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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

地域創生と大学の地元密着を考えた

SPORT POLICY INCUBATOR(24)

2023年1月18日
佐野 慎輔 (尚美学園大学 教授/産経新聞 客員論説委員/笹川スポーツ財団 理事)

 コロナ禍下での行動制限緩和に流されたわけではないが、間隔を置かず3つの都市に出かけた。富山県高岡市と長野市、札幌市。「行ってみたい街」「暮らしたい街」にも名前があがる札幌と長野には旅行者と街の活気の回復傾向を感じた。

 翻って、金沢市と富山市に挟まれたわが故郷は相変わらず中心部はシャッター街で人通りもまばら。それでも人口17万人、地域の中心であり、総務省「連携中枢都市」にも名を連ねる。そうしたネットにも掛からない地域ではより落ち込みが進んでいるに違いない。

地域の活性化は都市特性に合わせて

 スポーツ庁は2020年東京大会終了後、地域スポーツ課を設置。スポーツによる地域創生、地域活性化を前面に打ち出した。

 スポーツによる地域創生と聞くと、市民マラソンなどの「イベント開催」、観光庁と連携した「スポーツ・ツーリズム」や経済産業省が後押しする「スタジアム・アリーナ改革」が思い浮かぶ。確かに北海道北広島市に20233月完工を目指す北海道日本ハムファイターズのボールパーク「エスコンフィールドHOKKAIDO」は、スポーツ施設を中核とした新たな街づくりのあり方を示している。西九州新幹線が開通した長崎ではジャパネットHDが主導する長崎スタジアムを中心としたプロジェクトが2024年に完成、長崎を変えるだろう。ツーリズムの発展、観光客増加への期待は大きい。

 しかし、それらは中核となる民間企業の推進力、交通インフラを始めとした地勢的な条件、自治体の規模などに恵まれて初めて実現する事業だ。すべての市町村に敷衍(ふえん)する話ではない。だからこそ画一的ではない、地域の実情に応じた細やかな政策が求められる。地域に応じた予算配分が重要になってくる。

 野村総合研究所は2022年4月、札幌など「政令指定都市」、長野や長崎も含む「中核市」と「県庁所在地」、つくば市や松本市など「施行時特例市」の住民を対象に「スポーツ環境がスポーツ実施率、観戦率を高め、街づくりの効果として表れているか」を調査。「する」「みる」「ささえる」環境が整っている総合点でランキングを公表した。

 「総合」では横浜をトップに札幌、長野、広島、千葉がスポーツ環境の優れた都市ベスト5となった。「みる」では長野に代わって大阪が3位。これら都市に共通するのはプロ野球、Jリーグの本拠地である事だ。一方、「する」環境では鳥取、長岡、松本の順で、「ささえる」は福井、山形、前橋がベスト3となり、地方都市のスポーツに関わる姿勢が垣間見える。実施率は名古屋、北九州、大阪、神戸の順。注目は大阪のベッドタウン八尾が5位にはいった事か。

 大都市がスポーツ環境で高い数値を記録するであろうことは容易に想像できた。一方で「する」「ささえる」では予想しない市が浮上した。言い換えれば、この結果はそれぞれの都市の特性に他ならない。

スポーツ環境「する」「みる」「ささえる」の合計スコアで1位となった横浜市(野村総合研究所調査)。「横浜スタジアム」はその中核。

スポーツ環境「する」「みる」「ささえる」の合計スコアで1位となった横浜市(野村総合研究所調査)。「横浜スタジアム」はその中核。

長野市長とラジオ体操

 総合3位の長野市は3つの要素すべてに高い数値を示し、充実したスポーツ環境を有していると評価された。しかし、実施率は平均値を下回った。環境整備は1998年長野オリンピック・パラリンピック開催の遺産ではあるが、レガシーは十分に活かされているとはいえない。

 いま荻原健司市長がラジオ体操を推奨、毎週金曜日に市内各地の会場をめぐって市民とラジオ体操で交流している。かつてのノルディックスキー複合の五輪金メダリストらしい方法で地域の人々と交わり、やがて長野にスポーツによるコミュニケーションの場が育ち、スポーツ実施率も高まっていくに違いない。

 しかし、これもまた長野の都市特性。地域独自のスポーツによる活性化に他ならない。環境や自治体規模の異なる地域には、それぞれの方法があって然るべきだ。

 地域の独自性を考えるとき、いつも地域に根差す大学の存在に思いを致す。それぞれの地方に立脚した大学の持つ施設、研究成果、学生や研究者といった人材などの活用が地域独自の取り組みを生み出すと考える。

大学の資源を有効活用するためには

 スポーツ庁は「スポーツによる地域活性化推進事業」のスキームに大学を織り込む。各省庁が推進する地域振興にも大学は組み入れられて、「大学の知」を新しい産業の創出や地域課題の解決に活用する試みが進む。それが確かな地域資産となれば心強い。何より、若い人たちが通う大学の存在そのものが地域に活力を生むのだ。

 大学の活用に不可欠なポイントとして大学間のネットワーク構築を指摘しておきたい。地域の規模、背後の産業、自然条件等の似ている大学どうしの連携、連帯が進めば研究成果の共有が期待できる。また学部間の垣根を超えた連携、例えば医学、理工学系学部とスポーツ関係学部との連携とそこに経済、文化領域の学部の融合があれば、省庁の縦割り行政に“横ぐし”を刺す事も可能ではないか。いわゆる「学際産業」の派生も期待できる。なかでも近隣地域の大学、学部間ネットワーク促進は地域活性化に不可欠と言ってよい。

 近年、地方の国公立大学を中心に地域創生学部、学科が増えている。地域資源の活用と地域に密着した大学を目指す姿勢の現れであり、学際を意識した取り組みである。一方、地方大学の多くは大都市圏の大学に比べて置かれている環境は厳しい。私の故郷では、地場産業と関係の深い国立大学の芸術工学系学部が存在感を示す一方、私立の法科系単科大学は経営に苦労している。

 文部科学省がコロナ前に実施した調査では大都市圏以外の都市では自県内の大学への進学率は低く、医学、教育学系を除けば地元就職率も低い結果が示された。進む大都市圏大学のブランド化に加え、地元に魅力的な企業の少ない事も理由にあげられよう。

 大学の積極的な参画は地域創生に大きな役割を示す。政府には大学の地域貢献を下敷きに、施設活用に向けた特例措置や特区制度の創設、自治体との共同研究への予算措置、連携強化のための法的な後押しなど、地域特性に根差した支援策を講じていただきたい。さらに大学間ネットワーク構築にも背中を押すような施策があって然るべきだ。

<参考文献>

スポーツ庁ホームページ:令和5年度予算概算要求(2022831日)
https://www.mext.go.jp/sports/content/20220830-spt_sseisaku01-000024691_1.pdf

「スポーツ環境」に関する都市ランキング:野村総合研究所(2022年4月28日)
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2022/cc/mediaforum/forum333

中枢中核都市の現状について:総務省(平成30921日)
https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/chiikimiryoku_souzou/h30-09-21-shiryou1.pdf

地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ:内閣府総合科学技術・イノベーション会議令和4年2月1日
https://www8.cao.go.jp/cstp/output/kenkyudai_pkg_p.pdf

  • 佐野 慎輔 佐野 慎輔   Shinsuke Sano 産経新聞客員論説委員、尚美学園大学スポーツマネジメント学部教授
    笹川スポーツ財団理事/上席特別研究員
    報知新聞社を経て産經新聞社入社。シドニー支局長、運動部長、サンケイスポーツ代表、産経新聞社取締役等を歴任。スポーツ記者を30年間以上経験し、野球とオリンピックを各15年間担当。5回のオリンピック取材の経験を持つ。日本オリンピックアカデミー理事、野球殿堂競技者表彰委員、早稲田大学非常勤講師等