校期の活動状況、保護者の運動部活動への意識など運動部活動に関するさまざまなデータの掲載に加え、巻頭のトピックでは生徒のニーズを踏まえた運動部活動のあり方や地域連携・地域クラブ活動への移行(以下、地域連携・地域移行)についてまとめている。地域連携・地域移行を進めるにあたり当事者である生徒本人のニーズの把握は重要であるが、部活動運営において保護者の影響力が大きいことからも(中澤,2008、村本ら,2021)、保護者の意向への配慮も求められる。そこで本稿では保護者からみる運動部活動の活動頻度への希望と地域連携・地域移行に対する期待、不安などのデータを整理し、地域連携・地域移行の今後について検討した。
表1には中学校期の運動部活動について、「週あたりの活動日数」「土日の活動日数」「平日の活動時間」「土日の活動時間」の生徒本人の活動状況と希望に加え、運動部に所属する子どもをもつ保護者を対象に「保護者として、お子様の運動部活動はどの程度の活動頻度(日数)や活動時間が好ましいと思いますか。」とたずねた結果を保護者希望として示した。
週あたりの活動日数をみると、実際の活動状況(以下、実状)、本人希望、保護者希望いずれも「5日」の割合が最も高く、それぞれ46.0%、36.6%、35.9%であり、本人・保護者希望は実状よりも低い。一方、「6日」は実状18.3%、本人希望22.6%、保護者希望29.3%と本人・保護者希望が実状よりも高い値を示した。保護者希望が実状より11ポイント高いことからも、現状より活動日数が多くてもよいと考える保護者が一定数いると推察できる。
土日の活動日数は、実状、本人・保護者希望いずれも「1日」の割合が最も高く70%台であった。「0日」は本人希望が実状より7.2ポイント高く、「2日」は7.9ポイント低い。つまり、土日の活動日数は今よりも減らしたいと考える中学生が一定数いると推察できる。保護者希望は本人希望ほど実状との差はないが、「1日」は4.4ポイント高く、「2日」は4.6ポイント低い。また、本人希望とは「0日」で7.0ポイントの差がみられた。保護者も生徒同様に土日の活動日数は実状よりは少ないほうが好ましいと思う一方で、土日とも休むことに対して生徒ほど希望は高くない実態が明らかになった。
平日の活動時間をみるといずれも「1~2時間」の割合が最も高く、実状と本人希望にはほとんど差はみられない。保護者希望は「1~2時間」がほかよりも4ポイント程低く、「3~4時間」が3ポイント程度高いが大きな差はなかった。土日の活動時間は「3~4時間」が実状71.2%、本人希望59.7%、保護者希望68.9%で最も高い値を示したが、本人希望は実状より11.5ポイント低く、さらに「1~2時間」が13.2ポイント高いことからも、土日の活動時間は生徒本人の希望よりも長い状況が確認できる。一方、保護者希望は実状との差がほとんどなく本人希望との差が大きい。生徒本人は土日の活動時間を減らしたいが、保護者は現状の時間が好ましいと思っている。
注1)差①:AとBの差 差②:AとCの差 差③:BとCの差(%)。
注2)⇧⇩:5ポイント以上 ↑↓:3ポイント以上。
注3)回答に小数点があった場合は四捨五入した。
注4)休日の活動時間は土日に活動している者を集計の対象とした。
*0時間を除く
:そのカテゴリーで最も高い割合の項目
資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023
続いて高校期の運動部活動の活動状況を表2に示した。週あたりの活動日数をみると、「5日」が実状、本人希望、保護者希望において最も高く、それぞれ38.5%、35.6%、34.2%であった。実状と本人希望の差をみると、「6日」「7日」は実状よりも本人希望が低く、「4日」は本人希望が高い。高校期の週あたりの活動日数は生徒本人の希望よりも多い状況が確認できる。保護者希望では「3日」が本人希望よりも5.6ポイント低く、「4日」は本人希望より5.4ポイント、実状より12.9ポイント高い結果であった。
土日の活動日数をみると、「1日」が実状では53.4%、本人希望61.6%、保護者希望66.1%で最も高いが、実状と本人・保護者希望の割合には10ポイント前後の差がある。また、「0日」は実状より本人希望が9.4ポイント高く24.9%、「2日」は本人希望が17.4ポイント低く13.6%、保護者希望は10.4ポイント低く20.6%であった。現状では3割の生徒が土日とも活動しているが本人希望は1割強にとどまり、4人に1人の生徒は土日は休みたいと考えている。保護者希望も土日の活動日数は現状よりも少ないほうが好ましいと思う一方で、両日休みは実状よりも低く「1日」の割合が12.7ポイント高い。また、「0日」が本人希望よりも11.7ポイント低いことからも、一定数の生徒が土日は休みたいと思っているが、保護者としては運動部活動に所属するからには両日休むよりは土日のどちらか1日は活動してほしいという意向が確認できる。
活動時間をみると、実状、本人・保護者希望いずれも平日では「1~2時間」、休日では「3~4時間」の割合が高い。平日では「3~4時間」は実状より本人希望が11.0ポイント低いが、「1~2時間」は本人希望が9.2ポイント高い。休日は「3~4時間」「5時間以上」で本人希望が実状よりも5ポイント以上低く、「1~2時間」が10.2ポイント高い。平日、休日ともに実際の活動時間は生徒本人の希望よりも長い状況であることが読み取れる。保護者希望は平日、休日ともに実状との差がほとんどない一方、本人希望との差が大きく、平日の「1~2時間」では保護者希望が7.2ポイント低く、「3~4時間」では11.3ポイント高い。土日では「1~2時間」で保護者希望が10.1ポイント低く、「3~4時間」は6.5ポイント高い。本人希望からは平日・土日の活動時間を今よりも減らしたい意向をくみ取れるが、保護者としては現状の活動時間が好ましいという結果が明らかになった。
注1)差①:AとBの差 差②:AとCの差 差③:BとCの差(%)。
注2)⇧⇩:5ポイント以上 ↑↓:3ポイント以上。
注3)回答に小数点があった場合は四捨五入した。
注4)休日の活動時間は土日に活動している者を集計の対象とした。
*0時間を除く
:そのカテゴリーで最も高い割合の項目
資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023
表3には子どもが運動部に所属している保護者に対して「あなたは、お子様の運動部活動に対して何を期待していますか。」とたずねた結果を学校期別に示した。中学校期、高校期ともに「スポーツを楽しむ」が最も高く、それぞれ85.1%、76.5%であった。次いで「体力をつける」(中学校期73.4%、高校期69.9%)、「礼儀・マナーを身につける」(中学校期64.4%、高校期67.9%)、「チームワークを身につける」(中学校期62.6%、高校期62.8%)であった。学校期によって各項目の割合にやや違いはあるものの、保護者の運動部活動への期待は、「スポーツを楽しむ」が最も高く、大会での勝利や技術の習得といった結果や成果を求めるよりも、体力や礼儀・マナー、チームワーク、コミュニケーション能力の習得など、子どもの心身の成長に対する期待が大きいと考えられる。
資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023
ここまで、現状の運動部活動に対する希望や期待に関するデータを整理してきたが、本節では保護者に対して地域連携・地域移行に対する期待と心配や不安についてたずねた結果をまとめた。表4に示した中学生保護者の地域連携・地域移行に対する期待を子どもの運動部活動への加入状況別にみると、「専門的な指導が受けられること」が加入群、非加入群ともに最も高く、それぞれ56.8%、40.5%であった。加入群では「スポーツ技術の向上」46.3%、「教員の負担軽減につながること」43.2%が続き、非加入群では「教員の負担軽減につながること」36.7%、「子どものレベルに合った活動の実施」「学校部活動にはない新たな種目の活動の実施」が28.5%で続いた。加入群と非加入群の差をみると、「専門的な指導が受けられること」は16.3ポイント、「スポーツ技術の向上」は19.1ポイント加入群が非加入群よりも高く、子どもが運動部に加入している保護者は子どもが取り組む種目に対して今まで以上に専門性の高い活動を望む傾向が確認された。また、「他校の生徒との交流」も加入群が非加入群より14.4ポイント高く、活動が地域に移ることで交友関係の広がりを期待していると考えられる。一方、「学校部活動にはない新たな種目の活動の実施」は非加入群が加入群より7.9ポイント高く、同率で3番目に高い値を示した。
注1)加入群・非加入群:子どもの運動部活動への加入状況
注2) :割合の高い上位3項目
資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023
表5には中学生保護者の地域連携・地域移行に対する心配や不安を子どもの運動部活動への加入状況別に示した。加入群、非加入群ともに上位の項目は同じであり、「送迎や練習サポートなど時間的負担」が最も高く、それぞれ61.3%、51.9%であった。次いで「月謝や活動費など経済的負担」が加入群では57.5%、非加入群では50.6%、「事故やトラブルが起きた時の責任の所在」が加入群は27.9%、非加入群は28.5%であった。加入、非加入にかかわらず保護者自身の時間的、経済的負担や事故やトラブルへの対応に対する心配や不安が大きい。加入群、非加入群の差をみると10ポイント以上差がついた項目はなかったが、「送迎や練習サポートなど時間的負担」「月謝や活動費など経済的負担」「教職員との交流やコミュニケーションの減少」は子どもが運動部に所属する保護者のほうが心配や不安に感じる割合が5ポイント以上高かった。一方「子ども同士の人間関係への影響」は非加入群が加入群よりも8.3ポイント高い結果であった。
注1)加入群・非加入群:子どもの運動部活動への加入状況
注2) :割合の高い上位3項目
資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023
本コラムでは保護者からみた運動部活動の活動実態および地域連携・地域移行に対する期待や不安をデータで示してきた。運動部活動の活動実態については、保護者が好ましいと思う活動日数や時間は、生徒本人の希望よりも実状に近く、生徒と保護者の意向に違いが確認された。特に土日の活動は中学校期、高校期ともに生徒自身は今よりも減らしたいと考えているものの、保護者は高校期の土日の活動日数を除き現在の状況が好ましいと回答する傾向がみられた。また、運動部活動に対する保護者の期待は、「スポーツを楽しむ」が最も高く、技術の向上や大会での勝利よりも体力の向上のほか礼儀・マナー、チームワーク、コミュニケーション能力の習得など、運動部活動を通して心身の成長を期待する様子が明らかになった。さらに、中学校運動部活動の地域連携・地域移行への期待は、子どもが運動部に加入している場合は専門的な指導や技術の向上など、より高いレベルでの取り組みに期待を寄せる一方で、子どもが非加入の場合は子どものレベルに合った活動や新たな種目の実施への期待が高い傾向がみられた。地域連携・地域移行に対する心配や不安は、加入・非加入にかかわらず送迎や月謝など保護者の時間的、経済的負担に関する項目の割合が高い結果となった。
部活動の地域連携・地域移行に関して、スポーツ庁は2023~2025年度を「改革推進期間」と定め各地域でモデル事業が進められている。本稿では保護者視点で運動部活動の活動状況や地域連携・地域移行に対する期待や不安を明らかにしてきたが、部活動への保護者の影響力の強さやサポートの重要性を鑑みると、保護者の意向を踏まえた地域連携・地域移行に取り組む必要がある。「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」2023では、表1,2に示した生徒本人の希望に着目し、運動部活動への意識との関連を検証した結果、自由時間の少なさに不満を感じる傾向が確認された。さらに地域連携・地域移行が進み休日の活動に選択肢が増えた場合でも中学生の2~3割は休日に活動したくないと回答している。地域連携・地域移行は生徒のニーズを踏まえた検討が必要であるものの、スポーツ庁が示すように地域の実状に応じた早期の実現が必ずしも最適解とは限らない。たとえば、休日の活動日数や時間を減らしたり、兼部を可能にしたりするなど、現在の運動部活動の見直しにより生徒や教員、関係者にとってのメリットを見出せる可能性もあるだろう。
このように、報告書では生徒のニーズを踏まえた取り組みや、運動部活動の運用の見直しを提案してきたが、本コラムで示したように保護者視点で考えるとまた違った側面がみえてくる。活動頻度に関する意向や子どもの運動部への加入状況による地域連携・地域移行への期待の違いなど、保護者によって部活動に対する考えは多様である。さらに、学校ごとに部活動の方針は異なり、同じ地域内でもニーズが多岐にわたる可能性も考えられる。これまでの部活動運営と同様に保護者の理解やサポートは地域連携・地域移行を持続させるためには必要不可欠である。学校単位、地域単位で生徒と保護者の考えの違いや保護者が現在の部活動、地域連携・地域移行に何を期待しているのか、どのようなサポートならできるのかなど、保護者の意向の丁寧な把握が求められる。
参考文献
最新の調査をはじめ、過去のスポーツライフ・データのローデータ(クロス集計結果を含む)を提供しています。
活用例
スポーツライフ・データ
2024年度