笹川スポーツ財団(SSF)では、2021年12月10日~12月19日に、「あなたが選ぶ!2021年スポーツ重大ニュース&活躍したアスリート」のWEBアンケートを実施しました。ご協力いただきまして、誠にありがとうございます。
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
笹川スポーツ財団(SSF)では、2021年12月10日~12月19日に、「あなたが選ぶ!2021年スポーツ重大ニュース&活躍したアスリート」のWEBアンケートを実施しました。ご協力いただきまして、誠にありがとうございます。
アメリカンリーグ最優秀選手(MVP) を獲得した大谷翔平選手が「あなたが選ぶ 2021年スポーツ重大ニュース・活躍したアスリート」ともに1位 写真:スポニチ/アフロ
1. 2021年印象に残ったスポーツ関連ニュースを教えてください | |
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1位 | 【野球】メジャーリーグ、エンゼルスの大谷翔平がア・リーグ最優秀選手(MVP)獲得。球宴で史上初の二刀流出場など大活躍。 |
2位 | 【2020東京大会】卓球混合ダブルス、水谷隼・伊藤美誠ペアが日本卓球史上初の金メダル獲得 |
3位 | 【ゴルフ】マスターズ、松山英樹が日本人初のメジャー制覇 |
4位 | 【コロナとスポーツ】1都3県に緊急事態宣言。スポーツイベント・大会は、中止、延期、無観客開催、観客上限設定での開催に。 |
5位 | 【水泳】競泳日本選手権、池江璃花子が4冠。東京2020大会出場へ。白血病から復活。 |
6位 | 【2020東京大会】新型コロナウイルス感染拡大の影響受け、無観客開催が決定 |
7位 | 【2020東京大会】7月23日、東京オリンピック開幕。パンデミックによる1年延期、日本選手団は過去最多の582名。 |
8位 | 【2020東京大会】柔道、阿部一二三・詩が兄妹で史上初の同日金メダル |
9位 | 【2020東京大会】女子バスケットボール、日本代表が銀メダル獲得。史上初。 |
10位 | 【2020東京大会】車いすテニス、国枝慎吾が2大会ぶり3度目の金メダル獲得 |
順位 |
2. 東京オリンピックで 活躍したと思うアスリート |
3. 東京パラリンピックで 活躍したと思うアスリート |
4. 2021年、活躍したと思うアスリート ※2020東京大会以外 |
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1位 | 伊藤美誠(卓球) | 国枝慎吾(車いすテニス) | 大谷翔平(野球) |
2位 | 水谷隼(卓球) | 車いすバスケットボール男子日本代表 | 羽生結弦(フィギュアスケート) |
3位 | 橋本大輝(体操) | 杉村英孝(ボッチャ) | 宇野昌磨(フィギュアスケート) |
4位 | 堀米雄斗(スケートボード) | 上地結衣(車いすテニス) | 松山英樹(ゴルフ) |
5位 | ソフトボール日本代表 | 車いすラグビー日本代表 | 鍵山優真(フィギュアスケート) |
6位 | バスケットボール女子日本代表 | 木村敬一(競泳) | 坂本花織(フィギュアスケート) |
7位 | 阿部詩(柔道) | 鈴木孝幸(競泳) | 大坂なおみ(テニス) |
8位 | 阿部一二三(柔道) | 杉浦佳子(自転車) | 照ノ富士(大相撲) |
9位 | 大橋悠依(競泳) | 道下美里(陸上) | 八村塁(バスケットボール) |
10位 | 池江璃花子(競泳) | 河本圭亮・高橋和樹・田中恵子(ボッチャ) | 山本由伸(野球) |
▶無観客で開催されたプロ野球パリーグの試合
2021年1月7日、1都3県に出された緊急事態宣言が、1月13日には11都府県に拡大。年が明けても新型コロナウイルス感染者数は増加の一途をたどり、スポーツ界においても、イベント・大会の中止や延期、無観客開催などが相次いだ。そして、パンデミックにより史上初めて延期となった2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催も危ぶまれる中、スポーツ界は一丸となって感染症対策に注力し、この未曽有の危機に立ち向かった。
▶第97回 日本選手権水泳競技大会、女子100mバタフライで東京2020大会出場を決めた池江璃花子 写真:フォートキシモト
東京2020大会組織委員会は、3月に海外観光客の受け入れ断念を、7月には無観客開催を決定する。その間、競泳日本選手権で池江璃花子が4冠を達成、白血病から復活し東京2020大会への出場を決めた。ゴルフのマスターズでは松山英樹が日本人初のメジャー制覇、メジャーリーグベースボール(MLB)ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平が球宴で史上初の二刀流出場を果たすなど、コロナ禍で不安と閉塞感が大きくなる社会に、一筋の光が差し込んだ。2021年6~7月にSSFが実施した、青少年(12~21歳)の「好きなスポーツ選手」調査では、1位が大谷翔平、池江璃花子が初の上位にランクインした。
この時期、選考が遅れていた東京2020大会の日本代表選手も続々と決定し、2020東京大会開幕に向けて機運が高まる。
▶橋本聖子氏 (東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 会長、写真は北海道札幌マラソンフェスティバル2021より) 写真:フォートキシモト
2月、2020東京大会組織委員会では新会長に橋本聖子氏が就任し、森喜朗氏が辞任。「ジェンダー平等推進チーム」が発足するなど組織の改革が進み、理事の女性比率が20%から42%に。6月、改選期を迎えた競技団体では、日本オリンピック委員会(JOC)は山下泰裕会長が再選する中、新理事の女性の割合が40%以上に、日本フェンシング協会はタレントで元陸上競技選手の武井壮氏が会長に就任するなど、各競技団体に変化が見られた。
7月に公表した、SSF「中央競技団体現況調査 2020」においても、「女性役員が存在しない団体」の割合は2014年度19.1%、2016年度17.7%、2018年度11.1%、2020年度11.5%と減少傾向にあることがわかった。一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大により半数以上の競技団体で大きな減収である現状が浮き彫りとなった。ポスト東京2020を見据えた組織運営・経営強化が競技団体に必要になってくる。
1年延期、無観客開催、バブル方式などの感染症対策など、歴史上経験したことがない難局を乗り越え、7月23日に東京オリンピック、8月24日に東京パラリンピック大会がついに開幕した。会場での観戦は叶わなかったものの、多くの人がテレビやインターネットで世界のトップパフォーマンスや己の限界に挑戦する姿を目の当たりにし、連日の日本選手の活躍で国中が感動と興奮に包まれた。結果は、オリンピックでは史上最多、パラリンピックでは史上2番目のメダルを獲得し、日本中に勇気を与えた。また、大会を支え、その活動が海外選手からも賞讃されたボランティアの活躍も東京2020大会の印象的な出来事である。
東京2020オリンピック開会式では、大坂なおみ選手が聖火リレーの最終走者を務めた 写真:フォートキシモト
東京2020パラリンピック、史上初の銀メダルを獲得した車いすバスケバスケット男子日本代表の藤本怜央(左)、鳥海連志(右) 写真:フォートキシモト
東京2020大会が終わり、9月以降ワクチン接種が進み新型コロナウイルス感染者数は減少傾向にある。日本のスポーツ推進がどう進むのか。国立競技場の球技専用化見送りと陸上トラック存続、東京都がパラリンピック選手を公立校教員に採用する方針を発表するなど、東京2020大会のレガシーとなるであろう動きが見られた。国では、2030年以降を見据えたスポーツ政策のあり方、スポーツ施策の具体的な方向性を示す第3期スポーツ基本計画取りまとめを進め、骨格が固まりつつある。
こうした中、SSFで1992年から隔年実施している「スポーツライフに関する調査」において、これまでの調査に加え新たに健康増進の項目も追加。週1回以上の運動・スポーツ実施率が調査開始以来最高の59.5%を記録した一方、日本人の日常生活における身体活動量がWHO推奨基準の約半分の達成率であることや座位時間が長いということも判明した。障害者スポーツの分野では、大分県障がい者スポーツ協会との3年に渡る実践研究から、地域における障害者のスポーツ環境充実に向けた政策提言を発表した。今後も、スポーツが私たちの日常生活や健康にどのような影響をもたらすのか、さまざまな調査から政策提言を継続して行っていく。
佐野 慎輔(尚美学園大学 教授/産経新聞 客員論説委員/笹川スポーツ財団 理事)
2021年を象徴する漢字に「金」が選ばれた。選考理由の第一は東京オリンピック・パラリンピックで日本人選手が多くの「金」メダルを獲得した事だったという。
新型コロナウイルス感染症拡大のなか、史上初めて1年延期された大会は、選手や関係者、メディアなどに行動制限を求め、観客を入れない異形の開催となった。不協和音が続いたが、空気を変えたのは選手たちのパフォーマンス。ただ「金」メダルを数多く獲得した以上に、さまざまな「気づき」と「共感」を与えてくれた事を特筆したい。
例えばスポーツの楽しさ。新競技スケートボード女子ストリートで金メダルを獲得した13歳の西矢椛は試合中も試合後も、いつも屈託のない笑顔を浮かべていた。勝負への悲壮感とは無縁、ボードに乗る事が楽しいという思いはテレビ画面からも伝わった。なぜ私たちはスポーツをするのか、「楽しい」からだ。原点を彼女の笑顔が教えてくれた。
スポーツの本質を伝えてくれたのもスケートボード。女子パーク、15歳の岡本碧優は最後の試技で逆転をねらい大技に挑んだ。しかし失敗。泣きじゃくってゴールした彼女にライバルたちが駆け寄り、抱きしめ、肩車して挑戦を称えた。相手を尊敬するスポーツパーソンシップをみた。
パラリンピアンは不可能に挑戦する勇気を教えてくれた。ハンディキャップを乗り越え凄まじいパフォーマンスを繰り広げた。障害を乗り越える努力、障害を「個性」とすら感じさせる姿に初めて触れた人も少なくなかった。共感から「多様性」を受け入れ、「共生社会」の実現に進んでいけばコロナ禍で開催した意義として残る。
選手たちを支えたボランティアの活躍はその第一歩といえるかもしれない。国内外問わず、多くの選手たちがインタビューのたびにボランティアやスタッフへの「感謝」の言葉を述べた。率直な思いの発露であろう。オリンピックもパラリンピックも、閉会式で「ARIGATO」の言葉が国立競技場の大画面に掲げられた。コロナ禍で参加した選手たち、大会を支えたスタッフやボランティアへ、そしてこの状況下で開催を受け入れた日本の人々への感謝であった。
共同通信のオリンピック後の世論調査では、開催して「よかった」と答えた人が62.8%、パラリンピック後には「よかった」が69.8%、約7割にまで及んだ。もちろん、すべての人が開催を肯定したわけではない。しかし、この数字は国民の偽らざる「共感」を示しているように思う。
大谷翔平の「ショータイム」
今年の漢字「金」は「金」字塔をも示している。米大リーグ、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平の「投打二刀流」の活躍は、東京2020大会に並ぶ、いやそれ以上の熱狂を日本と米国にもたらした。
打っては46本塁打100打点、打率こそ2割5分7厘に終わったが、高い弧を描いてスタンドの上段に飛び込むホームラン・ショーにファンは酔いしれた。名前をもじった「ショータイム」はそれを待ちわびるファンの思いを見事に表現している。走っても26盗塁と遠くに飛ばすだけの選手でない。投げては9勝2敗、防御率3.18。もっと打線の援護があれば2ケタ勝利は実現していただろう。そして156奪三振、ファンは大谷の奪三振ショーも楽しみにしていた。
投げるたび、打つたび二刀流の元祖「野球の神様」ベーブ・ルースと比較された。103年前にルースが記録した「2ケタ本塁打、2ケタ勝利」にはあと1勝足りなかったが、見事なまでに野球ファンの夢を実現させた。「世界一の選手になりたい」と海を渡って4年、今年の成績を大谷は「まだ発展途上」と話す。来年はさて、どんな成績をあげて私たちを熱狂させてくれるだろうか。
松山、笹生、ヤクルト…そして長嶋さん
金字塔はまだある。ゴルフの松山英樹がマスターズ・トーナメントに初優勝したのは4月。日本人初のメジャー制覇となった。6月には全米女子オープンで笹生優花が初優勝。日本人女子3人目の快挙は19歳11カ月、大会史上最年少タイである。
東京2020大会「多様性」の象徴として聖火の最終点火者を務めたテニスの大坂なおみ。2月の4大大会全豪オープンで2年ぶり2度目の優勝を飾ったが、5月の全仏オープンは途中棄権。鬱症状告白に衝撃が走った。
プロ野球日本シリーズを制したのは東京ヤクルト・スワローズ。20年ぶり6度目の日本一は高津臣吾監督の「絶対大丈夫」の言葉に選手たちがまとまり、2年連続最下位からの金字塔は記憶に新しい。対戦相手オリックス・ブレーブスも2年連続最下位から25年ぶりのリーグ優勝だった。
大相撲では7月に照ノ富士が第73代横綱に昇進。怪我や病気で序二段まで陥落した後、最高位まで上り詰めたのは史上初。入れ替わるように9月、横綱白鵬が現役を引退した。45回優勝は歴代最多である。
「ミスター」長嶋茂雄さんの文化勲章受章はプロ野球の慶事である。スポーツ界では水泳の故古橋廣之進氏に次いで2人目。古橋さんは戦後日本の復興、長嶋さんは高度経済成長を象徴していよう。1959年天覧試合のサヨナラ本塁打でプロ野球を国民スポーツに高めた功績は忘れてはならない。
澁谷 茂樹(笹川スポーツ財団 シニア政策アナリスト)
新型コロナウイルス感染状況下で東京2020大会が開催できたこと、加えて、大会関係者を通じて感染が広がらなかったことは極めて有意義であった。開催前の反対派で、今でも開催するべきでなかったと考える者はほとんどいないだろう。しかし、ウイルスにより、オリンピック・パラリンピックがわが国にもたらす様々な効果が大幅に縮減された面は否めない。海外からの観戦客による短期的、中長期的な経済効果、海外代表チームの事前合宿を通じた地域スポーツ推進と国際交流などがその代表例といえる。
ともあれ、東京2020大会開催を、わが国の今後のスポーツ推進に活かしていくことが期待されている。こうした文脈で最近、「レガシー」という言葉をよく見かけるが、厳密にいえばこれは正しい使い方ではない。レガシーとは、長きにわたり受け継がれていくものを意味しており、大会から何年、何十年と時を経て遺されてはじめてそう呼ぶことができるものである。
2013年の開催決定以降、日本のスポーツ界は官民挙げてオリンピック・パラリンピックという大きな目標に向けて動き、多くの資源が投入されてきたが、「ポスト東京2020大会」といえる今後は、大規模イベントのようなわかりやすい目標のない中でスポーツを推進していくことになる。
少子化と人口の高齢化に伴う社会全体のダウンサイジングが見込まれる中、重要性がこれまで以上に高まるのが生涯スポーツ、地域スポーツである。SSFでは、子どもから高齢者まで、運動の苦手な人から得意な人まで、誰もがスポーツに親しみ、健康でアクティブに生きられる社会づくりを目指し各種事業を展開しているが、2022年は調査研究と実践の場として連携している宮城県角田市と京都府福知山市でこの取り組みをさらに加速していく計画である。また、障害者のスポーツでは、障害のある人が身近な地域で運動・スポーツに取り組める環境を整備するため、コーディネーター人材の意義と役割について、これまでの実践研究の成果を踏まえて普及に努める予定である。
2022年3月には第三期のスポーツ基本計画が策定され、東京2020大会後のスポーツ推進の方向性が示されることになる。5年先、10年先を見据えた重要な1年となる2022年に、独立・非営利のスポーツシンクタンクとして存在価値を示していきたい。