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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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中央競技団体現況調査 2022年度

中央競技団体の経営力強化、組織変革に着実な進展の兆し

経営戦略策定、女性役員登用が進む。社会貢献活動、DX推進の実態把握も。
今後は、各団体がスポーツの社会的価値を高める活動がより一層必要

 SSFは、2010年度から2年に1度実施している『中央競技団体現況調査』の 2022年度調査結果を公開いたしました(調査期間:2022年11月~12月)。

 調査結果では、中央競技団体の中長期的な経営戦略策定状況、役員・評議員の男女割合、収支状況などの現況をまとめています。前回調査(2020年度)から各団体の経営努力と国の支援により、着実に経営力の強化が図られていることが明らかとなりました。また、本年度の調査では、団体の社会貢献活動やデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みの項目も追加しています。コロナ禍でも経営力強化のためにさまざまな施策を講じてきた各団体の今後が期待されます。

POINT

1.中長期を見据えた総合的な経営戦略の策定状況

中央競技団体の中長期を見据えた総合的な経営戦略の策定状況についてたずね、76団体から回答を得た。

  • 「策定している」団体:46.1%(35団体)・・・前回(2020年度)調査の27.8%より増加
    ガバナンスコードの遵守事項への対応に向けた団体の努力や、スポーツ庁による中長期計画の策定支援事業が、経営戦略の策定を後押ししている様子がうかがえる。

2. 役職員および評議員

  • 「役員の男女比」:男性 1,279人、女性400人で役員の 76.2%が男性で占められている
  • 「女性役員が存在しない団体」の割合は3.9%・・・2010年度44.3%、2012年度31.0%、2014年度19.1%、2016年度17.7%、2018年度11.1%、2020年度11.5%と調査開始以降で最も低い割合。女性の役員登用が大幅に進んでいる実態を示している。

3. 社会貢献活動

  • 76団体中、半数以上の団体が社会貢献活動に「取り組んでいる」(53.9%)と回答。
  • 活動を通じて解決を目指す社会課題では「環境保全」(65.9%)、「健康増進」(53.7%)、「教育」(51.2%)が高い割合を示した。次いで、「ダイバーシティ&インクルージョン」(39.0%)、「世代間交流」(26.8%)、「まちづくり」(24.4%)と続く。

4. デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組み

  • 74団体中、約7割の団体が「取り組んでいる」(67.6%)と回答。
  • 具体的には「会議のオンライン化」(96.0%)、「SNSの活用」(84.0%)と、ソーシャルネットワークサービスによる発信を重視する傾向がみられる。

5. 収入構成

  • 71団体の総収入合計は711億7,900万円であった。
  • 科目構成比(%)は「事業収入」(63.4%)が最も高い。

研究担当者コメント

 これまで実施してきた本調査から、競技団体の経営力強化の重要性を指摘し、2018年度よりスポーツ庁「スポーツ産業の成長促進事業」のひとつとして中央競技団体の中長期経営計画の策定支援が図られてきた。各団体の経営努力と国の支援に加え、「スポーツ団体ガバナンスコード」の規定を遵守する組織基盤が醸成され、中長期を見据えた経営戦略の策定が進みつつある実態が本調査から明らかになった。同じくガバナンスコードに掲げる女性理事の目標割合(40%)については、11団体がその水準を超えていた。平均では24.0%と目標には届かないものの、30%目標(第5次男女共同参画基本計画)に比べて高い数値目標であることに加え、競技特性や団体の歴史的な背景がある中では改善が図られていると言える。

 他方、これからの中央競技団体の経営には多角的な視点が必要となる。例えば、スポンサー契約企業では、企業の事業活動を通じて社会的な課題を解決する投資としてのスポンサーシップという考え方が生まれつつある。企業が社会的価値と経済的価値を両立させるような経営モデルを目指す中、中央競技団体の経営においても社会課題の解決に資する事業展開が求められていくだろう。SDGsを含む社会貢献活動にみる公益性の高い事業からDXの導入など収益に繋がる事業まで、事業領域を拡充する要素は増えている。経営資源に見合った堅実な組織運営を推進しながら、社会的な存在意義を意識した新たな事業展開に期待したい。

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 シニア政策ディレクター 吉田 智彦


主な調査結果 解説

1. 中長期を見据えた総合的な経営戦略の策定状況

 中央競技団体の中長期を見据えた総合的な経営戦略の策定状況をたずね、76団体から回答を得た。「策定している」団体は、76団体中35団体(46.1%)、「策定中」26団体(34.2%)、「策定していない」15団体(19.7%)であった。前回(2020年度)調査では、「策定している」27.8%、「策定中」46.6%、「策定していない」25.6%となっており、比較すると着実に策定が進んでいる。ガバナンスコードの遵守事項への対応に向けた団体の努力や、スポーツ庁による中長期計画の策定支援事業が、経営戦略の策定を後押ししている様子がうかがえる。

2.役職員および評議員

 中央競技団体の役職員および評議員について、「理事(常勤)」「理事(非常勤)」「監事」「評議員」「正規雇用者」「契約/嘱託職員」「出向」「派遣職員」「アルバイト」「インターン」および「その他」の分類で性別に人数をたずねた。77団体の役職員および評議員の合計は4,308人であり、このうち「理事(常勤)」「理事(非常勤)」「監事」(3役職を合わせて以下、役員とする)が1,679人、「評議員」が1,439人、役員および評議員を除いた職員等は1,190人であった。

図表2 中央競技団体の雇用形態別人数(n=77)

(人)

種別 男性 女性
理事(常勤) 101 39 140
理事(非常勤) 1,044 332 1,376
監事 134 29 163
評議員 1,262 177 1,439
正規雇用者 440 303 743
契約/嘱託職員 91 78 169
出向 41 14 55
派遣職員 3 57 60
アルバイト 23 68 91
インターン 2 2 4
副業・兼業 20 19 39
その他 18 11 29
合計 3,179 1,129 4,308

資料:笹川スポーツ財団「中央競技団体現況調査2022」

■女性役員が存在しない団体

 役員の人数を全体(4,308人)に対する割合でみると、理事(常勤)が3.2%、理事(非常勤)が31.9%、監事が3.8%と、理事(非常勤)の割合が飛び抜けて高く多くの理事(非常勤)が存在していることがわかる。

 性別にみると、男性役員の合計が1,279人であるのに対して女性役員は400人と、役員の76.2%が男性で占められている。また、77団体のうち3団体(3.9%)では女性役員が存在せず、16団体(20.8%)では女性役員が2人以下であった。なお、分析対象としている団体が異なるため単純な比較は難しいが、女性役員が存在しない団体の割合は、2010年度44.3%、2012年度31.0%、2014年度19.1%、2016年度17.7%、2018年度11.1%、2020年度11.5%と減少傾向にあり、今回の調査では調査開始以降で最も低い割合となった。また、女性役員が2人以下の団体についても前回調査(57.1%)より減少している結果から、女性の役員登用が大幅に進んでいる実態を示している。

3. 社会貢献活動

 中央競技団体の社会貢献活動への取り組みについて、回答を得た76団体の半数以上が「取り組んでいる」(53.9%)と回答した。

 社会貢献活動に取り組むと回答した41団体が、活動を通じて解決を目指す社会課題は、「環境保全」が65.9%、「健康増進」が53.7%、「教育」が51.2%と高い割合を示した。次いで、「ダイバーシティ&インクルージョン」(39.0%)、「世代間交流」(26.8%)、「まちづくり」(24.4%)と続く。一方、「防災・防犯」「地域産業(援農等)支援」は10%未満であった。競技会場の整備や用具の製造などが影響を及ぼす可能性がある環境問題や、競技を通じた健康増進や教育といった団体の事業に結びつくものは課題の解決に向けて取り組みやすく、関連の薄い課題は低くなる傾向がみられる。

4. デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組み

 DXの取り組み状況についてたずねたところ、「取り組んでいる」が67.6%、「取り組みを検討している」が13.5%であり、8割を超える団体で推進・検討されている.

 DXに取り組んでいると回答した団体の具体的な取り組み内容をみると、「会議のオンライン化」が96.0%と最も多かった。次いで「SNSの活用」をあげる団体が84.0%と、ソーシャルネットワークサービスによる発信を重視する傾向がみられる。

 一方、「コンテンツ配信サービス(OTT)」(24.0%)や「データの戦略的活用」(18.0%)、「デジタル技術の活用」(18.0%)、「NFT・トークンの導入」(12.0%)というように、割合としては多くはないが、新しい収益源となる可能性があるDX化・テクノロジーの活用の兆しがみえる。

5. 収支の状況

 中央競技団体の予算書は、競技団体の事業内容が多様であることを反映してさまざまな収入科目が立てられている。各予算科目の金額やシェアからその実態を把握することが重要となるが、それらの科目の定義は団体間で必ずしも共通してはいないため、比較することが容易ではない。そこで、収入科目を「競技者・団体からの収入」「事業収入」「補助金・助成金」「寄付金」「資産運用収入」と、いずれにも該当しない、あるいは予算書上では判断できない収入を「その他」として分類することで、収入構成の全体的な傾向を明らかにする。

 図表5は、全71団体の総収入合計711億7,900万円の科目構成比(%)を示している。「事業収入」の割合が63.4%と最も高くなっている。次いで比率の高い科目は、「補助金・助成金」の17.5%、「競技者・団体からの収入」の16.5%である。外部から調達した資金のうち、「寄付金」による収入は低く1.4%である。「資産運用収入」は、収入に占める比率が最も低い0.1%となっている。この傾向は過去2回の調査とほぼ同じ水準となっている。

■調査概要

調査名
中央競技団体現況調査
調査対象
(公財)日本オリンピック委員会、(公財)日本スポーツ協会、(特非)日本ワールドゲームズ協会に加盟、準加盟している中央競技団体93団体
調査項目
① 競技人口と登録制度について ② 役職員数について ③ 経営状況について ④ 収支予算について
調査期間
2022年11月~12月
調査協力
(公財)日本オリンピック委員会、(公財)日本スポーツ協会、(特非)日本ワールドゲームズ協会
調査メンバー
武藤 泰明 早稲田大学スポーツ科学学術院 教授
三浦 一輝 愛知学院大学総合政策学部 准教授
吉田 智彦 笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所 シニア政策ディレクター
姜  泰安 笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所 政策オフィサー
目次
テーマ

スポーツ・ガバナンス

キーワード
年度

2022年度

発行者

公益財団法人 笹川スポーツ財団

担当研究者
共同研究者
  • 武藤 泰明 早稲田大学
    スポーツ科学学術院 教授
  • 三浦 一輝 愛知学院大学
    総合政策学部 准教授