渡邉 市長のプロフィールを拝見しますと、これまで全国のまちの活性化に携わっていらっしゃいますが、その経験は川崎市のまちづくりにどのように活かされていますか?
阿部 以前は全国の過疎地域の振興などを行っていまして、そのなかで、村おこしにはその土地にある資源を上手く活用するという手法が不可欠であることを実感しました。川崎市は人口143万人の大きなまちですから、幸いにも資源となるものはたくさんあるのです。実際には、東京都や横浜市など近隣からも多くの人が来てくださいますから300万人ぐらいの規模としてまちの振興事業を展開していることになります。川崎市にあるたくさんの資源のなかから、全国あるいは国際レベルにまで発展しそうなものを取り上げて、育てていくイメージを持ってまちづくりを行っています。
まちの資源を活かすといっても、人口3,000人や5,000人の村ですとまちづくりの資源を見つけるのも非常に大変です。まちにある、将来性のあるもの、広がりがあるものが何なのかというのをいかに見つけるかが鍵になります。私は、地域経営の基本は、強いものを伸ばしてほかの地域に貢献することだと考えています。強いものを伸ばすのに、多額な資金は必要ありません。お金をかけないで、効果が出るものなのです。たびたび、市が関わって行っている事業に「市はどれだけのお金を出しているのですか」と聞かれますが、ほとんど出していないこともあります。川崎市は芸術のまちとしても事業をサポートしていますが、芸術のまちづくりに関しては要所以外はほとんどお金を出していません。高額のお金はかけませんが、行政の力でバックアップ体制を整えることが重要です。私自身、さまざまな団体やチームの後援会長や推薦人を務めています。
渡邉 ほかの政令指定都市と比べて、川崎市のアドバンテージ、アピールポイントはどういったところでしょうか?
阿部 やはり地理的条件だと私は思います。東京都、横浜市という2つの大都市に隣接し、羽田空港にも近いです。さらに、たくさんの企業が所在しているところも大きな強みです。富士通やNEC、味の素、東芝、JFEスチールのほか、大手企業の主力工場や研究所が集中しています。
渡邉 都心に近いこともあり、人口は増えていますか?
阿部 平均して年間約2万人ずつ増えています。
渡邉 施設やコミュニティが整っている、住みやすいまちでもあるのではないでしょうか?
阿部 そうですね。むしろ、たくさんの施設やグループや楽しみがありすぎてゴチャゴチャしているのが欠点になるくらいです。スポーツも教育も、買い物、レジャーも充実していて、本当に住むのに便利なまちだと思います。
渡邉 スポーツのまち、芸術のまち、さらには映像のまちと、さまざまなまちづくりを行っていらっしゃいますが、どのような相乗効果がありますか?
阿部 スポーツや文化の分野では、まず市民のなかでやりたいという意思を持った方々が出てきて頑張るんですよ。まちづくりの活動が自己実現の核になっていて、やりたい人がどんどん増えてその波及効果が、参加する人、観る人など周囲に及んでいる状況です。川崎市内にスポーツ好き、アート好き、音楽好きの人たちが集まってきて交流が盛んになり、まち全体の一体感につながります。そうすると、川崎市全体が元気になり、健康増進にもなってきます。
渡邉 市民の「やりたい」という声を吸い上げ、実行を支えるのも行政の役目なのですね。
阿部 やる気がある市民の方を応援して、必要であれば協議会などもすぐにつくります。市役所では、その分野の事業の振興を楽しそうにやる職員を配置しています。普通は「役人らしくない」といってお咎めを受けることになるんでしょうけど、私は職員の勇み足を認めてフォローしています。