2024.7.1
大村市(長崎県)
園田 裕史市長 対談
2024.7.1
大村市(長崎県)
園田 裕史市長 対談
「ボートレース大村の財源を活用しながら、ハードとソフトの両面を整備し、スポーツを核としたまちづくりを進めたい」(園田市長)
大村市は長崎県の中央に位置する人口9万7000人ほどの都市です。市内には長崎空港のほか、西九州新幹線の新大村駅や2つの高速道路のインターチェンジがあります。こうした交通アクセスのよさを背景に、若いファミリー層を中心として人口が50年以上増加しており、10万人台も目前です。しかし、人口増加は良い面だけではありません。新旧住民によるコミュニティー形成の希薄化が課題となります。多様な人々が入り混じる地域を一つにまとめるためにも、スポーツは重要な役割を持ちます。
「スポーツをしよう」だけではなびかない層に、何だかおもしろそう、家族で参加してみようと思ってもらえる仕掛け作りとして、誰もが気軽に楽しみながら始めることができるニュースポーツの普及や、大村市独自のチャレンジデーの実施、子どものやる気を引き出す懸垂幕、ボートレース場のアミューズメントパーク化などなど、さまざまな創意工夫と園田市長のパワフルな「巻き込み力」でスポーツを核としたまちづくり改革を進めています。
大村市はボートレース発祥の地でもあり、早くから売り上げを財源として福祉施策や教育・子育て支援施策を進めてきました。最近では、ボートレース場に隣接するかたちで「コミュニティパーク グルーン おおむら」がオープンし、連日子どもたちでにぎわっています。
子ども向けの支援として、令和4年度から学業に限らずスポーツや文化芸術で卓越した成果を挙げた方を対象に独自の給付型奨学金制度を設けました。また、令和8年度からは中学校における土日部活動の地域移行がスタート予定で、指導者の育成や取り組みの推進も図っています。常に市民をどう巻き込むかを考えながらエネルギッシュに行動する園田市長に、大村市のスポーツによるアクティブなまちづくりについて詳しく教えていただきました。
園田市長 大村市は長崎県の中央に位置する人口9万7000人ほどの都市です。市内には長崎空港のほか、2022年に開通した西九州新幹線の新大村駅や2つの高速道路のインターチェンジ(大村IC、木場スマートIC)があります。私は勝手に「高速交通三種の神器」と言っています、実はこの「三種の神器」がある自治体というのは、全国1741カ所市区町村のうち、たった14カ所しかないのです。こうした交通アクセスのよさを背景に、若いファミリー層を中心に人口が50年以上増加しており、市制施行82周年ですが、昔から大村市に住んでいる人間としては夢であり、憧れなのです。ただ、昨年から「人口10万人に憧れることをやめましょう!!」と言っています。大谷翔平さんの…
渡邉理事長 そうですね、どこかで聞きました。
園田市長 言葉を引用させていただいて、人口10万人に憧れるのではなく、実現するということで現在に至っています。
園田市長 小中高校生を中心に競技力向上とアスリートとの交流、指導者育成を進めています。最近では陸上の廣中璃梨佳選手やプロ野球の大瀬良大地投手といった大村市出身のアスリートも出てきており、結果に結びついていると感じています。
ただ、最近では若いファミリー層が多く転入してきている中で、町内会や自治会、子供会への加入率が非常に低い現状です。先ほどニュースポーツの様子を拝見しましたが、チームのベースは町内会なのです。そのため、地域みんなでスポーツを楽しむことを組織していけば、自然と町内に交流が生まれてきて、助け合いやコミュニティーにつながっていくと思うのです。
そこまで考えてスポーツと施策をつなぎ合わせていくことが、非常に大事なのではないかと先ほど感じました。そうした意味では、チャレンジデーは大村市市民みんなでひとつの目標に向かって住民がみずから考えて取り組んでいく、インナー施策の柱だと感じています。
園田市長 チャレンジデーは、大変すばらしい事業だと感じています。市長になってから一つひとつの施策を継続するか、やめるかの精査がありますが、市長になってから真っ先に「チャレンジデーだけは絶対にやめない」と強く言いました。
チャレンジデーはスポーツの事業だけではなく、まちづくりに直結するからです。チャレンジデーの費用対効果はとんでもなく大きいことを繰り返し言って市民を巻き込んでやるのだということで、ずっと続けてきています。
笹川スポーツ財団としては、チャレンジデーに区切りをつけられるとの判断でしたが、その連絡があった翌日に担当課には、「来年は勝手に大村市でチャレンジデーをやるのだ」と伝えています。
渡邉理事長 先ほどニュースポーツフェスティバルにも参加しました。2024年で19回目の開催と聞いていますが、この事業が始まったきっかけを教えていただけますか?
園田市長 スポーツと言うと、競技スポーツをイメージされがちですが、生涯スポーツというかたちで新たにニュースポーツというものがあることを私も市長になってから詳しく知りました。
「スポーツをやりましょう」「スポーツしましょう」「身体を動かしましょう」と呼びかけだけでは参加をいただけないこともあります。そのため、家族で参加してみようと思えたり、身体を動かしたりスポーツに親しんだりする入り口として、ニュースポーツは非常に有効だと考えて、市としても積極的に取り組んでいるところです。さらに、大村市には熱心で魅力的なスポーツ推進員の方々が多くいてありがたいなと感じています。
園田市長 合宿や九州大会から世界大会までの試合会場といったスポーツツーリズムに力を入れており、シーハットおおむらでもFIBAバスケットボールワールドカップアジア予選が行われました。
試合会場となるだけでなく、国内のさまざまなプロリーグや合宿を誘致しています。近年ではバスケットやバドミントンのチームを誘致してきました。
園田市長 また、ソフトボールと言えば大村市と言われています。本年、令和6年の北部九州インターハイでは、大村市を会場として卓球競技とソフトボールが開催される予定です。
今後は、外のグラウンドも充実させてソフトボールをはじめとした合宿や大会の誘致を通じて関係人口を創出しながら、子どもたちがトップアスリートの技術を身近で感じられるようにしたいと思っています。
園田市長 本年で大村市が市制施行82周年、ボートレース大村がボートレース発祥の地として開設して71周年です。大村市の発展は、ボートレース大村なくしては成し得なかったと思っています。
今では当たり前のようになっていますが、大村市ではいち早くボートレースの財源を福祉施策や教育・子育て支援施策(第2子の保育料無料化)といった事業に費やしてきて、そのイメージを数十年かけてかためてきました。
渡邉理事長 先ほどボートレース大村に行って参りましたが、幼児期の子どもたちで非常ににぎわっていましたが、新しい施設を造られたのですよね。
園田市長 「コミュニティパーク グルーン おおむら」を令和4年の11月にオープンしました。背景としては、ボートレース大村の大村市に対する位置づけ、加えて過去に収益が悪かった歴史を振り返ると、ボートレース場自体を新しい価値観に変えていかなければいけないと考えたところにあります。具体的には、モータースポーツ、マリンスポーツ、レジャースポーツ、エキサイティングスポーツ、それとエクストリームスポーツ、eスポーツを体験・表現するアミューズメントパーク化しようということで開設しました。
渡邉理事長 現在、中学校の部活動の地域移行が全国各地で検討や実施されている状況です。そうした中でスポーツに限ると指導者の育成や確保の課題がありますが、大村市での取り組みについて教えていただけますでしょうか。
園田市長 大村市は、令和8年度から中学校における土日運動部活動の地域移行を目指しています。そのために、外部指導者の育成や指導者として研修を受けられる方への助成制度を整えています。
令和6年度からは、部活動(学校)と外部指導者(地域)をつなぐコーディネーターの方々にも参画をいただき、地域移行に向けた取り組みの推進と外部指導者の育成の体制を整えていく予定です。
渡邉理事長 大村市では、そのほかにも独自の支援というのがあると伺っております。
園田市長 市長となって8年あまり、さまざまな仕事をやってきたつもりですが、まだまだなところもいっぱいあります。ただ、ひとつだけこれはがんばったということがあります。
大村市の職員が一生懸命協力してくれたことでもありますが、市役所の正面入り口のところに全国大会出場や、全国大会で優秀な成績を収めた子どもたちの名前入り懸垂幕を掲げています。九州大会出場では懸垂幕に名前は掲載されませんので、子どもたちの中で「絶対あそこに名前を掲げるのだ」と、ひとつの目標になっていると聞きました。
せんえつながら、私の子どもの名前も載ったことがあります。子どもにとって市役所の懸垂幕に自分の名前が載ることがどれほどうれしいか親としても見ましたが、本当にすばらしい取り組みだなと思っています。
もうひとつ、大村市で独自性があるのは教育面で給付型奨学金があります。全国的にも返済しなくてよい給付型奨学金はありますが、令和4年までの10年間で大村市内における給付型奨学金の対象になった方は1,2名しかいなかったのです。
しかも、これだけ多様性がある社会の中で学力だけが突出した能力ではありません。スポーツや文化・芸術で秀でた子どもたちに給付型奨学金を支給することを令和4年度からスタートしました。この2年間で早速1名舞台芸術を学びたいということで、優秀な成績を収めた子がアメリカへ留学するための費用として、給付型の奨学金を支給しました。子どもたちに給付型の奨学金を活用して安心して行ってこいと背中を押したいなと思っています。
園田市長 今回3期目の当選をした時に、今後スポーツ施設をリニューアルしたり足りないものを建設したりしていくことで充実させていく方針を打ち出しました。その財源はボートレース大村の売り上げを活用させていただくということで。スポーツやボートレースの売り上げが市民のスポーツに還元されるように活用していきたいと考えています。
ニュースポーツや健康寿命の延伸など市民の皆さんが日ごろから身近にスポーツに親しむためのソフトとハード両面合わせて、スポーツを核としたまちづくりを進めていきたいと思います。
渡邉理事長 私もひととおり、市内の施設を視察しました。ソフトボールが4面取れて、サッカーもラグビーもホッケーもできる非常によい環境だと思います。それから、指導者の育成支援にも力を割いていらっしゃいますし、これからハードが出来上がったところのコンテンツ作りをすることでどんどん人口が増えていく。市民一人ひとりのスポーツ実施率も高まりますし、コミュニティーづくり・まちづくりにもつながりますね。
本日、お話を聞いて、園田市長は大変エネルギッシュで、この人だったら有言実行するだろうと感じましたので、これからの大村市の展開を楽しみにしております。
本日はインタビューにお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
園田市長 ありがとうございました。