笹川スポーツ財団(SSF)では、2022年11月28日~12月7日に、「あなたが選ぶ!2022年スポーツ重大ニュース&活躍したアスリート」のWEBアンケートを実施しました。ご協力いただきまして、誠にありがとうございます。
昨年に続き猛威を振るった新型コロナウイルス感染症。スポーツイベントの中止・延期もある一方で、観客を入れて開催する競技も多くなりました。2月の2022年北京オリンピック・パラリンピック大会では、日本人選手の活躍に大いに沸き、北京2022大会関連のニュースとアスリートが、アンケート結果でも上位に複数入りました。そんな中、冬季オリンピックのフィギュアスケートで、2大会連続金メダルを獲得した羽生結弦がプロ転向を表明し、多くの人々の印象に残ったようです。そして、昨年に続き投打の二刀流で大活躍をみせたメジャーリーグ・エンゼルスの大谷翔平。2022年の活躍したアスリートで、堂々の1位となりました。
あなたが選ぶ 2022年 スポーツ重大ニュース 投票結果
2022年7月、決意表明記者会見での羽生結弦(photo:三船貴光/フォート・キシモト)
昨年に続き二刀流で大活躍した大谷翔平。(photo:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
1. 昨年に続き、コロナ禍で不安な幕開け
【調査・研究】小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査研究2021(速報値)
2022年、年が明けても依然として新型コロナウイルス感染症「オミクロン株」の猛威が続く。感染者数が増え、1月21日、東京や愛知など13都県にまん延防止等重点措置が適用された。箱根駅伝やニューイヤー駅伝、全国高校サッカー選手権などが開催される一方、全国都道府県駅伝(男子)や柔道の講道館杯、日本車いすバスケットボール選手権大会などは中止・延期となり、まだまだ不安が残る2022年のスタートとなった。
2月に入り、小児(5~11歳)のワクチン接種が公的な接種が始まる。子どもの感染拡大防止、健康問題が懸念される中、SSFでは、子どものスポーツ活動における保護者の関与・負担に関する調査結果を発表。コロナ禍で子どもがスポーツを楽しむ機会が危機にさらされ、活動内容も変化した。しかし、子どものスポーツにおける保護者の関与という観点では、「練習の指導」などの一部の項目を除き、家庭内でのサポート、団体内でのサポート、いずれも母親中心の関与が続き、しかもそれらは祖父母世代から続いている可能性が示唆された。
2. 北京2022大会とロシアによるウクライナ侵攻
北京2022大会、スノーボード 男子 ハーフパイプで金メダルを獲得した平野歩夢(photo:藤田孝夫/フォート・キシモト)
2月4日、2022年北京オリンピック、3月4日に2022年北京パラリンピックが開幕。東京2020大会同様、日本選手の連日の活躍は私たちに大きな力を与えてくれた。しかし、この時期にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、世界に大きな衝撃が走る。スポーツ界では、北京パラリンピックなど国際大会中心にロシアを参加させない措置をとり平和を訴えた。
【調査・研究】子ども・青少年のスポーツライフ・データ 2021
3月、声出し応援などの制約があるものの、プロ野球が観客上限を撤廃し開幕するなど、「Withコロナ」の中で、スポーツ界が徐々にコロナ禍以前の姿を取り戻すべく歩を進めていく。そして4月に第3期スポーツ基本計画がスタート。東京2020大会のレガシーの継承やスポーツの価値を高めるための施策などが掲げられた。スポーツ庁は、部活動の地域移行において、公立中学校の部活動における休日の運営主体を学校から地域の外部団体に移行する提言を発表。また、全日本柔道連盟が、過度な勝利至上主義などを背景に小学生の全国大会廃止を決定するなど、スポーツ界は新たな局面、大きな転換期を迎えることとなった。
SSFでは「子ども・青少年のスポーツライフ・データ2021」の調査結果を発表。コロナ禍での子どもの運動・スポーツ実施状況とともに、新調査項目「心の健康」において、高頻度・高強度で運動・スポーツを行う者ほど、抑うつ症状が少ない傾向であることなどを示した。
4. 東京2020大会から1年。共生社会の実現を目指す。
【調査・研究】障害者専用・優先スポーツ施設に関する研究2021
東京2020大会から1年、東京2020大会組織委員会が約8年の活動を終了。東京2020大会のレガシー創出を加速させようとした矢先、組織委員会元理事の汚職事件が発覚し、複数の関係者が逮捕される事態となった。11月にスポーツ庁が再発防止のためのプロジェクトチームを発足させている。
スポーツ界に暗い影が落とされる中、SSFは共生社会の実現に向け、障害者スポーツ環境の実態を調査。2010年の調査開始以来、障害者専用・優先スポーツ施設が最多となる150あることを明らかにするとともに、障害者の施設利用者数が2012年から約250万人で推移するも、コロナ禍の2020年度は98万人に減少したことを把握。障害児・者の運動・スポーツの日常化に向けて、障害者専用・優先スポーツ施設を中心に地域の社会資源とのネットワーク化の重要性に言及した。
5. 国内外でのアスリートの活躍で再確認した、スポーツの力
渡邉団長を先頭に代表ウエアを身に纏い、 ひと際大きな歓声に包まれる日本選手団
昨年に続き、メジャーリーグ・エンゼルスの大谷翔平が活躍した。1918年のベーブ・ルース以来となる、2桁勝利と2桁本塁打を104年ぶりに達成。ボクシングでは、バンタム級の井上尚弥が日本人初の3団体統一王者に輝いた。また、世界陸上オレゴン大会や、4年に一度開催されるワールドゲームズ2022でも日本人アスリートが活躍。さらに、サッカーのワールドカップカタール大会で日本代表が2大会連続のベスト16進出を果たすなど、日本国内は熱狂に包まれた。感動し勇気をもらった人も多かったはずだ。
SSFでは10月に、最新の「好きなスポーツ選手2022」を発表。大谷翔平が圧倒的1位に輝き、井上尚弥が4位と初の上位にランクインした。また、ワールドゲームズ2022では、SSFは日本事務局として運営に携わり、理事長の渡邉がJWGA副会長として、日本選手団団長を務めた。
6. より良いスポーツ政策形成、地域スポーツ推進のために
2011年に、それまでのスポーツ振興法が改正されスポーツ基本法が施行され、約10年が経過した。4月には第3期スポーツ基本法がスタートし、2023年度から、休日の運動部活動については、段階的に地域のスポーツクラブなどに移行する。
スポーツ政策は、移り行く時代の中で、さまざまな課題を解決するために大きな貢献をしてきた。その一方で、スポーツの価値と真価が問われているのも事実である。スポーツが人々の心身の健康や社会的幸福の実現のために果たすべき役割「ウェルビーイング」、少子高齢化社会など山積する社会課題をスポーツで解決していくことなどが、より求められている。
SSFでは、より良いスポーツ政策形成、地域スポーツ推進のために積極的な政策提言、自治体との共同研究などを加速させる。そして健康寿命の延伸、共生社会など「スポーツによって長くアクティブに生きられる社会」の実現に向け、日々の研究活動を行っている。
佐野 慎輔
(尚美学園大学 教授/産経新聞 客員論説委員/笹川スポーツ財団 理事)
部活動改革のカギは地域スポーツ改革
澁谷 茂樹(笹川スポーツ財団 シニア政策アナリスト)
3月、第三回スポーツ基本計画が策定された。第二期計画の良い部分を踏襲しながら、
1)スポーツを「つくる/はぐくむ」
2)「あつまり」、スポーツを「ともに」行い、「つながり」を感じる
3)スポーツに「誰もがアクセス」できる
という新たな視点を盛り込み、東京2020大会のスポーツ・レガシーの発展にも言及している。一般のスポーツ愛好者には少々難しい内容かも知れないが、わが国のスポーツの現状と課題を的確に整理し、今後目指すべき方向性を示したこの計画を、一人でも多くの人に読んでもらいたい。スポーツ推進は、国や地方自治体のスポーツ行政だけではなく、スポーツに関わるすべての人が協力してはじめて、確かな成果を残すことができるといえる。
第三期基本計画と並ぶ2022年のスポーツ政策の大きな動きとして、部活動の地域移行があげられる。2021年10月に始動した「運動部活動の地域移行に関する検討会議」は、今年6月に提言をまとめた(検討会議には、当財団の吉田智彦シニア政策ディレクターも委員として参加)。2025年度末を目途に、公立中学校の運動部活動を段階的に地域に移行し、その後さらに平日の地域移行につなげていくという運動部活動の抜本的改革の方向性が提言で示された。これにより、一部の自治体でも地域移行に向けた準備が本格化している。
提言にも書かれているが、部活動の地域移行を着実に進めるためには、学校の部活動に留まらず、各市町村の地域スポーツ環境の整備充実が不可欠である。学校教員や地元競技団体関係者など、限られた組織・人材で制度設計を拙速に進めれば、地域移行は上手く行かず、子どもたちのスポーツ種目の選択肢の縮減や、運動の苦手な子どもたちの体力低下問題の更なる深刻化など、将来に大きな禍根を残すことも懸念される。
当財団では、2023年以降、子ども・青少年のスポーツライフに関する調査(スポーツライフ・データ)や子どもの保護者の調査の知見、宮城県角田市をはじめとする地方自治体との実践連携の取組みを活かしながら、部活動の地域移行を契機とする地域スポーツ改革に取り組んでいく予定である。
将来、2022年は日本のスポーツ推進のターニングポイントと言われるようになるかもしれない。部活動改革は、それほどに影響の大きい政策の転換である。
調査概要
- 調査方法
- インターネット調査(SSFウェブサイト、Twitter、Facebook)
- 調査時期
- 2022年11月28日~12月7日
- 有効回答数
- 5,216票