2025.4.7
北広島町(広島県)
箕野 博司町長 対談
2025.4.7
北広島町(広島県)
箕野 博司町長 対談
今回のスポーツでアクティブなまちづくりは、広島県北広島町です。ユネスコの世界無形文化遺産に登録されている花田植(はなたうえ)、観光資源として注目される神楽など、郷土芸能が盛んです。四町合併により、町としては中国地方一の広さを誇る北広島町を、スポーツでどのようにまとめているのか。箕野博司町長にお話を伺いました。
―― 一般的にスポーツといえば、サッカーやバレーなど、いわゆる体育の授業や運動部活動で経験したことがある競技スポーツをイメージする方が多いと思います。でも、北広島町ではちょっと違うのです。
箕野町長 北広島町では、スポーツを生活の中にある多様な活動、要するに一般的なスポーツよりも少し幅広い視点で捉えています。「する・みる・ささえる」など、スポーツを通じた活動全般を「きたひろスポーツ」、通称「きたスポ」と呼び、そのように推進しています。
―― 「きたスポ」では、体操や散歩のような気軽にできる運動から、清掃活動や草刈りまでがスポーツに含まれます。通勤・通学時の徒歩や自転車もスポーツとして推奨しており、なんと自転車での通勤・通学の増加率が全国1位になったこともあるんです。
渡邉理事長 非常にスポーツを広角に捉えていますよね。
箕野町長 通常、「スポーツをする」となると、運動公園のような場所へ行き、競技では人数をそろえて取り組む形になりますよね。もちろん、それも楽しいですが、もっと身近にできることもあるのではないかと考えました。楽しみながら取り組めることも含めて、スポーツとして推進していきたいと思っています。
渡邉理事長 なるほど。ある意味、スポーツ庁が推進しているスポーツ政策や、厚生労働省が進めている健康づくりの政策とうまく融合したものが、北広島町のスポーツ推進計画に落とし込まれていますね。とても感心しました。
箕野町長 ありがとうございます。
―― 北広島町といえば、郷土芸能が有名です。「壬生の花田植(みぶのはなたうえ)」は、毎年6月に豊作を願って行われる伝統行事で、2011年にはユネスコの無形文化遺産にも登録されました。また、北広島町には約70もの神楽団があり、非常に盛んです。秋の実りに感謝し奉納される舞には、神話や伝説が取り入れられ、民俗芸能として大切に伝承されています。
箕野町長 北広島町は、日常の中でこうした伝統文化を育んできた町です。花田植や神楽が非常に盛んで、それらも実は身体をかなり動かすので、結構しんどいです。通常のスポーツよりも、むしろ大変なくらいです。
渡邉理事長 そうですね。こちらですよね。
箕野町長 花田植も、早乙女やサンバイ(音頭取り)も楽そうに見えますが、実際にはかなり大変です。楽(がく・囃し手)の人たちも身体を反らせてさまざまな動きをするので、見た目以上にハードなんですね。また、練習も繰り返し行われています。神楽の場合、神楽団によって違いはありますが、週に2回から3回の練習を重ねています。こうした活動も立派なスポーツではないかと考え、「きたスポ」の一環として取り入れています。
渡邉理事長 はい。こういった伝統文化を通じて、地域づくりにもつなげていけると素晴らしいですね。
箕野町長 はい。
―― チャレンジデーは、住民総参加型のスポーツイベントとして、笹川スポーツ財団が2023年度までコーディネートしていました。事業終了後の2024年度も、北広島町では町民の運動習慣化づくりのために、独自にチャレンジデーを実施しています。朝昼晩のラジオ体操、スポーツ施設の無料開放、スポーツ体験会の実施など、大いに盛り上がりました。
渡邉理事長 ちょうど覚えているのですが、平成の大合併で4町が合併しましたよね。最初はそれぞれでチャレンジデーを開催していましたが、あるタイミングから合併したのだからと、一斉に実施するようになりました。
町長として、一斉に開催することによる効果を感じている点はありますか?
箕野町長 まだ、ひとつになったという一体感はなかなか醸成できていませんでした。しかし、一緒に取り組むことで、「全体でどのくらいの参加率を目標にしよう」「ここはよく頑張っているから、ほかの地域も努力しよう」といった形で協議ができ、一体感が生まれたと思っています。
渡邉理事長 なるほど。今後の展望については、どのようにお考えでしょうか。
箕野町長 はい。本町としては、スポーツに一生懸命取り組もうと考えています。そのきっかけづくりとなるようなイベントにしていきたいと思っています。
渡邉理事長 なるほど。実は、多少趣向を変えて、チャレンジデーから「アクティブチャレンジ」という名称に変更し、全国の自治体の皆さんと一緒に取り組もうと考えています。ぜひ、ご活用いただければと思います。よろしくお願いします。
―― 箕野町長の母校でもある広島大学と北広島町では、心の健康を目指し、心の健康の可視化に向けた実証実験を始めています。
渡邉理事長 具体的には、どのような取り組みなのでしょうか。
箕野町長 スマートウォッチのようなデバイスを活用し、さまざまなバイタルデータを測定しながら、毎日質問に答えていく仕組みになっています。たとえば、「今日はどんな気持ちか」といった質問に回答することで、「少し憂鬱になっている」「ストレスがたまっている」といった状態を把握できます。それを蓄積し、研究を進めることで、「こういうことがあると、こういう変化が起こる」という傾向をある程度分析しているようです。
渡邉理事長 はい。あと、光ケーブル網が町全体に敷設されているのですか?
箕野町長 はい、そうなんです。デジタルデバイド(情報格差)が課題とされてきましたが、補助事業の活用により、ようやく町全体をカバーできました。
渡邉理事長 なるほど。
箕野町長 これを利用して公共交通とかいろいろな地域課題があるわけで、そういうものに使っていきたいなと。今は携帯で公共交通などを予約したりすれば、AIが判断して、何時何分頃にマイパスみたいな形でできるようになっている。デマンドタクシーですね。そういう面ではだいぶ近づいてきているのかなという気がします。
渡邉理事長 理系のご出身ですから、ぜひそういったこの文明の力を活用して柔軟にサービス提供が進んでいくといいですね。
箕野町長 はい。
箕野町長 私も時々行かせてもらって選手の方に話を聞くんですが、「事故で足を失い家に閉じこもってばかりいたが、この秋アンプティサッカーに出会って友達もでき、明るくなれた」と「本当によかった」というふうに言われていました。これこそスポーツの素晴らしさだと感じています。
渡邉理事長 町長はアンプティサッカーに参加されたことはありますか。
箕野町長 いや、ちょっとまねごとをしたんですね。でも本当に全国大会に出るような選手の人らはすごい迫力があって、とても私らがちょっと入ってやるような話じゃないなと感じました。
渡邉理事長 まさにアスリート志向の方も非常に多いですからね。
箕野町長 そうなんですね。
渡邉理事長 トップになるとパラリンピアンになるし、世界大会に出るということになろうかと思います。
―― 北広島町には工業団地があり、外国人の移住者が700人近くいるそうです。
渡邉理事長 現在、多文化共生が重要なキーワードになっています。障害の有無はもちろんのこと、性別や年齢、国籍を問わず、どのように地域社会を築き、活性化していくかが問われています。その中で、スポーツがひとつキーワードになってくるだろうという話なんですね。
箕野町長 北広島町には多くの外国人の方が住んでおられます。仕事が終われば母国へ帰るだけではなく、せっかく北広島町に住んでいただいているのですから、一緒に活動ができないかと考えています。日本独特の文化である華道や茶道など、さまざまな体験を通じて日本文化を経験してもらいたいという思いがあります。そうしたイベントを開催したいですし、まずは顔見知りになり、話ができる関係を築くことが大切です。そういう意味では、スポーツが最適な手段だと思います。バレーボールを一緒にすることで、笑い合い、楽しむことができ、何も喋らなくても友達になれるのです。まずはそこの段階はスポーツが一番いいなと考えています。
渡邉理事長 先ほどおっしゃった「きたスポ」の中には、神楽や田植えなども含まれているとのことでしたので、そうした文化的要素もうまく活用できるといいですね。
―― 1日中楽しめる滞在型の道の駅「豊平どんぐり村」では、そば打ち体験や温泉宿泊施設が完備されています。
渡邉理事長 日本人はおそばが大好きですよね。
箕野町長 ここには、そば打ちの名人として知られる高橋名人がいらっしゃいました。昇段試験のような制度があり、一定の段位に達すると店を出せる仕組みになっています。そのため、有段者の方々がしっかりとした技術でそばを打っており、味は間違いないと思っています。
渡邉理事長 地域資源が豊富ですね。
箕野町長 北広島町には、素晴らしい資源が数多くあります。写真家の方など、多くの方に訪れていただいていますが、なかなかお金を落としてもらえていないというところもあります。そこで、さまざまな関係機関と連携し、観光客の皆さんに楽しんでいただき、感動を与えられるようなメニューを充実させたいと考えています。そうすることで、訪問者が増え、地域経済にも好影響をもたらすのではないかと思っています。今後は連携を強化し、コンソーシアムのような形で取り組んでいきたいと考えています。
渡邉理事長 なるほど。こういった循環が、これからの地域活性化には重要ですね。
箕野町長 そうですね。
―― 全国には海沿いを走るサイクリングコースが数多くありますが、北広島町では山沿いを走るサイクリングコースも人気を集めています。
渡邉理事長 自転車通勤・通学を奨励されていましたが、スポーツツーリズムとしてのサイクリングも盛んに行われているそうですね。
箕野町長 はい。山の中を走るサイクリングも非常に魅力的だと考えており、多くの見どころがあると思っています。また、「Fun Ride ひろしま in やまがたサイクルランド」を、本町と安芸太田町で共同開催しています。以前は8月に開催していましたが、暑さの影響が大きいため、現在は秋に開催するように変更しました。
渡邉理事長 参加者はどの程度いらっしゃいますか。
箕野町長 まだ小規模な大会ですが、現在は100名から150名ほどの方にご参加いただいています。一時は参加者が減少していましたが、徐々に回復しており、東京や大阪からの参加者も増えています。
渡邉理事長 そうすると、北広島町に宿泊される方も相応にいらっしゃるのですね。まさに地域経済の活性化にも一役買っていますね。
箕野町長 はい。さらに、こうしたイベントの宿泊者向けに神楽観賞をセットで提供できれば、より楽しんでいただけるのではないかと考えています。
渡邉理事長 セットになるといいですね。
箕野町長 そうですね。
―― 北広島町には、日本初の地域密着型ソフトテニスクラブチームがあります。特徴は、クラブのメンバー全員が北広島町に移住し、町内で働きながら地域に根ざした活動を行っていることです。地域住民との交流の機会が多いため、「どんぐり北広島ソフトテニスクラブ(愛称:ドン北)」の選手は、町民にとって娘や孫娘のような存在になっているといいます。
箕野町長 このクラブはもともとNTTのチームでしたが、当時から北広島町豊平の運動公園を練習拠点としていました。練習を見かけた地域の方々が、お米や野菜を差し入れされるなど、交流が続いていました。それならば、北広島町で地域密着型のクラブとして活動したらどうかという監督の思いもあり、正式に移転を決められました。地域の皆さんとのつながりが深まる中で、そのような決断をしてくださいました。
渡邉理事長 まさに交流人口から定住人口へと変わるプロセスが、ここにあったということですね。
箕野町長 地域の方々も熱い応援をされており、私もこのあと試合を観戦して応援しようと思っています。特に高齢者の方々を中心に、ピンクの旗を振って熱心に応援されています。
渡邉理事長 まさに地域密着型の、我が町のソフトテニスクラブですね。
箕野町長 はい。本当に地域の活性化にも、大いに貢献していただいていると思います。
―― 2024年末に行われた皇后杯全日本ソフトテニス選手権では、どん北の高橋・岩倉ペアが見事準優勝を果たし、銀メダルを獲得。国内外の大会でも好成績を収める強豪チームでもあるのです。
箕野町長 芸北地域には、広島県立加計高等学校芸北分校があり、そこの女子ソフトテニス部が頑張っています。どんぐり北広島ソフトテニスクラブ(どん北)への加入を目指し、「芸北分校でしっかり鍛えれば、どん北に入れるかもしれない」と頑張っている選手もいます。
渡邉理事長 目指すべき場所が、手の届く範囲に見える形で整ったわけですね。
箕野町長 その結果、東北から鹿児島まで全国各地から熱意ある選手が集まっています。
渡邉理事長 素晴らしいですね。
箕野町長 本当にありがたいことだと思っています。
渡邉理事長 こうした流れを、今後どのようにまちづくりや町の一体感につなげていこうとお考えですか?
箕野町長 ソフトテニスクラブには、ある程度の年齢で引退する時期があると思います。しかし、引退後も指導者として北広島町に残っていただき、中高生の指導を担ってもらえればと考えています。小学校での指導は難しいかもしれませんが、高校は3校、中学校は5校ありますので、そういった学校で指導していただければ、より現実的になる気がしております。
渡邉理事長 そうですね。
―― 北広島町には、東京パラリンピック大会でやり投げの日本代表選手に選ばれた白砂匠庸(しらまさ たくや)選手がいます。競技活動に加え、小中学校を訪れ、「夢に挑戦し続けることの大切さ」を伝える活動も積極的に行っています。
渡邉理事長 実際に学校で子どもたちと触れ合う中で、さまざまな学びがあると思いますが、町長としてどのように受け止めていらっしゃいますか?
箕野町長 はい。子どもたちは本当に純粋な気持ちで接しており、障害がある方に対して特別な意識をもつのではなく、対人間として向き合っています。それが当たり前のこととして根付いてきていると感じます。
渡邉理事長 うかがったところ、ふるさと納税を通じて「どんぐり北広島ソフトテニスクラブ」や「白砂選手」を支援できるとのことですね。これもご縁ですので、私もふるさと納税を通じて応援させていただきたいと思います。
箕野町長 ぜひとも、ご支援をお願いいたします。
渡邉理事長 全国の皆さんにも、町長からメッセージをお願いします。
箕野町長 地域密着型の選手をふるさと納税で応援できる仕組みは、ほかではあまり例がないと思います。本町では「どんぐり北広島ソフトテニスクラブ」や「白砂匠庸選手」への応援が可能ですので、ぜひご協力をお願い申し上げます。
渡邉理事長 最後に、町民の皆さんに向けて、これからのスポーツ振興や推進、スポーツを通じた健康まちづくりに関するメッセージをいただけますでしょうか。
箕野町長 まずは、スポーツの素晴らしさを皆さんで共有していただきたいと思います。この「きたスポ」を通じて、各年齢に応じた無理のない形でスポーツを楽しんでいただき、また、応援もしていただきたいと思っております。そして、持続可能で明るく元気なまちづくりを、共同のまちづくりで進めていきたいと思っています。
渡邉理事長 町長、ありがとうございました。大切なのは、計画に掲げたことを一つ一つ確実に実行し、その成果をしっかりと獲得することだと思います。今後のまちづくりを非常に楽しみにしております。本日は長時間にわたり、いろいろなお話をありがとうございました。
箕野町長 こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。
渡邉理事長 よろしくお願いいたします。