- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
渡邉 現在、岐阜市で取り組んでいるスマートウエルネスシティプロジェクトについて教えてください。
細江 岐阜市のスマートウエルネスシティへの取り組みは、この推進プロジェクトを統括している筑波大学の久野譜也先生が当市出身の方で、岐阜市でもぜひ参加しませんかと声をかけていただいたのが、そもそものきっかけです。
スマートウエルネスシティプロジェクトとは、「快適」(スマート)で「健幸」(ウエルネス)なまちづくりを目指すプロジェクトです。住んでいると自然に元気になれるようなまちを目指し、健康づくりに関心がある人だけではなく、市民の誰もが「健幸」(健康で幸福)になれるような取り組みを行っています。岐阜市のほかにも、多くの自治体が参加しており、福島県伊達市、新潟県新潟市、三条市、見附市や、茨城県つくば市、兵庫県豊岡市、香川県善通寺市、熊本県天草市、で、スマートウエルネスシティ首長研究会をスタートしました。
日本の平均寿命は長いと言われていますが、大切なのは健康に長生きする、つまり“健康寿命”が長いことです。そのためには医療設備をしっかり整えることも必要ですが、若いころからスポーツに親しみ、健康な身体をつくり、元気な高齢者を目指すことが大切だと思います。
私の好きな言葉に「事前の一策は、事後の百策に勝る」という言葉があるのですが、市民の健康づくりにおいても、まさにこの言葉の通りだと考えています。運動不足や暴飲暴食、喫煙が、10年後20年後にどのような結果を生むのかを考えながら市民の皆さんには生活してほしいと思っています。そのきっかけとして、岐阜市では元気な高齢者を目指す動機づくりを行っていきたいと考えているのです。
また、スマートウエルネスシティを推進することは、行政にとっても財政面で大きなメリットがあります。岐阜市の高齢者率は現在の23.7%(2010年時点)から、20年後には32.4%にまで増加することが分かっています。健康な高齢者を増やすことができれば、医療費や介護費などの社会保障費を抑えることができ、抑えられた費用を、あらたな健康づくり事業やスポーツ振興に投資することで、好循環を生むことができるのです。
渡邉 お伺いして、岐阜市が大変さまざまな施策を実施されていらっしゃることが分かりましたが、スマートウエルネスシティならではの取り組みを教えてください。
細江 スマートウエルネスシティ推進プロジェクトでは、ICT(情報通信技術)を活用することで健康に対する意識の向上や、地域の健康づくりの活性化を図っています。ICTを活用することで、兵庫県の豊岡市とも連携することが可能になり、2010年9月には、岐阜市、豊岡市そして筑波大学との連携プロジェクトが、総務省の地域ICT利活用広域連携事業に採択されました。これは総務省の委託事業であるため、約1億3,000万円の事業費を全額国費でまかなうことができました。
この事業の一環として、市民を対象とした有酸素運動や筋力トレーニングなどの健康運動教室を市内3カ所の市民健康センターで開催しました。参加者の半数に双方向通信型デジタルフォトフレームを貸し出し、参加者はデジタルフォトフレームを通じ市とやりとりをしながら、自分の健康づくりを進めることができます。参加者の方には1年間継続して運動教室に参加していただきました。市では運動記録や健康情報を入力するソフトがあり、筋力や体脂肪率などを含めた体力年齢を出すことができるのですが、1年間運動教室での活動を継続した参加者は体力年齢が平均で8歳も若返ったのです(下記グラフ1)。
さらに、高性能歩数計も貸与して参加者の日常生活の動きをデータ化しています。私自身も毎日歩数計を身に付けて、歩数を記録しています。そうすると、「今日はたくさん歩いたな」とか「明日はもっと歩こう」と、歩くことに対する意識が強くなります。ICTを駆使した機器やさまざまな計測器を使うことで、事業の成果を数値で得られるところがスマートウエルネスシティ推進における重要なポイントです。「運動をしましょう」と活動を進めて、「はい、やりました」で終わってしまっては意味がありません。活動によりどのような成果が得られたかを知ることがとても大切なのです。
渡邉 当財団調査によるスポーツライフ・データでは、男性も女性もウオーキングを楽しむ方がとても多いことが分かっています。スマートウエルネスシティの推進においても、ウオーキングを重点的に勧めていらっしゃいますよね。
細江 健康づくりのためといっても、すべての市民がランニングやスキー、野球、サッカー、水泳といったスポーツができるわけではありません。およそ半分以上の方は、走ったり跳んだりもできないかもしれません。しかし、そういった方や、普段家にこもりがちな方にこそ、運動に親しんでもらいたいと考えています。実際、自動車をよく利用すると糖尿病になりやすいという統計も出ています(左記グラフ)。スマートウエルネスシティプロジェクトにおいては、歩くこともスポーツであるとして、さまざまな活動を展開しています。
2011年10月16日(日)に、市民健康まつりと岐阜市農業まつりを開催し、それと同時に「みんなで歩こう!市長と歩こう!健幸ウォーク」も行いました。アメリカでは、メイヤーズ・ウォークといって市長と一緒に歩くイベントがたびたび行われているのですが、それをわが市でも実践したのです。「市長が出るんだったら、ちょっとやってみようか」といったウオーキングの動機づけが目的で、決して私自身をアピールするためではありません。2011年が初めての試みだったのですが、当日は約1,000人の方が一緒に歩いてくださいました。JR岐阜駅から柳ケ瀬周辺を巡るスタンプラリーも開催し、そちらには約3,000人が参加しました。
さらに、2011年で10回目となる長良川ツーデーウオークを開催し、2日間で1,541人に参加いただきました。この大会は、日本ウオーキング協会が主催する、オールジャパンウオーキングカップ認定大会です。岐阜市は平らでなだらかな地形なので、ウオーキングに適した土地なのです。さらに、この大会には市外からもたくさんの方が参加してくださるのですが、金華山や長良川など岐阜市の素晴らしい自然に誰もが驚きます。地域の特性に合ったスポーツ振興を行うことで、事業の継続、さらにはまちづくりが成功するのだと思います。
岐阜市では以前、小学校の校区ごとに散歩マップを作成したのですが、検討から随分時間が経ったので現在作り直す作業を行っています。校区内を歩くコースのほか、自然に親しみたい方向けのコース、名所史跡をめぐるコース、体力強化をしたい方のコースなど、それぞれの好みにあわせて選べるように作成しています。市の職員だけで決めるのではなく、市民の方にご参加いただきながら作り直しています。
渡邉 他の自治体では、中学校区ごとに事業を推進しているところが多いのですが、岐阜市では小学校区というのがおもしろいですね。
細江 岐阜市は、概ね小学校区単位の自治会組織がしっかりしているので、スポーツにとどまらず防災や独居老人の見回りなども小学校区で行っているんですよ。現在50ある小学校区それぞれに体育振興会を設置し、生涯スポーツの普及により地域住民の健康増進と交流を図っています。
渡邉 岐阜市出身の高橋尚子さんがシドニーオリンピックの女子マラソンで金メダルを獲ったことをきっかけに、岐阜市におけるスポーツ事業がさらに充実してきているようですね。
細江 シドニーオリンピックでの高橋さんの偉業をたたえ、その翌年にあたる2001年から岐阜市ゴールデンスポーツタームを設定しました。これは、毎年9月~10月の間に市民の皆さんにスポーツに親しんでいただく期間を決め、その期間中に、市内の各地域で体育振興会が中心となり、市民運動会や「歩け歩け大会」などさまざまなスポーツイベントを行うものです。
毎年、このゴールデンスポーツタームのオープニングイベントには「やまなみジョギング・ウォーキング大会」を開催していますが、金華山の対岸にある百々ヶ峰の道路がコースとなる大会で2011年は、あいにくの雨でしたが146人の市民が参加しました。私も毎年参加しており、2011年はジョギングの部(13.5km)を完走しました。
2011年には、岐阜県、岐阜市、岐阜陸上競技協会、(財)岐阜県イベント・スポーツ振興事業団、中日新聞社で実行委員会を組織し、岐阜市出身の高橋尚子さんを大会長に迎えた高橋尚子杯ぎふ清流マラソンの第1回大会を開催することができました。参加者は全国から約1万人(内約6,500名が他県からの参加)が集い、沿道には約10万人もの人々が応援に駆けつけました。私も21.0975kmのハーフマラソンに参加し、完走することができました。