2017.12.21
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2017.12.21
ブラジルのスポーツといえば、誰でもまず思い浮かべるのがサッカーだろう。しかし、近年のバレーボール男子・女子ブラジル代表の国際大会における成績は、サッカー・ブラジル代表を凌ぐ。オリンピックでは、男子が1992年バルセロナ大会、2004年アテネ大会、2016年リオ大会で優勝し、他に銀メダルを2つ獲得している。女子も2008年北京大会と2012年ロンドン大会で頂点に立ち、他に銅メダルを2つ手中に収めた。直近の4大会に限ると、男子はすべての大会で決勝へ進出して金2個と銀2個を、女子も金メダル2個を手にしている。1996年アトランタ大会から正式種目となったビーチバレーでも、過去6大会で男子が金2個、銀3個、銅1個、女子が金1個、銀4個、銅2個を獲得しており、今や、ブラジルは「バレーボール王国」といっても過言ではない。
2016年リオ大会で世界の頂点に立った男子代表に、単独クラブとしては最多の4人を送り込んだのが、サンパウロの郊外にある都市タウバテに本拠を置く「EMS Vôlei Taubaté Funvic」(以下:タウバテ)である。クラブ名にあるEMSとはブラジル大手の薬品メーカーで、Funvicはタウバテ近郊のアニャンガバウーにある医療・体育系大学を指す。
タウバテが練習している体育館の入口の様子
2004年、もともとは「Funvicアニャンガバウー」としてクラブが設立され、2009年に国内トップリーグ「スーペルリーガ」の2部に加入した。2012年、1部に昇格し、2013年から本拠地をタウバテへ移転し、現名称に変わった。2014~15年から2シーズン連続で3位に入ったことで一躍強豪チームの仲間入りをし、昨シーズンは4位だったが、今シーズンは初優勝を狙って好位置につけている。
チームのスーパーバイザーのリカルド・ナヴァジャス氏は、元バレーボール選手で、現役引退後、強豪クラブの監督を務め、ベネズエラ代表を率いて2008年北京大会に出場。その後、サッカークラブの強化部長を務めたこともある異色の人物だ。
ブラジルのバレーボールの組織と体制について、「男子はスーペルリーガ1部が12チーム、2部が9チームで構成されており、うち16チームが完全なプロチーム。全体で約400人のプロ選手がおり、そのうち約50人が海外でプレーしている」と説明する。プロチームの運営方法について聞くと、「多くの場合、民間企業と地方自治体によって共同運営されている。ただし、総合スポーツクラブがプロチームをもっているケースもある」とのことだ(前回の記事で紹介したスポーツクラブ「エスポルチ・クルービ・ピニェイロス」は、女子バレーボールのプロチームを保有している)。代表チームの強化については、「ブラジル銀行(ブラジルの公的金融機関)が1991年からブラジル・バレーボール協会のメイン・スポンサーを務めており、年間約7,000万レアル(約24億5,000万円)を支援している。ビーチバレーを含め、ブラジルのバレーボール代表には潤沢な強化費が割かれており、それがオリンピックなど国際大会での好成績につながっている」。
スーパーバイザーのリカルド・ナヴァジャス氏
タウバテは、人口約30万人の地方都市だ。スーペルリーガのチームの多くが、地方の中小都市に本拠地を置く。その理由を尋ねると、「大都市には複数のプロサッカークラブがあり、市民の関心はどうしてもそちらへ向いてしまい、地方自治体からの援助も受けにくい。その点、サッカークラブがない中小都市なら地方自治体からサポートを受けやすいし、市民の関心も集めやすい」と説明してくれた。世界屈指のサッカー王国だけに、圧倒的な人気を誇るサッカーと競合しながら、プロスポーツとして存在感を発揮するために工夫をこらしていることがうかがえる。
ナヴァジャス氏によれば、「スーペルリーガのトップチームの年間予算は、600万~800万レアル(2億1,000万~2億8,000万円)」で、タウバテの場合はEMSとFunvicが主として運営費用を負担し、タウバテ市が試合会場、練習場などの施設を用意する一方で、「アスリート奨励金」という名目で選手に給料の一部を支払う。この三者以外にも、地元の民間企業27社が資金援助や用具提供などのサポートを行っている。
EMSの広報担当者は、バレーボールチームを支援するメリットについて、「人々の健康増進に寄与することを使命とする薬品メーカーにとって、スポーツに投資することには大きな意味がある」と語り、「バレーボール以外にも、男子バスケットボールのチーム、陸上競技の選手、モータースポーツなどを支援している」と説明する。
Funvicの広報担当者は、「医療・体育分野の高等教育機関として、バレーボール、自転車競技、フットサル、ハンドボールなどのプロチームを支援している。また、これらのチームに所属する選手を特待生として大学へ迎え入れ、彼らのセカンドキャリア構築も手助けしている」と語り、「同じ大学にトップレベルの選手がいることは、一般の学生にとっても大きな刺激となる」と意義を強調する。
取材時、タウバテ市が主催する子ども向けバレーボール教室が行われていた
また、タウバテ市のスポーツ部局の担当者は、「我々は、バレーボール以外にもハンドボール、フットサルのプロチームを支援している。ハンドボールチームは、4年連続で南米クラブ・チャンピオンだ」と語り、「市に異なる分野の強豪プロチームが3つもあることで、市民の間に誇りとスポーツへの強い関心が生まれた」と成果を口にする。そして、「これらのチームの選手たちに、定期的に市内の小、中、高校を巡回指導してもらっている。また、4年前から市がこれら3競技のユースチームを運営しており、将来のトップアスリートを育てようとしている。今や、タウバテは『スポーツのまち』として国内外で広く知られている」と誇らしげだ。
※文中、1レアル=約35円で換算
レポート執筆者
沢田 啓明
Sports Journalist
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation