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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

スポーツSDGsには資金導入システムが必要だ

SPORT POLICY INCUBATOR(11)

2022年2月16日
佐野 慎輔 (尚美学園大学 教授/産経新聞 客員論説委員/笹川スポーツ財団 理事)

 年明けの日本経済新聞1面に興味深い記事が載った。「世界1,500団体に拡大 化石燃料から投資撤退表明」という記事である。石油や石炭など化石燃料を手がける企業から年金基金や大学、自治体などが投資撤退を表明。2021年12月時点で1,502件にのぼったという。

 国連の「Sustainable Development Goals(SDGs=持続可能な開発目標)」設定以来、企業のSDGsへの取り組みが進む。街で、あの17色の丸いバッジをスーツの襟に付けたサラリーマンの姿を目にする機会も少なくない。背景には社会の意識変革に対応し、社会貢献(CSR)を進める企業の思惑がある。と同時に機関投資家の金融投資をにらんだ中長期戦略だと考えられよう。

 近年、メディアでは「ESG投資」あるいは「インパクト投資」が話題にあがる。前者は「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」問題への取り組みを評価して投資企業を選別するもので、冒頭に掲げた記事がそれにあたる。後者は前者のいち手法ではあるが、「社会的成果」と「財務的リターン」を同時に生み出す事を意図した独自性の高い投資手法である。

 利益の追求と企業間競争が激化すれば社会的な公正や環境保護が犠牲にされかねない。そこに歯止めをかけつつ、いかに金融投資をうながしていくか。世界のSDGs市場は20兆ドルに及び、日本の2020年度インパクト投資残高は約5,126億円にのぼるとされる。取り組み次第では企業のブランド価値を高め、企業の事業投資や消費活動の起点ともなりうる。企業としては敏感にならざるを得ない。

 スポーツ界がSDGs対策、とりわけ冬季オリンピックにおける環境対策に着手したのは早かった。きっかけは1970年代に起きた「環境破壊」批判。オリンピックの競技会場設営のために森林伐採が進んだ事への危惧だった。

 象徴が1972年札幌大会スキー滑降会場の恵庭岳。撤去された施設跡地に植林し現状復旧を図った。8億円で造成、3億円かけた復元工事はオリンピック史上初の環境保護対策となったが、植栽選びの難しさで完全復元に至らず、自然を旧に復す困難さを実証した。

 4年後の米国デンバーは住民の反対で開催権を返上。1980年レークプラシッドでは施設建設に厳しい注文がつき、1988年カルガリーでは抗議活動も起きた。

 国際オリンピック委員会(IOC)はこれをうけて1994年、「環境」を「スポーツ」「文化」と並ぶオリンピック・ムーブメントの柱と定め、1996年には「持続可能な開発」を「オリンピック憲章」に明記した。1998年長野はその最初の大会。環境問題から滑降とバイアスロンの会場を変更し、滑降のスタート地点では開幕1カ月前まで議論が続いた。以来、招致段階から環境対応が求められている。

 スポーツ用品メーカーはIOCに倣い、環境問題に傾注してきた。先駆となったのはミズノ。1991年に長野開催が決まると、社内に環境プロジェクトを設置し、リサイクルラバー使用のシューズ開発と再生可能段ボール使用に着手した。ゴールドスポンサーとなった長野大会では役員のユニホームを再生可能な素材で製作、1着リサイクルすると石油約10ℓが節約される商品を開発した。これを契機に世界のスポーツ用品メーカーに環境への意識が波及していった。リサイクル可能なシューズ、ユニホームの開発や各工場、施設でのCO2排出量の削減でも各社が競う。スポーツ用品業界挙げた取り組みとなって久しい。

 背景に消費者の存在がある事は言うまでもない。企業の姿勢を見せる事でブランドイメージを高め、消費活動を促進させる狙いだ。

2020年東京オリンピック・パラリンピックの日本選手団公式ウェアは、アシックスが約4トン収集した古着をリサイクルした繊維で製作した。(野球 決勝戦 表彰式)写真:フォートキシモト

2020年東京オリンピック・パラリンピックの日本選手団公式ウェアは、アシックスが収集した約4トンの古着をリサイクルした繊維で製作した。(野球 決勝戦 表彰式)写真:フォートキシモト

 スポーツには「する」「みる」「支える」活動を通し、「健康」「教育」「福祉」「食生活」「技術革新」から「世界平和」「共生社会の実現」など多岐の分野に影響を及ぼす力がある。その力を活かすためには意識の向上とともに、事業の展開が求められる。

 事業展開には投資が必要。しかし、政府等からの助成、一般観客の入場料収入に頼るスポーツ界は自己資金を持たない。企業スポンサーや入場料収入に加え、さらに広く外部からの資金導入を図る事が必須となる。

 日本のスポーツ界は2019年、企業のガバナンスコードに倣い、「スポーツ・ガバナンスコード」を作成、制度化した。しかし、実効性が伴っているとは言い難い。英国のスポーツ界のようにガバナンスの遵守、公明な情報開示が外部からの投資を生むシステムがなければ、実効性は持ち得ないだろう。

 SDGsについても同様である。企業にみられる「インパクト投資」や「ESG投資」のような評価システムが構築されない限り、外部からの資金導入は得られず、政策の実効性は担保されないように思う。

 スポーツ庁が掲げる2025年までにスポーツ市場規模を15兆円規模に伸ばすプロジェクトは、新型コロナウイルス感染蔓延下、計画の再構築が必須となった。頼みの綱のスポーツツーリズムは大打撃をうけ、スポーツ用品業界、プロスポーツ界の伸長は企業努力に頼らざるを得ない。地域振興や健康長寿の伸長など政策の遂行のためにも、外部資金導入にむけたスポーツ版「ESG投資」「インパクト投資」を考えていく必要があろう。

<参考文献>

  • 「持続可能な開発目標(SDGs)報告2021」国連広報センター
  • 「スポーツ国際戦略について」スポーツ庁
  • 「日本におけるインパクト投資の現状と課題‐2020年度調査」Global Steering Group for Impact Investment国内諮問委員会
  • 「スポーツSDGs概論」神谷和義・林恒宏著(学術研究出版・2020年)
  • 日経新聞
  • 佐野 慎輔 佐野 慎輔   Shinsuke Sano 産経新聞客員論説委員、尚美学園大学スポーツマネジメント学部教授
    笹川スポーツ財団理事/上席特別研究員
    報知新聞社を経て産經新聞社入社。シドニー支局長、運動部長、サンケイスポーツ代表、産経新聞社取締役等を歴任。スポーツ記者を30年間以上経験し、野球とオリンピックを各15年間担当。5回のオリンピック取材の経験を持つ。日本オリンピックアカデミー理事、野球殿堂競技者表彰委員、早稲田大学非常勤講師等