2021年3月19日
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2021年3月19日
スポーツへの関わり方には「する」「みる」「ささえる」が含まれ、「する」「みる」「ささえる」によってすべての人々がスポーツに関わり、その価値が高まっていく。ただし、青少年を対象とした国のスポーツ政策は運動習慣の確立や体力向上など、参加機会の充実(する)に主眼が置かれている。この背景のひとつには、幼児期や青少年期における運動やスポーツは心身の健全な発達など様々な好影響をおよぼすために重視されている一方で、過去30年以上にわたり子どもの体力が低下傾向にあるという問題がある。そのため、青少年の「みる」「ささえる」は政策として大きく取り上げられていないのが現状である。
そこで、本コラムでは「みる」に着目して青少年のスポーツ観戦の実態を紹介するとともに、青少年におけるスポーツ観戦の意義を考えたい。
図表1に、青少年(12~21歳)が過去1年間に直接スタジアムや体育館などに行ってスポーツを観戦した割合(直接スポーツ観戦率)を示した。青少年全体では37.2%が直接スポーツ観戦を行い、性別では男子41.7%、女子32.4%と男子が9.3ポイント高い。学校期別にみると、高校期41.3%が最も高く、大学期39.1%、中学校期35.4%、勤労者30.9%と続く。
直接観戦したスポーツの種類を、図表2に示した。全体では「プロ野球(NPB)」12.0%が最も高く、「高校野球」10.1%、「Jリーグ(J1、J2、J3)」6.2%、「バスケットボール(高校、大学、NBL、WJBLなど)」4.4%、「サッカー(高校、大学、JFLなど)」3.7%が続く。
性別にみると、全体と同様に「プロ野球(NPB)」(男子14.2%、女子9.7%)と「高校野球」(男子11.5%、女子8.5%)が1~2位を占めるが、どちらも男子の観戦率が高い。また、3位以降の種目は男子が「Jリーグ(J1、J2、J3)」9.6%、「サッカー(高校、大学、JFLなど)」5.0%、「バスケットボール(高校、大学、NBL、WJBLなど)」4.4%、女子が「バスケットボール(高校、大学、NBL、WJBLなど)」4.4%、「バレーボール(高校、大学、Vリーグなど)」3.5%、「マラソン・駅伝」3.3%である。性別によって、直接観戦種目の傾向は異なる。
学校期別では「プロ野球(NPB)」の観戦率が中学校期(13.5%)、大学期(14.6%)、勤労者(9.8%)において1位であるが、高校期のみ「高校野球」9.5%が最も高い。同じ年代のプレーを直接観戦する様子がうかがえる。
(%)
順位 | 種目 | 全体 (n=1,665) |
男子 (n=868) |
女子 (n=797) |
中学校期 (n=565) |
高校期 (n=506) |
大学期 (n=363) |
勤労者 (n=194) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | プロ野球(NPB) | 12.0 | 14.2 | 9.7 | 13.5 | 9.5 | 14.6 | 9.8 |
2 | 高校野球 | 10.1 | 11.5 | 8.5 | 5.8 | 14.4 | 11.6 | 8.8 |
3 | Jリーグ (J1、J2、J3) |
6.2 | 9.6 | 2.5 | 7.4 | 6.1 | 5.0 | 5.2 |
4 | バスケットボール (高校、大学、NBL、WJBLなど) |
4.4 | 4.4 | 4.4 | 2.3 | 7.5 | 4.4 | 3.1 |
5 | サッカー (高校、大学、JFLなど) |
3.7 | 5.0 | 2.4 | 3.4 | 5.5 | 3.3 | 1.0 |
6 | プロバスケットボール (Bリーグ、bjリーグ) |
3.5 | 4.1 | 2.8 | 4.1 | 4.2 | 2.2 | 3.1 |
7 | マラソン・駅伝 | 3.4 | 3.5 | 3.3 | 3.2 | 5.1 | 2.8 | 1.0 |
8 | バレーボール (高校、大学、Vリーグなど) |
2.8 | 2.1 | 3.5 | 1.8 | 3.8 | 3.3 | 2.6 |
9 | アマチュア野球 (大学、社会人など) |
1.7 | 2.4 | 1.0 | 1.4 | 1.6 | 2.5 | 2.1 |
10 | サッカー日本代表試合 (五輪代表を含む) |
1.6 | 2.8 | 0.4 | 1.6 | 1.4 | 1.7 | 2.1 |
直接みたことはない | 62.8 | 58.3 | 67.6 | 64.6 | 58.7 | 60.9 | 69.1 |
資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2019
続いて、テレビやスマートフォン、パソコン、タブレットといったメディアによるスポーツ観戦状況を確認する。図表3は、過去1年間のメディアによるスポーツ観戦率である。
全体では72.4%と、7割以上の青少年がメディアを通じてスポーツを観戦した様子がわかる。性別のメディア観戦率は男子77.3%、女子67.1%であり、直接スポーツ観戦と同様に男子の観戦率が高い。
学校期別にみると、中学校期74.4%、高校期75.0%、大学期75.6%と大きな差はないが、勤労者のみ55.7%と低い。勤労者を除いた学校期では、多くの青少年がメディアを通じてスポーツを観戦している。
図表4は、メディアによるスポーツ観戦種目を全体の観戦率が高い順に示している。「プロ野球(NPB)」38.2%、「高校野球」32.4%が高く、直接スポーツ観戦と同様の結果である。ただし、3位以降は「サッカー日本代表試合(五輪代表を含む)」「フィギュアスケート」「プロテニス」がランクインする点は、直接スポーツ観戦とは異なるメディアによるスポーツ観戦ならではの特徴といえよう。サッカー日本代表試合やテニスの四大大会、フィギュアスケートの各種大会など、直接観戦は難しいがテレビ等で放送されるために観戦した青少年が多いと考えられる。
性別にみると、男子は多い順に「プロ野球(NPB)」43.6%、「高校野球」36.6%、「サッカー日本代表試合(五輪代表を含む)」35.2%、「海外のプロサッカー(ヨーロッパ、南米など)」25.8%、「メジャーリーグ(アメリカ大リーグ)」25.3%と、特に野球やサッカーの観戦が目立つ。他方の女子は「フィギュアスケート」35.4%や「プロテニス」25.3%など、男子とは異なる種目を観戦している様子がわかる。学校期別による観戦種目は、全体の傾向と大きな違いはなかった。
(%)
順位 | 種目 | 全体 (n=1,671) |
男子 (n=871) |
女子 (n=800) |
中学校期 (n=567) |
高校期 (n=508) |
大学期 (n=365) |
勤労者 (n=194) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | プロ野球(NPB) | 38.2 | 43.6 | 32.3 | 40.7 | 38.8 | 41.4 | 25.8 |
2 | 高校野球 | 32.4 | 36.6 | 27.8 | 33.7 | 33.7 | 35.3 | 22.2 |
3 |
サッカー日本代表試合 |
29.8 | 35.2 | 23.9 | 32.3 | 30.1 | 32.1 | 19.1 |
4 | フィギュアスケート | 24.8 | 15.0 | 35.4 | 26.1 | 24.2 | 30.7 | 13.4 |
5 | プロテニス | 22.9 | 20.7 | 25.3 | 27.9 | 23.2 | 21.9 | 10.8 |
6 | マラソン・駅伝 | 21.8 | 20.3 | 23.5 | 24.7 | 21.9 | 23.8 | 12.9 |
7 |
メジャーリーグ |
18.6 | 25.3 | 11.4 | 18.9 | 19.5 | 21.1 | 10.8 |
8 |
海外のプロサッカー |
18.0 | 25.8 | 9.5 | 19.0 | 20.3 | 20.3 | 6.2 |
9 |
Jリーグ |
17.2 | 24.0 | 9.9 | 21.2 | 15.9 | 17.8 | 8.8 |
10 | 大相撲 | 14.7 | 14.8 | 14.5 | 19.6 | 15.0 | 11.8 | 5.7 |
テレビやスマートフォンなどで観戦したスポーツはない | 27.6 | 22.7 | 32.9 | 25.6 | 25.0 | 24.4 | 44.3 |
資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2019
ここまで、青少年のスポーツ観戦に関する調査結果を確認してきたが、これらの結果からわかることは「青少年のスポーツは、ある種目を行う人が同じ種目を観戦している」という実態である。そもそも、日本のスポーツ文化の享受スタイルはスポーツをする行動が中心であり、さらに「する」行動と「みる」「ささえる」行動の関係が深い構造ともいわれる(松尾,2012)。実際に、青少年のスポーツへの関わり方について「みる」に着目すると、スポーツを「みるのみ」は全体のわずか2.5%であり、「する・みる」29.5%や「する・みる・ささえる」10.3%という結果が示すようにスポーツの実施と観戦両方に親しむ青少年が多い(武長,2019)。本コラムの結果からも、例えば直接観戦で多かった男子の野球やサッカー、女子のバスケットボールやバレーボールは男女それぞれの実施種目としても上位に挙がることが多く、実施種目と観戦種目が一致している様子がうかがえた。
一方で、「する」とは結びつけずに「みる」だけ楽しむスタイルがあっても良いのではないだろうか。仲澤(2012)は、プロ野球や高校野球のような人気の観戦種目は「みる」スポーツ固有の文化を形成しており、観戦型スポーツを固有の文化のひとつとして普及・振興していく重要性を述べている。本コラムの結果でも、間接観戦のうち女子のフィギュアスケート観戦率が高かったように、自分では実施せず直接観戦も難しいがテレビ等で観戦を楽しむスタイルもあるだろう。
同調査にて運動・スポーツを行うことの好き嫌いをたずねたところ「きらい(どちらかというときらい+きらい)」と回答した青少年は22.2%であり、さらに青少年の保護者による自由記述の内容には「子どもは実施には積極的ではなく、家族で観戦するなど楽しんでいる」「観戦を通じて会話を楽しむ」といった意見もあった。運動・スポーツを「する」ことは好きではなくとも「みる」を通じてスポーツに親しむ青少年も存在し、それはスポーツの価値を享受しているといえる。
こうした青少年の「みる」を推進する意義のひとつに、長期的視点で考えたときに「する」や「ささえる」きっかけとなりうる可能性があるだろう。スポーツ基本計画において「『みる』ことがきっかけで「する」「ささえる」ことを始めたり(中略)…スタジアムやアリーナで多くの人々がトップアスリートの姿を間近に見ることでスポーツの価値を実感することができる」(p.4)とある。当初は「みる」のみを楽しむスタイルだったが「する」「ささえる」へ興味を持ち、スポーツの楽しみ方が増えていく可能性がある。ラグビーワールドカップ2019をきっかけに、地域のラグビースクールに申込みが殺到したニュースは記憶に新しいが、これも「みる」が「する」につながった典型例である。また、現在Jリーグでボランティアを行う人たちは元々チームのサポーターであったというケースはよく聞かれる。
青少年における「みる」スポーツの意義を考えると、国は青少年の「する」だけではなく「みる」にも着目した政策の方向性を位置づけていくことも重要であろう。具体的には、ゼビオアリーナのような、エンターテインメントを強化したアリーナ整備への民間参入の促進や、プロ野球・楽天や日本ハムが進めるスタジアムのボールパーク化構想の周知・啓発、横展開などが考えられる。同時に、観戦コンテンツを創り出す組織は、青少年が楽しめるようなコンテンツのエンターテインメント化に加え、インターネット等を用いた組織自らの手による積極的な情報やコンテンツの発信が求められる。幸いにも、現在の青少年は生まれた時からインターネットが当たり前に存在したデジタルネイティブの世代である。青少年に対する「みる」スポーツライフの推進に向けて、国や民間事業者が手を組んだ政策の推進が望まれる。
藤岡 成美(笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所 政策オフィサー)
参考文献
最新の調査をはじめ、過去のスポーツライフ・データのローデータ(クロス集計結果を含む)を提供しています。
活用例
スポーツライフ・データ
2020年度