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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

2023年は野球のおもしろさを再認識した年だった…

佐野 慎輔(尚美学園大学 教授/産経新聞 客員論説委員/笹川スポーツ財団 理事)

 2023年は阪神タイガースが38年ぶりの日本一に輝き、国別対抗戦WBC(World Baseball Classic)で日本代表「侍ジャパン」が3大会ぶりの優勝を飾った。WBCMVPに選ばれ、日本優勝の原動力となったMLBMajor League Baseball)ロサンゼルス・エンゼルス(当時)の大谷翔平は、好調を公式戦でも持続し44本塁打で日本人初のアメリカン・リーグ本塁打王を獲得、自身2度目となるア・リーグMVPに選ばれた。野球界が改めてスポットライトを浴びた年となった。

WBCとにわかファン

2023 WBC。日本が3大会ぶりに優勝。(写真:AP/アフロ)

2023 WBC。日本が3大会ぶりに優勝。(写真:AP/アフロ)

 「野球の年」は39日、東京ドームから始まった。WBC1次ラウンド、プールBの侍ジャパンは注目の二刀流、大谷が先発し中国を8-1で下すと波に乗る。韓国、チェコ、オーストラリアを相次いで破りトップで決勝トーナメントに進んだ。チェコ戦では先発した佐々木朗希(ロッテ)がチェコ選手に死球を与えた後、丁寧に謝り、後日お菓子を手に見舞いに訪れるという微笑ましいエピソードも生まれた。侍ジャパンの球場内外の姿は連日、新聞、テレビ、インターネットで伝えられ、「にわかファン」という言葉がクローズアップされたのはこの頃である。高い関心は実は2月の宮崎キャンプから始まっていた。サンディゴ・パドレスのダルビッシュ有を中心に若いチームがまとまり、日本人の母親を持つセントルイス・カージナルスの外野手ラーズ・テーラー=タツジ・ヌートバーの活躍が大きな話題をよぶ。

 勢いのまま準々決勝ではイタリアを9-3で破る。場所をフロリダのマイアミ・マーリンズの本拠地ローンデポ・パークに移した準決勝メキシコ戦、侍ジャパンは苦戦した。4回に3点を先制され、7回吉田正尚(当時オリックスからボストン・レッドソックスに移籍決定)の3点本塁打で追いついたものの8回に再び2点を奪われた。その裏1点返し、1点差で迎えた9回裏。先頭大谷が二塁打し「俺に続け」とアピールすると吉田が四球を選び、この大会不振だった村上宗隆(ヤクルト)が中越え二塁打。大谷に続いて代走の周東佑京(ソフトバンク)がホームに帰り、劇的なサヨナラ勝ち。野球のおもしろさを凝縮したような試合展開となって、MLB公式サイトはこの試合をすぐに「WBC歴代ベストゲーム」に選んでいる。

 沸騰した話題のピークが米国との決勝戦。米国に先制された日本は村上の本塁打で同点とすると岡本和真(読売)の本塁打などで3-1とリード、8回に1点差とされたが、9回に大谷が抑え役で登板。最後はエンゼルスの同僚マイク・トラウトを空振り三振に切って取って喜びを爆発させた。まるで野球漫画のような展開に日本国内も沸き返った。

 野球の潜在能力の高さに日本中が気づかされ、大谷やダルビッシュ、ヌートバーに吉田、そして米国選手のプレーからMLBへの関心が高まったことを特筆しておきたい。

新しい地平を切り開く大谷現象

ドジャース入団会見での大谷。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ドジャース入団会見での大谷。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 そのWBCの余韻のまま「投打二刀流」の大谷翔平は公式戦でも新しい地平を切り開いていく。

 開幕からフル出場、投打でエンゼルスを牽引し好調に勝利と本塁打を積み重ねた。好事魔多し、823日シンシナチ・レッズ戦のダブルヘッダー第1試合で先発直後、右ひじの故障が再発、その後登板機会はなくなり、2度目のトミージョン手術を受けた。また故障が発覚した日の第2試合で44号本塁打し、さらに指名打者として9試合打者出場し続けたが94日の試合前の練習中に右わき腹を負傷、ついに戦列から離れた。それでも打っては135試合に出場、497打数151安打、打率.30444本塁打、95打点、20盗塁。投げても23試合に登板、105敗、167奪三振、防御率3.14。あのベーブ・ルースさえ果たし得なかった2年連続2桁勝利、2桁本塁打を記録。日本人初のア・リーグ本塁打王に輝き、21年以来2度目のMVPに満票で選出された。さらにハンク・アーロン賞、MLBファーストチームに史上初めて先発投手と指名打者2部門で選ばれる文句のない活躍ぶりであった。

 大谷の魅力はしかし、そうした野球面の活躍に留まらない。驚異の記録、肉体のたくましさと反比例した「野球少年」がそのまま大きくなったような「笑顔」と「野球愛」の発露。グラウンドに落ちているゴミを拾い、垣間見せる相手の選手や審判をリスペクトする姿。また野球の普及と発展を願い、日本全国の小学校約2万校に3個ずつグラブ、それも右利き用2個に左利き用1個を贈る気配り。そうしたことが国内外を問わず多くの人たちの共感を集めた。それこそが大谷現象の神髄であると言ってもいい。

 シーズン終了と共にフリーエージェントとなった大谷の次の球団がどこになるか、日米で大きな話題を集めた末に、西海岸の名門ロサンゼルス・ドジャースに決めたと自身のインスタグラムで発表したのは129日。107億ドル(約1015億円)というプロスポーツ史上最高金額での移籍は優勝を渇望する大谷の思いと共に新たな時代の幕開けを予感させる。

岡田の復帰が「虎」の「アレ貫徹」につながった

阪神を38年ぶりの日本一に導いた岡田監督。シーズン中に発言した「アレ」は2023年流行語大賞に。(写真:西村尚己/アフロ)

阪神を38年ぶりの日本一に導いた岡田監督。シーズン中に発言した「アレ」は2023年流行語大賞に。(写真:西村尚己/アフロ)

 茫洋とした表情と裏腹の頑固なまでの野球への姿勢、岡田彰布を監督に復帰させたことが長い雌伏を超えて猛虎を蘇らせたことは言うまでもない。長く岡田とともに歩んできた日刊スポーツの名物記者、内匠宏幸がスポーツ誌「Number」に書いている。「昨年と今年の開幕戦の戦い方、その違いに「『岡田野球』の真髄がぎっしりと詰まっていた」と…。

 今年の開幕戦はDeNA相手。リードした展開だったが8回表に2点を奪われて2点差に迫られると、岡田はその裏、1点をしつこく取りに行く。2点差を3点差に広げる。その差が守りに大きく影響するからだと内匠は分析している。昨年の開幕戦はどうだったか。阪神は7点リードしながらヤクルトに逆転負けした。1点をおろそかにして、勝ちパターンのリリーフ投手から使わなかったからだと評論家の岡田が指摘したという。「どうして自分たちの勝ちパターンを崩したのか、それが疑問だよな」と岡田は内匠に告げた。

 昨年秋、阪神監督に復帰した岡田は秋季から春季キャンプまで選手の特徴を見極め、1番近本光司、2番中野拓夢のコンビに加え、4番には大山悠輔を固定、たとえ調子を落としても大山を動かすことはしなかった。また遊撃から二塁にコンバートした中野の後に木浪聖也をいれて8番に置き、中心選を固めた事で打線、守りに責任感が生まれた。1点を無駄にしない岡田野球が出来上がったわけである。

  投手陣では1軍未勝利3年目の村上頌樹を「ボールに力がある」と抜擢。村上は4月12日の巨人戦に2年ぶりに先発すると140km台後半のストレートを武器に多彩な投球で7回をパーフェクト。8回に代打を告げられて大記録の夢はついえたが、大きな自信はその後のMVPと新人王のダブル受賞につながる。選手をみる岡田の眼の確かさである。

 その岡田が言いだし、2023年流行語大賞に輝いたのが「アレ(A.R.E)」という名言。15年ぶりに阪神のユニホームに袖を通した岡田はそれを憂慮、「近すぎずちょうどいい距離感」の言葉として「アレ」を使い始め、英語に堪能な夫人がAは「Aim(目標)!」、Rは「Respect(敬い)!」、Eは「Empower(力付ける)!」とバージョンアップさせて見事な標語にしたてあげた。

 この「アレ」がファンの話題となり、選手たちを後押しして18年ぶりのリーグ優勝。さらに38年ぶりの日本一の座に駆けのぼる。まさに「アレ貫徹」であった。

エンジョイ・ベースボールと野球の楽しみ方

 5月にコロナウイルス感染症の感染症法上での位置づけが季節性インフルエンザと同じ5類に移行したことに伴い、スポーツ観戦での応援規制が撤廃され、甲子園球場では毎試合、虎ファンが「六甲おろし」を吠えまくった。その甲子園球場が「若き血」に包まれたのは8月、夏の甲子園「全国高等学校野球選手権大会」だった。

 神奈川県代表の慶應義塾高校が勝ち進むたび、甲子園には慶應義塾の応援歌「若き血」が流れ、「陸の王者、慶應」が轟いた。決勝戦では高校OBばかりか、慶應義塾大学のOBOGたちもはせ参じ、対戦相手の宮城県代表・仙台育英高校を圧倒。少々応援に熱が入り過ぎて批判の対象になったものの、1916年第2回大会の前身慶應普通部以来、107年ぶりの優勝は高校野球に新たな風を吹かせた。

 慶應野球のモットーは「エンジョイ・ベースボール」。高いレベルをめざし、自分で考えて辛さを乗り越えていく、それを楽しいと思うところに神髄がある。慶應の球児たちが丸刈りではなく、長髪だったことばかりが話題になったが、そうしたレベルで語っていてはいつまでたっても高校野球についてまわる「規律」「教育という名の行き過ぎた指導」から離れることはできない。慶應野球の優勝はそうしたことをも我々に考えさせてくれた。

 そしてその高校球児たちを追うように、秋の東京六大学リーグ戦を制した慶應義塾大学が明治神宮野球大会に優勝。大学日本一に輝いた。

 2023年はWBCMLB、阪神タイガース、そして慶應の野球を通して野球は楽しいものだと改めて感じさせてくれた。その楽しさをスタジアムで表現しようとしたのが、3月に開場した「エスコンフィールド北海道(エスコンF)」。北海道日本ハムが札幌ドームから移転した本拠地である。約600億円の総工費をかけて球場内には野球以外も楽しめる施設が創られ、ボールパークと称される球場の周囲にはマンションが建ち、宿泊施設、アウトドアが楽しめるスペースや商業施設も。2028年には北海道医療大学がキャンパスを移し、大学病院が開設、JR北海道の新駅も建設も予定。まさにスタジアムを中核とした街づくりが北の大地で始まっている。

 野球の年の掉尾を飾ったのはオリックスからMLB入りを目指した球界のエース山本由伸。数ある球団から選んだのは大谷と同じドジャースだった。1232500万ドルはMLBの投手史上最高額、最長契約である。大谷の契約金「後払い」契約で資金を山本に投入した戦略の勝利と言えよう。背番号は大谷17、山本18と並ぶ。来る年も野球から目が離せない。

  • 佐野 慎輔 佐野 慎輔   Shinsuke Sano 尚美学園大学 教授/産経新聞 客員論説委員
    笹川スポーツ財団理事/上席特別研究員
    報知新聞社を経て産経新聞社入社。産経新聞シドニー支局長、外信部次長、編集局次長兼運動部長、サンケイスポーツ代表、産経新聞社取締役などを歴任。スポーツ記者を30年間以上経験し、野球とオリンピックを各15年間担当。5回のオリンピック取材の経験を持つ。日本スポーツフェアネス推進機構体制審議委員、B&G財団理事、日本モーターボート競走会評議員等