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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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オリンピックレガシー: 東京1964年オリンピック大会がスポーツ参加に与えた影響 Vol.2

2016.12.16

オリンピックレガシー:
東京1964年オリンピック大会がスポーツ参加に与えた影響 Vol.2

東京1964オリンピックレガシーのメカニズム(Vol.1より続く)

では、なぜ東京1964は長期的なレガシーを残すことができたのか、どのようなメカニズムがあるのか?Aizawaらは 社会生態学モデル(ソーシャル・エコロジカル・モデル)を基に、トリクルダウン効果(トリクルダウン・エフェクト)、仮眠効果(スリーパー・エフェクト)の2つ効果を用いてそのメカニズムを説明している。図2はそのメカニズムを図式化したものである。

社会生態学モデル:
人々の行動は、内生的要因(年齢や性別など)と外生的要因(政策や社会環境など)の影響を受けることを示すモデル (Sallis et al., 2006)

トリクルダウン効果:
オリンピックやワールドカップなどの大規模スポーツイベントが、人々のスポーツに対する態度やスポーツ参加に影響を与えること(Weed, 2009)

仮眠効果:
人々が受け取った情報が信頼の低いものであっても、時間と共に、その情報により人々の考えが影響を受けること (Hovland & Weiss, 1951)

メカニズム1

オリンピックの開催によって、人々のスポーツ参加が高まるメカニズムは、社会生態学モデルの内生的要因と外生的要因から捉えることができる。

≪内生的要因≫
トリクルダウン効果が示すように、オリンピックの開催そのものが人々の心理および行動に影響を与える。

①オリンピック観戦(テレビ観戦も含む)を通して、スポーツに対して好意的な態度を持つ。
②スポーツに対する好意的な態度がスポーツへの参加意欲を高める。
③参加意欲の高まりに伴い、スポーツ参加が増える。

これらの効果は、特にオリンピックコホートに強い影響を与える。そのため、オリンピックコホートは、オリンピック開催が与えるスポーツ参加行動への影響を媒介する変数として捉えられる。

≪外生的要因≫
 オリンピック開催に伴う社会環境の変化が人々の行動に影響を与える。

④オリンピックを開催するにあたり、開催都市および国の政治的環境、行動に関わる環境、社会的環境が整備される。
⑤社会環境の整備により、人々がスポーツに触れる機会が増え、スポーツ参加行動が促進される。

<外生的要因の例>
・政治的環境
 (例)スポーツ基本法の制定、都市環境の整備計画など
・人々の行動に関わる環境
 (例)公共交通機関の整備、スポーツ施設の建設など
・社会的環境
 (例)スポーツ少年団などの組織的サポート、スポーツ文化の醸成など

 ≪内生的要因+外生的要因≫
⑥内生的要因、外生的要因が与える各々の影響に加え、内生的要因と外生的要因が相互に影響しあい、スポーツに対する好意的な態度の形成が助長され、スポーツ参加が増加する。

メカニズム2

長期的なレガシーを考えるには、仮眠効果のメカニズムにより説明することができる。仮眠効果を考慮すると、スポーツ参加行動は①オリンピック開催直後に現れるスポーツ参加行動と、②オリンピック開催直後ではなく、遅れて現れるスポーツ参加行動、の2つのタイプに分類される。前者は、メカニズム1で示したトリクルダウン効果によるものである。後者については、仮眠効果によるものであり、次のメカニズムが考えられる。

①オリンピック開催に伴うプロモーション活動により、スポーツ振興に関する情報を得る。
②その時点では、学校、仕事、家族などに高い優先順位があるため、スポーツ振興に関する情報は日常生活において重要な意味を持たない。一方で、スポーツ振興に関する情報を受け取ったことは個人の中に長く残り、時間と共にスポーツに対する好意的な意識を醸成する。
③時間的、金銭的な余裕を得た後年、過去に受け取った情報および醸成された意識が、スポーツ参加行動に影響を与える。

図2.東京1964レガシーの理論的メカニズム(Aizawaら, 2016を基に筆者改変)

図2.東京1964レガシーの理論的メカニズム(Aizawaら, 2016を基に筆者改変)

これら2つのメカニズムにより、東京1964の長期的なスポーツ参加への影響を理論的に説明することができる。Aizawaらの研究では、東京1964直後のスポーツ実施率に関するデータは取得できていないが、現在、オリンピックコホートのスポーツ実施率は増加傾向にあるため、東京1964の仮眠効果によるスポーツ実施率の増加を捉えていると考えられる。これまで大規模スポーツイベントのスポーツ参加への影響を明らかにした研究では、短期的なスポーツ実施率の変化を分析している上、統一された結果が得られておらず、その影響力には懐疑的な議論があった。しかし、Aizawaらの研究では、より長期的な視点で影響力を検証することの意義を示している。

※本レポートは、米国のミネソタ大学に所属するDr. Yuhei Inoue, Ji Wuとジェームズ・マディソン大学に所属するDr. Mikihiro Satoの共同研究による報告である。

参考文献・リンク

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  2. Breuer, C., & Wicker, P. (2008). Demographic and economic factors influencing inclusion in the German sport system: A microanalysis of the years 1985 to 2005. European Journal for Sport and Society, 5(1), 33-42. doi:10.1080/16138171.2008.11687807
  3. Chalip, L. (2004). Beyond impact: A general model for sport event leverage. In B. W. Ritchie, & D. Adair (Eds.), Sport tourism: Interrelationships, impacts and issues (pp. 226-252). Clevedon: Channel View Publications.
  4. Chalip, L. (2006). Towards social leverage of sport events. Journal of Sport & Tourism, 11(2), 109-127. doi:10.1080/14775080601155126
  5. Frawley, S., & Cush, A. (2011). Major sport events and participation legacy: The case of the 2003 Rugby World Cup. Managing Leisure, 16(1), 65-76.
  6. Gratton, C., & Preuss, H. (2008). Maximizing Olympic impacts by building up legacies. The International Journal of the History of Sport, 25(14), 1922-1938. doi:10.1080/09523360802439023
  7. Hovemann, G., & Wicker, P. (2009). Determinants of sport participation in the European Union. European Journal for Sport and Society, 6(1), 51-59. doi:10.1080/16138171.2009.11687827
  8. Hovland, C. I., & Weiss, W. (1951). The influence of source credibility on communication effectiveness. Public Opinion Quarterly, 15(4), 635-650.
  9. International Olympic Committee. (2015). Olympic charter. Lausanne, Switzerland: International Olympic Committee.
  10. Mark McDonald. (2012, 7/12). ‘Ruin porn’ — The aftermath of the Beijing Olympics. New York Times Retrieved from http://rendezvous.blogs.nytimes.com/2012/07/15/ruin-porn-the-aftermath-of-the-beijing-olympics/
  11. Sallis, J. F., Cervero, R. B., Ascher, W., Henderson, K. A., Kraft, M. K., & Kerr, J. (2006). An ecological approach to creating active living communities. Annual Review of Public Health, 27, 297-322. doi:10.1146/annurev.publhealth.27.021405.102100
  12. 笹川スポーツ財団. (2014). スポーツライフ・データ2014. 東京: 笹川スポーツ財団.東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会. (2016). 東京2020アクション&レガシープラン2016
  13. Veal, A. J., Toohey, K., & Frawley, S. (2012). The sport participation legacy of the Sydney 2000 Olympic Games and other international sporting events hosted in Australia. Journal of Policy Research in Tourism, Leisure and Events, 4(2), 155-184. doi:10.1080/19407963.2012.662619
  14. Weed, M. (2009). The potential of the demonstration effect to grow and sustain participation in sport: Review paper for sport England. Canterbury Christ Church University.
  15. Weed, M., Coren, E., Fiore, J., Wellard, I., Chatziefstathiou, D., Mansfield, L., & Dowse, S. (2015). The Olympic Games and raising sport participation: A systematic review of evidence and an interrogation of policy for a demonstration effect. European Sport Management Quarterly, 15(2), 195-226.doi:10.1080/16184742.2014.998695

レポート執筆者

相澤 くるみ

相澤 くるみ

Visiting Scholar, Research Institute for Sport Knowledge, Waseda University Visiting Scholar, School of Kinesiology, University of Minnesota Correspondent, Sasakawa Sports Foundation