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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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2020年東京パラリンピックに対する国民の興味・関心

2019年9月03日

2020年東京パラリンピックに対する国民の興味・関心

1. はじめに

2020年東京パラリンピック競技大会の開幕まで1年を切り、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以降、「大会組織委員会」と表記)は、2019年8月22日から東京パラリンピック観戦チケットの抽選申込受付を開始した。先行して行われたオリンピック観戦チケットの抽選申込は、第1次抽選販売の落選者があまりに多く、急遽、第1次抽選の追加抽選販売が実施され、今秋に予定されている第2次販売も先着順から抽選方式へ変更されるほど国民のオリンピックに対する注目度の高さがうかがえた。続くパラリンピックのチケット販売にはどれだけの興味・関心が集まるのであろうか。

本稿では、2018年7~8月に行われた「スポーツライフに関する調査」で聴取した東京パラリンピック観戦希望状況から、国民の興味・関心の高さを確認するとともに、東京パラリンピックに向けた今後の取り組みの方向性について考えたい。

2. 東京パラリンピックの観戦希望 ―オリンピックとの比較―

本稿の分析には、2018年7~8月に全国の市区町村に居住する満18歳以上の男女を対象に行われた「スポーツライフに関する調査」のデータを用いた。本調査で採用している調査手法の特徴や2018年調査の概要に関しては、コラムVol.3「スポーツライフ・データとは?-調査の概要と特徴-」および「スポーツライフ・データ2018」の調査概要を参照されたい。東京パラリンピックの観戦希望の特徴を把握するため、オリンピックの観戦希望と比較した。

はじめに、オリンピックおよびパラリンピックの直接観戦希望率を確認する。オリンピックとパラリンピック、それぞれに対してチケットを購入して直接観戦したい種目の有無をたずね、「ある」と回答した者の割合を直接観戦希望率として算出した。図1に示すように、直接観戦希望率はオリンピックが43.4%、パラリンピックが20.4%と、パラリンピックの直接観戦希望率はオリンピックよりも低い結果であった。

図2には、オリンピックとパラリンピックそれぞれの直接観戦希望の有無により、回答者を4パターンに分類した割合を示した。オリンピックとパラリンピックの両方またはいずれかの直接観戦希望がある者は44.0%、オリンピックとパラリンピックともに直接観戦希望がない者は56.0%であった。前者の44.0%のうち、オリンピックとパラリンピックともに直接観戦希望がある者は19.8%、オリンピックのみ直接観戦希望がある者は23.6%、パラリンピックのみ直接観戦希望がある者はわずか0.6%であった。パラリンピックを直接観戦したい者のほとんどは、オリンピックの直接観戦も希望していることがわかる。

続いて、オリンピックおよびパラリンピックについて直接観戦を希望する種目が「ある」と回答した者に対し、直接観戦希望種目を最大5種目まで選択するよう依頼した。選択肢として用意した種目数は、開会式と閉会式を含めてオリンピックが36種目、パラリンピックが24種目である。図3に示す直接観戦を希望する種目数をみると、オリンピックは5種目選択した者が48.2%と約半数を占める。一方で、パラリンピックは1種目選択した者が29.6%と最も高く、次いで5種目が29.0%であった。この違いは直接観戦希望種目数の平均値にも表れており、オリンピックの直接観戦希望種目数3.60種目に対し、パラリンピックは2.82種目である。直接観戦希望率および直接観戦希望種目数から、国民のパラリンピックに対する興味・関心はあまり高くないと推察される。

図4は、オリンピックとパラリンピックそれぞれの直接観戦希望率が高かった上位10種目である。図4の上段に示すように、オリンピックの直接観戦希望種目は1位のサッカー36.8%から10位の閉会式15.1%まで緩やかに減少する。隣り合う順位の種目間における直接観戦希望率の差は1~4ポイント程度と小さく、一部の種目の直接観戦希望率が突出するのではなく幅広い種目に対して観戦希望が挙がっている。オリンピック観戦チケットの抽選申込結果の発表後、落選者が非常に多かった実際の状況をあらわす妥当な結果であったともいえる。

一方で、図4の下段に示すパラリンピックの直接観戦希望種目をみると、車いすバスケットボール46.5%と車いすテニス46.3%が5割近い高さであり、3位の陸上競技30.6%と比較して15ポイント以上の差がある。また、5位の開会式26.0%と6位の閉会式14.2%の間にも10ポイント以上の直接観戦希望率の差があり、1位の車いすバスケットボール46.5%と10位のアーチェリー7.0%の差は39.5ポイントに及ぶ。この差は、オリンピック観戦希望種目の1位サッカーと10位閉会式の21.7ポイント差と比較しても非常に大きい。パラリンピックは、直接観戦希望率の高い上位種目の中でも、順位の差以上に人気に差があり、回答者が「パラリンピック」と聞いて想起する種目がある程度限定されていると推察される。高峰 1)がパラリンピックのイメージを特徴づける語を分析した中で「車いす」「テニス」という語が想起されていたように、障害者が使用する「車いす」やそれを用いた種目がはじめに浮かび、その他の種目に対しては具体的なイメージや認知が少ない可能性がある。

3. さいごに -パラリンピックに対する国民の興味・関心を高めるには-

本稿の結果から、パラリンピックに対する興味・関心はオリンピックほど高くない様子がわかる。オリンピック観戦チケットへの注目度の高さから、その盛り上がりをパラリンピック観戦チケットの抽選申込へ引き継ぎたいが、オリンピック観戦チケット申込者がパラリンピック観戦チケットの抽選に必ず申し込むというわけではないと推察される。さらに、パラリンピックは観戦希望種目がごく一部に集中する傾向から、パラリンピック種目に対する認知・理解が広く浸透していないことが示唆された。東京2020大会開催が決定した2013年を境に、テレビメディアにおける「障害者スポーツ」「パラリンピック」の放送時間は急増している 2)。パラリンピック種目を知る機会が増加する一方で、多くの人が観戦するまでに至っていない、または関心を持って観戦している人の少なさも指摘されている 3)。大会組織委員会を中心に多くの企業・団体がパラリンピック関連の取り組みを行っているが、引き続きパラリンピックに対する国民の興味・関心を高めるよう大会直前まで継続した取り組みの実施が必要となろう。実際に、2016年と2018年のパラリンピック直接観戦希望率を比較すると18・19歳が21.6%から36.6%へ大きく増加しており、パラリンピック教育の効果があらわれていると推察される 4)。それでも、国民全体の興味・関心にはそれほど大きな変化がない4)ことを勘案すると、これまで無関心だった人々が少しでもパラリンピックに振り向いてくれるような異なるアプローチが必要かもしれない。

例えば、日本財団パラリンピックサポートセンターは2016年より「ParaFes(パラフェス)」を毎年開催している。パラフェスはパラアスリートらのパフォーマンスとトップミュージシャンの応援ライブによる、スポーツと音楽を融合させた新たな取り組みである。元はアーティストに会うためにフェスに参加したものの、最後にはパラリンピックに対する理解が深まったり、応援したいと感じたりする来場者もいる 5)。パラリンピックの楽しみ方そのものを前面に押し出すプロモーションだけでなく、音楽やアートといった他分野との融合により最終的にパラリンピックに対する認知や興味・関心を高める方法もあるだろう。

大会組織委員会は、パラリンピックに関する様々な取り組みを通じた共生社会の実現を大会レガシーの一つとして掲げている 6)。障害者スポーツの観戦が障害者スポーツ振興・障害者理解へと直結するわけではない7)と指摘されるように、パラリンピック観戦を通じて共生社会が容易に実現するわけではないかもしれない。それでも、パラリンピック観戦は少なくとも障害者を「知る」「考える」ためのきっかけとして意味があるだろう。大会後に多くのレガシーを残すため、引き続き日本全体の取り組みに期待したい。

【引用・参考文献】

  • 1) 高峰修(2016)オリンピック・パラリンピックのイメージ.スポーツライフ・データ2016-スポーツライフに関する調査報告書-(笹川スポーツ財団),pp35-41.
  • 2) 小淵和也(2017)テレビメディアによる障害者スポーツ情報発信環境調査.2016(平成28)年度 障害者スポーツの振興と強化に関する調査研究報告書-テレビ放送、選手認知度、大学による支援に注目して-(公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団),pp13-29.
  • 3) 小淵和也(2019)パラリンピアンに対する社会的認知度調査.2018(平成30)年度 障害者スポーツを取巻く社会的環境に関する調査研究-パラリンピアン、競技団体、大学、地域現場に着目して-(公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団),pp.70-96.
  • 4) 藤岡成美(2018)2020年東京オリンピック・パラリンピックに対する直接観戦希望の変化.スポーツライフ・データ2018-スポーツライフに関する調査報告書-(笹川スポーツ財団),pp74-79.
  • 5) 日本財団パラリンピックサポートセンター(2017)「パラフェス2017」会場のお客さんから集まった平昌パラリンピック出場選手への応援メッセージをご紹介 https://www.parasapo.tokyo/topics/8106(2019.8.30閲覧)
  • 6) 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(2016)東京2020アクション&レガシープラン2016.(2019.8.26閲覧)
  • 7) 田中暢子(2017)そこにいる「あたりまえの存在」とスポーツがある社会~障害者がスポーツをする姿を見るという経験を通して~.放送研究と調査 2017年9月号臨時増刊 パラリンピック研究,pp56-70.

笹川スポーツ財団 研究調査グループ スポーツライフ調査チーム/政策オフィサー 藤岡 成美

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活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード
担当研究者
  • 藤岡成美