まちづくりの基本は、市民が健康であること
チャレンジデーをきっかけにスポーツによるまちづくりを目指す
「スポーツによるまちづくりに目覚めたのは、チャレンジデーがきっかけ。初めて参加したとき、高齢者も子どもたちも含めた市民全員が参加できる素晴らしいイベントだと感動した」と、豊後高田市の永松市長は語っている。
チャレンジデーは、毎年5月の最終水曜日に世界中で実施される住民総参加型のスポーツイベント。同市は08年に初実施して以来、手軽に参加できるラジオ体操やウォーキングを中心にイベントなどを絡めて誰もが楽しめるスポーツのお祭りとして盛り上げている。毎月最後の1週間を「スポーツチャレンジ週間」に決め、スポーツ団体に体育施設を無料開放している。総合型地域スポーツクラブも発足し、NPO認定の準備中だと聞く。国体開催の成果を活かしたカヌースクールなど、様々なスポーツに取り組む環境も整備されつつある。
永松市長は「市民の健康が第一。健康であれば楽しい人生を送れる。高齢者のためのまちづくりを行っているが、いかに高齢者に外に出るきっかけを作るかが課題。チャレンジデーとラジオ体操クラブはコミュニケーションの場、世代間交流の場、健康づくりの場」と話す。
同市の高齢者施策は、全国の自治体に共通する課題へのひとつの模範解答といえる。将来、高齢となる住民の健康のためにスポーツ振興を図る自治体は多いが、永松市長が言うように、スポーツそのものが持つ社会性やコミュニケーション力がまちづくりを進めるうえで重要な役割を果たしていると考えれば、スポーツへの理解はもっと深まるのではないだろうか。
スマートウエルネスシティ・プロジェクト
同様に、岐阜市では「スマートウエルネスシティ・プロジェクト」に取り組んでいる。「快適」(スマート)で「健幸」(ウエルネス)なまちづくりをめざすというものだ。
細江市長は「日本人の平均寿命は長いと言われますが、大切なのは健康的に長生きする、つまり“健康寿命”が長いことです。そのためには医療設備を整えることも必要ですが、若い頃からスポーツに親しみ、健康な身体をつくり、元気な高齢者をめざすことが大切」と話す。
すべての市民がスポーツができるわけではない。運動に親しんでもらうため、歩くこともスポーツと位置づけ、さまざまなウォーキングイベントを展開している。ICT(情報通信技術)を活用した健康意識の向上や地域の健康づくりを図っている。ウォーキング環境の整備には歩行者道路整備も不可欠なため、部局を超えた連携で事業を進めている。
このまちづくりは、財政面で大きなメリットがあるという。岐阜市の高齢者率は20年後に32.4%まで増えるが、健康な高齢者を増やすことで医療や介護費などの社会保障費を抑えることができ、抑えられた費用を健康づくり事業やスポーツ振興に再投資し、好循環を生むというわけである。
細江市長は「私たちが行っているのは、スポーツ振興にとどまらず、人づくり、まちづくり。各地域や環境にとって必要な改革を進めるべき」とのポリシーを語っている。
観光・食・保養も兼ねたスポーツ・ツーリズム
鹿児島県指宿市もまた、スマートウェルネスシティ構想を進め、健康、食、観光、保養のまちづくりをめざしている。
豊留市長は「昔はキャンプのメッカと言われ、一流のプロスポーツ選手が地元の子どもたちに夢を与えてくれた」との自身の体験から、合宿誘致の基盤としてスポーツ施設の必要性をマニフェストに掲げている。
今年31回を迎えた恒例の「いぶすき菜の花マラソン」は2万人近くもの参加者を集める。人気の秘訣は地域ボランティアが沿道で食を提供する“おもてなし”にあるという。「いぶすき菜の花マラソンを中心に年間のマラソンイベントスケジュールを考えている」と豊留市長。フルマラソン完走をめざすマラソン教室などを開催し、観光・食・保養も兼ねたスポーツ・ツーリズムの方向性を模索しているという。