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国際情報
International information

「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

SSFが振り返る2024年

スポーツ界の出来事2024

1. 能登半島地震

新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後初めてのお正月ということもあり、より活気のある年の始まりのように感じられた2024年。しかし、思いもよらない出来事が起こる。2024年1月1日16時10分、石川県の輪島市と羽咋郡志賀町で最大震度7を観測した能登半島地震だ。甚大な被害が出る中、日本財団では一早くボランティアを被災地に派遣し復旧支援活動を行った(SSFからも職員を派遣)。被災から間もなく1年を迎えるが、多くの方が仮設住宅での生活を余儀なくされている。

能登半島地震が発生し、スポーツを含む各種イベントに自粛の動きもあったが、1月2日には第100回となる箱根駅伝が開催され、1月14日には京都府で第42回全国都道府県対抗女子駅伝が開催された。同大会では、能登半島地震の被災地となった石川県代表の1区・五島莉乃選手(資生堂)が区間賞を獲得。地元に大きな勇気を届けたはずだ。

復興までの道のりは険しいが、私たち一人ひとりに何ができるのか?を自問しながら行動したい。

第44回全日本実業団対抗女子駅伝競走大会・3区を走る五島莉乃 (資生堂)2024年11月24日/写真:フォート・キシモト

第44回全日本実業団対抗女子駅伝競走大会・3区を走る五島莉乃 (資生堂)2024年11月24日/写真:フォート・キシモト

2. 改めて「健康」を考える機会に

地震などの自然災害は、建物の倒壊や土砂崩れなど施設やインフラに与える被害以外にも、運動不足や不眠など人々の健康にも被害をもたらす。能登の震災後、スポーツにできることは何か?を考えたプロアスリートらが被災地で住民と運動・スポーツ活動を通じて交流を図っている。スポーツ庁の室伏長官も自らが実演するエクササイズ動画を発信するなどして、スポーツの力で被災地の方々の健康増進に貢献すべく取り組みを行っている。

私たちの健康を取り巻く環境に目を向けると、今年1月、厚生労働省が「健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023」を策定、5月には国民健康づくり運動「健康日本21(第三次)」がスタートした。改めて一人ひとりが「健康」に向き合う機会になったはずだ。

SSFでは「健康」に対して多角的にアプローチしている。

3月に「子ども・青少年のスポーツライフ・データ2023」を刊行。新調査項目の一つ、4-11歳の子どもの「健康に対する自己評価」では、85.6%が自身の「健康状態はよい」と感じていることがわかった。

5月に発表した「健康関心度とスポーツライフに関する調査研究」では、健康に対する「低関心」は5.4%にとどまる一方、健康行動が少ない健康無関心層の中には、運動やスポーツをしたくても環境要因によってできないジレンマ("無関心層のジレンマ")を抱える人たちが存在することが示唆された。

明治安田厚生事業団 体力医学研究所との共同研究では、活動量計による身体活動・スポーツの実態把握を試み、厚労省「身体活動量の新基準」における基準達成率は49.5%であることがわかった。

今後も、日本のスポーツと健康づくり施策の発展に寄与できる研究活動を行っていく。

4~11歳の健康の自己評価/笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023

4~11歳の健康の自己評価/笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023

1日の推奨身体活動量の達成率/明治安田厚生事業団 体力医学研究所との共同研究

1日の推奨身体活動量の達成率/明治安田厚生事業団 体力医学研究所との共同研究

3. 障害児・者のスポーツの日常化に向けた新たな挑戦

2024年4月、障害者差別解消法が改正された。事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が努力義務から義務へと変わる。車椅子で段差を進めない場合はスロープ等で補助をする、聾唖(ろうあ)者とのコミュニケーションは筆談で対応することなどが求められる。

「障害児・者のスポーツの日常化」の実現に向けて研究活動を行うSSFは、この法改正は追い風と捉えている。以前より「障害者のスポーツ機会を増やすには、地域の障害者スポーツセンターが拠点となり、地域のその他社会資源とのネットワーク化を進め、障害者のスポーツ参加の受け皿(機会)を増やすべき」と提言してきた。
今年6月には、この提言の社会実装に向けて、東京都障害者スポーツ協会と共同実践研究を実施。江戸川区の協力を得て、都立鹿本学園の重度障害児と保護者を対象にモデルプログラムを開始した。障害者スポーツ振興の課題である、施設と人材(指導者)不足を解消することを大きな目的としている。

「障害者のスポーツの日常化に向けて 江戸川区モデルプログラム」記者発表会の様子(2024年6月撮影)

「障害者のスポーツの日常化に向けて 江戸川区モデルプログラム」記者発表会の様子(2024年6月撮影)

4. スポーツ基本法改正の動き

2024年6月、超党派のスポーツ議員連盟はスポーツ基本法改正へプロジェクトチームを設置した。スポーツ基本法は前身のスポーツ振興法(1961年)を全面改正する形で2011年に制定された。近年は、デジタルトランスフォーメーション(DX)やeスポーツの普及、部活動改革などが進んでおり、そうした現状を踏まえた改正となる見通しだ。

部活動の地域移行に関して言えば、2024年度は国が定めた改革推進期間の2年目であった。現在、各自治体で休日の部活動の地域連携・地域移行が進められている。

SSFは3月に刊行した「子ども・青少年のスポーツライフ・データ 2023」のトピックの中で、学校運動部活動の活動日数や時間の現状と生徒のニーズとの差、保護者の運動部活動に対する希望などの視点から調査した結果を用いて、これからの地域連携・地域移行のあり方について検討した。

運動部活動の実際の活動状況と本人の希望/笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023 /笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023

運動部活動の実際の活動状況と本人の希望/笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023 /笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2023

5. 2024年パリオリンピック・パラリンピック大会

2024年7月~9月、パリオリンピック・パラリンピック大会が開催された。連日の日本選手の活躍は大きな話題を呼び、オリンピックでは金メダル20個、銀メダル12個、銅メダル13個、計45個のメダルを獲得し、金メダル数でもメダル総数でも、海外で開催された大会での最多数を更新した。また、パラリンピックでも東京大会を超える金メダル14個を獲得した。パリ大会で唯一の新種目となった「ブレイキン」が大きな注目を集める中、女子の湯浅亜実選手(ダンサー名・AMI)が金メダルを獲得し初代女王に輝いた。

2012年に、中学校の保健体育でヒップホップを含む「ダンス」が必修科目となり、ダンスは子どもたちにとってより身近な存在となった。今年3月に刊行した「子ども・青少年のスポーツライフ・データ2023」では、年1回以上のヒップホップダンス実施推計人口を、411歳(未就学児、小学生)で57万人、10代(小中高生、大学生など)で63万人と報告した。

4~11歳・年1回以上の「ヒップホップダンス」推計人口・実施率の推移(2013~2023年)/笹川スポーツ財団「子ども・青少年のスポーツライフに関する調査報告書」(2013~2023)より作成

4~11歳・年1回以上の「ヒップホップダンス」推計人口・実施率の推移(2013~2023年)/笹川スポーツ財団「子ども・青少年のスポーツライフに関する調査報告書」(2013~2023)より作成

1)推計人口は 住民基本台帳人口(4~11歳)(人)に実施率(%)を乗じて算出
2)推計値を算出する際に端数が発生するため、全体の人口と男子・女子を合計した人口は必ずしも一致しない

6. 地方創生-。スポーツで地域課題を解決する

日本列島が沸いた2024年パリ大会の余韻が残る中、927日に自由民主党総裁選挙が行われ、石破 茂総裁が誕生。101日、石破内閣がスタートした。石破総理は、「日本全体の活力を取り戻す」として、人口減少や、地域・経済の活力の低下が進む中、多様性の時代の多様な国民の多様な幸せを実現するための社会政策の一環として地方創生を掲げた。

かねてより、人口減少や少子高齢化に起因する地域スポーツの停滞を危惧していたSSFでは、2017年にその打開策として、官民のスポーツ推進団体が一堂に会して「ヒト・モノ・カネ・情報」を一元化させて形成する新たな地域スポーツプラットフォーム「RSMO」(地域スポーツ運営組織)の設置を全国の自治体に対して提言した。2019年には提言に賛同した宮城県角田市と協力して、角田市版のRSMO「スポネットかくだ」を設立。同市が目指す「スポーツを通じた明るく楽しく健康で活力あるまち(アクティブシティ)」の実現に向けたさまざまな取り組みに関与している。

今年度はさらにSSFとして「スポーツ・運動、健康づくり、まちづくりに関わる組織や人々が協働し、住民一人ひとりのウェルビーイングの向上と、スポーツの価値を活用した地域の課題解決」に取り組むまちをアクティブシティとする「アクティブシティ推進事業」を新たに開始した。今年12月には、香川県丸亀市と連携協定を締結し、同市における「スポーツ×社会課題解決」のまちづくりが始動した。

2025年もスポーツの可能性を信じ、多くの自治体とともにスポーツの多様な価値を活用した社会課題解決の動きを加速する。

香川県丸亀市と連携協定を締結(2024年12月13日) 左:松永 恭二丸亀市長、右:渡邉 一利SSF理事長

香川県丸亀市と連携協定を締結(2024年12月13日) 左:松永 恭二丸亀市長、右:渡邉 一利SSF理事長