2020年12月25日
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2020年12月25日
内閣府「青少年のインターネット利用環境実態調査」(2019)によると、スマートフォン(以下、スマホ)やパソコンなどでインターネットを利用する割合は、0~9歳で57.2%、10~17歳で93.2%である。スマホやタブレット端末などメディアの普及や通信速度の向上により、誰でも気軽にインターネットにアクセスできるようになった。メディアの普及やインターネット環境の充実は人々に便利で快適な生活をもたらしたが、それに伴う座位時間やスクリーンタイムの増加は心身の健康に悪影響があるとされ、近年、社会問題のひとつになりつつある。特に子ども・青少年の運動・スポーツ習慣や健康とスクリーンタイムとの関連については注目されており、わが国でも多くの研究が進んでいる。また、オーストラリアでは5~17歳のスクリーンタイムは1日2時間以内を推奨するなど、海外には子ども・青少年のスクリーンタイムに関するガイドラインを定めている国もあり、子ども・青少年の成長とスクリーンタイムの関係は世界的な関心事となっている。
本コラムでは、笹川スポーツ財団が隔年で実施している「4~21歳のスポーツライフに関する調査」において、2015~2019年にかけて継続してたずねた学校の授業や仕事以外でのテレビ視聴やパソコン、ゲーム、スマホなどのメディアの1日あたりの利用状況(以下、メディア利用時間)のデータを示し、子ども・青少年のメディア利用時間と運動・スポーツ実施状況との関連を検討していきたい。
調査では、4~21歳のメディア利用時間を、平日と休日に分けてたずねた。平日について、2019年の結果をみると、「1~2時間未満」「2~3時間未満」がいずれも24~25%で、約半数が1~3時間の利用時間になっている(図表1)。2015年からの推移をみると、3時間以上(「3~4時間未満」と「4時間以上」の合計)が17.0%から22.2%に増加し、「1時間未満」が31.3%から24.9%に減少しており、メディア利用時間の増加傾向がみられる。
2019年の休日のメディア利用時間は、「3~4時間未満」が17.9%、「4時間以上」が27.2%で、3時間以上が45.1%となり、全体の半数近い値となっている。2015年の3時間以上は35.6%であり、平日と同様、休日のメディア利用時間も増加している。
次に性別のメディア利用時間を図表2に示した。平日の男女を比較すると、「1時間未満」と3時間以上の割合は女子のほうが高い一方、1~3時間未満(「1~2時間未満」と「2~3時間未満」の合計)の割合は男子のほうが高い。男女で平日のメディア利用時間に違いがみられた。休日では、2時間未満(「1時間未満」と「1~2時間未満」の合計)の割合は女子のほうが高く、3時間以上の割合は男子のほうが高かった。平日と同様、休日でもメディア利用時間の男女差が確認された。
図表3には2019年の調査結果から、4~11歳の平日の1日あたりのメディア利用時間を全体・就学状況別・運動スポーツ実施頻度別に示した。全体では「1時間未満」の割合が36.7%で最も高く、1~3時間未満が51.4%と全体の半数を占めている。就学状況別にみると、2時間以上(「2~3時間未満」、「3~4時間未満」および「4時間以上」の合計)の割合は、未就学児から小学3・4年にかけて学年が上がるにつれて減少し、その割合は3割程度であるが、小学5・6年になると増加し、4割近くを占める。
図表4に示した運動・スポーツ実施頻度別にみると、「1時間未満」の割合は、非実施群が23.9%で最も低い。また、2時間以上の割合をみると、非実施群39.2%、低頻度群31.5%、中頻度群33.7%、高頻度群31.6%と非実施群が最も高く、運動・スポーツを実施していない者は、実施している者に比べて平日のメディア利用時間が長くなっている。
実施頻度群 | 基準 |
---|---|
非実施群 | 過去1年間にまったく運動・スポーツをしなかった(0回/年) |
低頻度群 | 年1回以上週3回未満(1~155回/年) |
中頻度群 | 週3回以上週7回未満(156~363回/年) |
高頻度群 | 週7回以上(364回以上/年) |
資料 笹川スポーツ財団「4~11歳のスポーツライフに関する調査」2019
図表5には4~11歳の休日のメディア利用時間を示した。全体では「2~3時間未満」27.2%が最も多く、「1~2時間未満」を合わせた1~3時間の割合が48.8%となる。また、3時間以上の割合が31.2%と平日(10.0%)を大きく上回っている。就学状況別にみると、3時間以上の割合は、未就学児24.1%、小学1・2年27.4%、小学3・4年30.0%、小学5・6年40.1%と学年が上がるにつれて高くなっている。
運動・スポーツ実施頻度群別にみると、「1時間未満」の割合は、非実施群10.9%、低頻度群19.9%、中頻度群17.3%、高頻度群16.0%と非実施群で低くなっており、運動・スポーツをしていない子どものほうがメディアに触れる時間が長い状況がうかがえる。
4~11歳の運動・スポーツ非実施群は実施群と比べ、平日・休日ともにメディア利用時間は長い。非実施群は、運動・スポーツに使っていない分の余暇時間をメディア利用に充てているのかもしれない。一方、実施群では頻度が増加するほどメディア利用時間が減少するといった傾向はみられず、本調査においては、4~11歳の子どもの運動・スポーツ実施頻度とメディア利用時間の関係は示されなかった。幼少期からの過度なメディア利用は、運動・スポーツ習慣や健康に悪影響を及ぼす可能性がある。保護者の関与のもと、子どもが適切なメディア利用時間を守れるよう意識づける必要がある。
図表6に2019年調査における平日のメディア利用時間を全体・学校期別・スポーツ実施レベル別に示した。全体では、1~3時間未満が46.8%と全体のほぼ半数を占めるとともに、3時間以上が33.2%となっており、4~11歳と比べてメディア利用時間が長くなっている。学校期別にみると、2時間以上の割合は中学校期45.4%、高校期61.8%、大学期74.7%と学校期が進むにつれて高くなる。
図表7に示した運動・スポーツ実施レベル別にみると、2時間以上の割合が、「レベル0」65.1%、「レベル1」68.4%、「レベル2」62.3%、「レベル3」59.2%、「レベル4」49.0%とレベルが上がるにつれて低くなる傾向がある。また、「1時間未満」の割合は、レベルが上がるにつれて高くなっており、運動・スポーツ実施レベルが上がるほどメディア利用時間が短くなる傾向がある。
実施レベル | 基準 |
---|---|
レベル0 | 過去1年間にまったく運動・スポーツをしなかった(0回/年) |
レベル1 | 年1回以上、週1回未満(1~51回/年) |
レベル2 | 週1回以上週5回未満(52回~259回/年) |
レベル3 | 週5回以上(260回以上/年) |
レベル4 | 週5回以上、1回120分以上、運動強度「ややきつい」以上 |
資料 笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2019
図表8に示した休日のメディア利用時間をみると、全体では「4時間以上」が38.6%と最も多く、また、「1時間未満」の割合は5.5%と全体の1割に満たない。平日と比べて休日は長時間メディアを使用する者の割合が大きくなっている。学校期別にみると、3時間以上の割合が、中学校期49.5%、高校期61.3%、大学期63.5%と学校期が上がるにつれて高くなっている。
運動・スポーツ実施レベル別にみると、3時間以上の割合が、「レベル0」61.6%、「レベル1」63.5%、「レベル2」59.7%、「レベル3」55.5%、「レベル4」51.5%となっており、平日と同様、運動・スポーツ実施レベルが上がるにつれメディア利用時間は減少する傾向が確認できる。
中学校期から大学期にかけての定期的な運動・スポーツの実施は、学校の運動部活動や同好会・サークル活動が中心になると考えられる。本調査において、青少年期における運動・スポーツ実施のレベルとメディア利用時間の関連性が示唆された点は興味深い。小学校までと比べて、余暇活動時間を主体的に決められる青少年に対し、過度なメディア利用の抑制を呼び掛けるのは容易ではない。しかし、これから大人になる青少年の生涯にわたる健康の維持・増進を考えた時、教育機関や行政だけでなく、メディアを通じてサービスを提供する事業者にも、節度あるメディア利用を推奨する取り組みが求められる。
子ども・青少年のメディア利用時間は2015~2019年にかけて増加傾向にあり、特に休日はその傾向が強くみられた。また、2019年の4~21歳の平日と休日のメディア利用時間を学年・学校期、運動・スポーツ実施状況別に分析した結果、余暇時間が長い休日は、平日よりもメディア利用時間が長くなることや、運動・スポーツを実施する子ども・青少年は、しない者よりもメディア利用時間が少ないことが確認された。メディアの普及により、誰もがスマホやタブレット端末を使うようになった今、5Gの普及による通信環境の高速化とコンテンツの充実は、子ども・青少年のメディア利用時間をさらに増加させるかもしれない。わが国では諸外国のようにメディア利用時間に関するガイドラインを政府は示しておらず、テレビやパソコン、ゲーム、スマホなどのメディアを使用する頻度や時間は利用者自身に委ねられている。長時間の過度なメディア利用は、運動・スポーツ習慣や心身の健康に悪影響を与える可能性があることを多くの人が認識する必要がある。
総務省「情報通信白書」(平成30年版)によると、2010年頃から普及し始めたスマホの2017年の個人保有率は全体で60.9%、6~12歳30.3%、13~19歳79.5%と中学・高校生年代の約8割は個人で保有している。スマホは、中学生以上の青少年において、家族や友人とのコミュニケーションツールとして必需品となっている。さらに、小学生以下の子どもをもつ親世代にあたる20~40歳代のスマホ個人保有率は、20歳代94.5%、30歳代91.7%、40歳代85.5%と高く、小学生以下の子どもにとってもスマホは身近な存在になりつつある。
近年ではスマホやタブレットを育児に利用する「スマホ育児」という言葉があるように、育児ツールとしても活用されている。スマホ育児は子どもに悪影響があるという意見もあり、育児にスマホを利用しても良いのか判断に迷う保護者は少なくないだろう。筆者自身もそのひとりである。その一方で、子どもの発育をサポートする知育アプリやさまざまな動画を気軽に視聴でき、子どもの好奇心を高める効果も期待できるなど、スマホ育児ならではのメリットもある。スマホ育児は、使いようによっては効率的に家事をこなせたり、外出先でのストレスを軽減したりと、親子にとってプラスになる面も多い。使い過ぎや渡しっぱなしなど、スマホに頼りすぎる育児は子どもの成長に悪影響を及ぼしかねないため、活用が効果的な場面を見極めて適切な頻度と時間で利用する必要があるだろう。
子ども・青少年の運動・スポーツにおいても、スマホやタブレットなどのメディアは有効活用できる。例えば、質の高い指導者による解説動画やリモート指導の活用により、日々の練習の質や技術、体力の向上が可能となる。使い方によっては、現在課題となっている学校運動部活動における専門的指導者不足の解消や、非効率な練習方法の改善などにも活かすことができると考えられる。
スポーツ庁の第2期「スポーツ基本計画」(2017)では、中学生のスポーツ嫌いを16.4%から8%に半減させる目標が示され、スポーツ庁は「子ども・青少年の運動・スポーツ離れ」の対策として、さまざまな取り組みを行っている。WEB配信されているスポーツに関する動画やスマホアプリなどの有効活用によるメディアとスポーツの共存は、子ども・青少年がスポーツの魅力に気づくきっかけや、スポーツを楽しむための幅広い情報や知識を与え、子ども・青少年の運動・スポーツ離れに歯止めをかける効果も期待できるのではないだろうか。
スクリーンタイム(メディアを利用する時間)が増えることを忌避し、子ども・青少年をメディアから遠ざけるのではなく、最新のテクノロジーを、彼らの心身の健全な発達や体力・運動能力の向上に積極的に活かす創意工夫と行動が、運動・スポーツに関わるすべての人に求められているのかもしれない。
参考文献
最新の調査をはじめ、過去のスポーツライフ・データのローデータ(クロス集計結果を含む)を提供しています。
活用例
スポーツライフ・データ
2020年度
子ども・青少年のメディア利用時間は2015~2019年にかけて増加傾向にあり、特に休日はその傾向が強くみられた。また、運動・スポーツを実施する子ども・青少年は、しない者よりもメディア利用時間が少ないことが確認された。
スクリーンタイム(メディアを利用する時間)が増えることを忌避し、子ども・青少年をメディアから遠ざけるのではなく、最新のテクノロジーを、彼らの心身の健全な発達や体力・運動能力の向上に積極的に活かす創意工夫と行動が、運動・スポーツに関わるすべての人に求められているのかもしれない。