前編で紹介したデジタル・文化・メディア・スポーツ省(Department for Digital, Culture, Media & Sport : DCMS)が発表しているガイダンスは原則として、英国を構成する4つの地域のうちイングランドを対象とするものであり、他のウェールズ、スコットランド、北アイルランドにおいては、各地方行政府が定めたルールに従うことを求めている。各地方行政府はお互いに連携した上で、独自に外出制限の緩和に向けたガイダンスやフレームワークを発表しており、その中でスポーツの再開についても触れられている。
加えて英国内では政府ガイダンスをベースとして、多くの競技団体が各競技別のガイダンスを発表しており、スポーツイングランド等の支援を受けて活動しているロンドンスポーツ(London Sport)*1 はウェブサイト上でイングランドにおける主要な競技団体が発表しているガイダンスの一覧を紹介している。
ウェールズ
ウェールズ行政府は5月15日に「社会・経済活動の再開(Unlocking our society and economy)」を発表し、その中でロックダウン緩和に向けた独自のアプローチを公表している。その内容は緩和の段階を交通信号に例えて「ロックダウン」、「赤信号」、「黄信号」、「青信号」の4段階に分けて、「運動・スポーツ」の他に「学校・保育」、「事業活動」等、9つの項目ごとに、どのような活動が許可されるかを定義している。(ただし、全ての項目の段階が一斉に進むのではなく、項目ごとに次の段階に進むかが判断される)
その後6月15日にウェールズ行政府は、上記ガイダンスを補足する形で「スポーツ・レクリエーション・レジャー活動の段階的再開に向けたガイダンス(Sport, recreation and leisure: guidance for a phased return)」を発表して、活動をエリート・プロスポーツ、屋外スポーツ、屋内スポーツ・レジャー施設の3つに分類して、それぞれについて現状、今後の課題、具体的なガイダンスを提示している。また後半部分では、競技団体・スポーツクラブ・施設運営者に向けた詳細なガイダンス、ウェールズ行政府が公開しているその他の新型コロナウイルス関連のガイダンス、現状の規制の中で実施可能な活動の例と実行する際の注意点等を記載している。
「社会・経済活動の再開(一部イメージ)」(ウェールズ行政府ウェブサイトより)
スコットランド
スコットランド行政府は5月21日に新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウンからの出口戦略として、「COVID-19意思決定のフレームワーク - 危機からの脱出に向けたルートマップ(Coronavirus (COVID-19): framework for decision making - Scotland's route map through and out of the crisis)」を発表しており、その中でスポーツについても触れている。ルートマップには全部で4つのフェーズがあり、6月15日時点ではロックダウンを1段階緩和したフェーズ1であるとしている。
スポーツに関して、フェーズ1においては、スコットランド行政府が発表しているガイダンスに従い対人距離を保った上で、屋外での運動を回数の制限なしで認めている。また他者との接触がない屋外でのスポーツ(例:ゴルフ、テニス、釣り等)を、自宅付近で行うことも許可している。(その後、6月18日にスコットランド行政府はフェーズ2への移行を宣言。屋外スポーツ施設や遊具場の再開が認められた)
またスポーツスコットランド*2 はウェブサイト上で、スコットランド行政府のルートマップを踏まえた上で、プロスポーツ・競技スポーツ向けに「パフォーマンススポーツの再開に向けたガイダンス(Resumption of Performance Sport Guidance)」を発表している。本ガイダンスはDCMSのガイダンスと同じく5段階でパフォーマンススポーツ(プロスポーツ・競技スポーツ)の再開を目指している。また同じページ上で、スポーツスコットランドはスコットランド地域の各競技団体が発表しているガイダンスを一覧で掲載している。
「危機からの脱出に向けたルートマップ(一部イメージ)」(スコットランド行政府ウェブサイトより)
「パフォーマンススポーツの再開に向けた5つのステップ」(スポーツスコットランド ウェブサイトより)
北アイルランド
北アイルランド行政府も段階的なロックダウンの緩和を計画しており、5月12日に発表した「COVID-19リカバリープラン(Coronavirus (COVID-19): recovery plan)」の中では、5段階のステップを定義して、労働、小売り、教育等、6つの項目について各ステップで許可される活動を記載している。6つの項目の中に「スポーツ・文化・レジャー活動」があり、6月18日時点では屋外スポーツ施設の営業再開、エリートアスリートのトレーニング再開等を許可している。
上記に加えてスポーツ北アイルランド *3 は、北アイルランド行政府の計画と整合する形で、6月4日に「スポーツ・レクリエーションの再開に向けたフレームワーク(A Framework to guide progression towards a resumption of sport and physical recreation in Northern Ireland)」を発表した。
フレームワークでは、北アイルランド行政府が発表した5段階のステップを、赤色(現状のロックダウン状態)、琥珀色、黄色、緑色の4つフェーズにくくり直し、それぞれのフェーズで、スポーツ・レクリエーションを6つのカテゴリー(屋外レクリエーション、ウォータースポーツ、非接触スポーツ、接触スポーツ(低リスク:サッカー、ホッケー等)、接触スポーツ(高リスク:ラグビー、レスリング等)、ハイパフォーマンス・プロスポーツ)に分類し、それぞれにおいてどのような活動が許可されるか、どのような注意点があるかを整理している。
「COVID-19リカバリープラン(一部イメージ)」(北アイルランド行政府ウェブサイトより)
「スポーツ・レクリエーションの再開に向けたフレームワーク(一部イメージ)」
(スポーツ北アイルランド ウェブサイトより)
スポーツ・レクリエーションの再開に向けたフレームワーク(一部イメージ)」
(スポーツ北アイルランド ウェブサイトより)
各競技団体は英国政府が発表しているガイダンスに則り、競技の特性を踏まえた上で、競技ごとにどのような活動が認められ、どのような注意点があるのかをまとめている。ロンドンスポーツはガイダンスを公開している競技団体(主にイングランドの団体)を一覧化して、リンク先を掲載している。(下記情報については今後も週次で更新される予定である)
スコットランド
スコットランド行政府が6月18日をもってフェーズ2への移行を決定したことを踏まえて、スポーツスコットランドでは追加で下記の二つのガイダンスをウェブサイト上に公表している。
北アイルランド
北アイルランド行政府は「スポーツ・文化・レジャー活動」に関して、6月29日付で更なる緩和を発表しており、屋内トレーニングと接触を含むトレーニングの再開を認めている。
笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター 武富 涼介
*1 法人としては民間企業にあたるが、活動資金の多くをスポーツイングランドや大ロンドン(Greater London Authority)の助成によって賄っている。ロンドン市民のスポーツや身体活動を推進している
*2 スポーツ関連の非省庁公的機関であり、スコットランドにおけるスポーツ推進を担っている
*3 スポーツ関連の非省庁公的機関であり、北アイルランドにおけるスポーツ推進を担っている