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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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諸外国との比較からわかるわが国の子ども・青少年の身体活動の現状と課題

2023年1月31日

諸外国との比較からわかるわが国の子ども・青少年の身体活動の現状と課題

はじめに -子どもの頃の日常生活全般の身体活動量は成人期まで持ち越される-

 スポーツや運動をはじめとする、子どもの日常生活全般の身体活動量は、子どもの頃の健康状態に影響を及ぼすだけでなく、大人になった時の身体活動量や健康状態への持ち越し効果が認められている。したがって、子どもが十分な身体活動を確保することは、生涯にわたる健康的なライフスタイルを構築するうえで極めて重要である。

 身体活動とは「安静にしている状態より多くのエネルギーを消費する全ての筋活動」、運動とは、身体活動のうち「体力の維持・向上を目的として、計画的・継続的に行う活動」である1)。運動以外の身体活動は「生活活動」と呼ばれる。子どもの「遊び」は、子どもの自由な意思・欲求に基づく活動であり、上記の運動の定義には該当しないので、「生活活動」に含まれる。生活活動は、遊びの他に、日常生活における通園・通学、習い事や買い物などに伴う「活動的な移動」、学校での清掃や家庭での「家事」なども含まれる広い概念である。

 これまで、日本の子ども・青少年を代表するサンプルを対象とした調査は、スポーツ庁や笹川スポーツ財団などにより、スポーツ・運動を中心として実施されてきた。つまり、「スポーツ・運動」という、身体活動の一部のみが着目されてきた。一方、成人・高齢者については、運動習慣とは別に、日常生活全般の身体活動量として厚生労働省による「国民健康・栄養調査」によって、一日あたりの歩数が報告されている。子ども・青少年については、1519歳を対象に歩数調査が実施されていたものの、2012 年以降のデータは報告されていない。

 笹川スポーツ財団が隔年で実施している子ども・青少年のスポーツライフ・データでは、2019年に日本で初めて子ども・青少年の「日常生活全般の身体活動量」の全国調査結果が示された。本コラムでは、2019年のデータと、最新の国際比較研究における二次分析の結果を示し、日本の子ども・青少年の身体活動の現状と課題を検討していきたい。

1.諸外国の子ども・青少年の身体活動量の現状
 105ヵ国で1315歳の8割が身体不活動-

 諸外国では、子ども・青少年を対象に、国による加速度計(活動量計)や質問票を用いた調査が実施されている。2012年に学術雑誌Lancet(ランセットに報告された105 ヵ国の調査結果では、1315 歳の80.3 %が国際的な身体活動のガイドライン(中高強度身体活動を少なくとも60 分/日)を満たしておらず、身体不活動が世界的な課題となっていた2。中高強度身体活動とは、心臓がドキドキしたり息切れしたりするような全ての活動であり、スポーツや運動遊び、学校に徒歩や自転車で通うことなども含まれる。

 その後、世界6大陸の子ども・青少年の身体活動量の現状に関する複数の比較研究が報告されているものの、その状況は変わっていない3)4)。また、いずれの研究でも日本の子ども・青少年の身体活動量に関するデータは存在しないと報告されている(図1)。

※身体不活動とは:身体活動ガイドラインに照らして身体活動量が不十分であることを示す

【図1】世界の子ども・青少年の日常生活全般の身体活動量の現状
(日本には子ども・青少年の身体活動量に関する国による調査データがない)

【図1】世界の子ども・青少年の日常生活全般の身体活動量の現状

Guthold et al.(20204)

2.スポーツ庁調査の総運動時間は、中高強度の身体活動量を過大評価する

 スポーツ庁の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」で用いられている主観的な一週間の総運動時間(分/日)と、実際に加速度計で客観的に評価した中高強度身体活動時間(分/日)を比較した研究がある5)。小学5年生の男女両方において、質問票でたずねた場合の運動時間(平均83.9±56.3分/日)は、加速度計で測定した活動時間(平均50.0±18.2分/日)よりも有意に長かったことが報告されている5)

 このように、運動をしている時間を質問票でたずねた場合と、実際に加速度計で測定した場合では、それらの値にはかなりの違いがある。そのため、身体活動ガイドラインの充足を評価する場合、スポーツ庁調査の運動時間に関するデータを用いると、実際に身体を動かしている時間よりも多く見積もってしまうことになるため注意が必要である。

※「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」では、一週間の総運動時間について、「ふだんの一週間について聞きます。学校の保健体育の授業以外で、運動(体を動かす遊びを含む)やスポーツを合計で1 日およそどのくらいの時間していますか。それぞれの曜日の欄に記入してください。」とたずねている。

3.日本の青少年の身体活動量の現状
 -女子のほうが男子より身体不活動の割合は高い-

 2019年に実施された「1221歳のスポーツライフに関する調査」において、中学13年生自身がこの一週間を振り返り、160分以上の中高強度の身体活動を実施した日が何日間あったかを回答し、その調査結果を表1に示した。

 毎日、中高強度の身体活動を少なくとも160 分実施していた中学生は19.0%であった。このように、これまでの世界中の様々な先行研究の平均値とほぼ同じ割合(81.0%)の中学生が、身体不活動であった。性差についても、先行研究と同様に女子(85.9%)は男子(76.9%)に比べて身体不活動の者が多かった。

【表1】日本人中学生の中高強度の身体活動実施状況 (2019年)

 実施日数 男子 女子 男女
0日 10.1% 15.3% 12.5%
1日 5.2% 7.8% 6.4%
2日 7.8% 8.6% 8.2%
3日 7.5% 12.5% 9.8%
4日 8.8% 8.2% 8.5%
5日 19.5% 18.8% 19.2%
6日 17.9% 14.5% 16.4%
7日 23.1% 14.1% 19.0%

注)Health behaviour in school-aged children(HBSC)の身体活動量質問票により、1日60 分以上の中高強度活動を実施した週当たりの日数の割合
資料:笹川スポーツ財団「12~21歳のスポーツライフに関する調査」2019

4.日本の青少年の身体活動量は世界第3位! -最新の国際比較より-

【図2】国際比較で用いられた等級と充足率の枠組み

【図2】国際比較で用いられた等級と充足率の枠組み

 世界中の子ども・青少年の日常の身体活動およびその変動要因について国際比較をすることを目的に、2014 年にThe Active Healthy Kids Global Alliance”が設立された。202210月、世界6大陸の57ヵ国が参画し、4回目となる国際比較研究の結果が報告された6。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、予定より1年遅れての公表であった。2020年に公開されたWHOの身体活動ガイドラインが「1週間を平均して160分の中高強度の身体活動」と改定されたことなどにより、今回は「1週間を平均して160分の中高強度の身体活動」もしくは「中高強度の身体活動を週4日以上実施」の割合を用いて国際比較が行われた。

 57ヵ国の身体活動量の平均等級はD(充足率2733%)であったのに対し、日本人中学生の等級はB-であった(充足率63%)。この結果は、最も等級が高かったスロベニアとフィンランドのA-(充足率8086%)に続く、第3位であった(同順位は、スロバキア、クロアチア、アメリカ合衆国、スペイン、 南アフリカ)。

5.身体不活動の子ども・青少年が少ない国の特徴とは

 【図3】世界の子ども・青少年の身体活動量に関する特徴 -成功した国から学ぼう!-

【図3】世界の子ども・青少年の身体活動量に関する特徴-成功した国から学ぼう!-

 日常生活全般の身体活動量の等級が最も高かったのはスロベニアとフィンランドであった。各々の国の特徴を見ると、スロベニアでは、強力なインフラ(地域と環境など)と学校で行われる体育の総時間数、そして体系的な子どもの体力調査の組み合わせが挙げられる。

 フィンランドでは、幼児から高校生までの教育の中に、スクール・オン・ザ・ムーブ・プログラムが導入され、子ども・青少年の成長、発達および学習を支える身体活動の役割が重要視されている。また、教育機関では国家的な身体活動促進プログラムが資金援助されている。

6.日本は、活動的な移動手段が世界第1位!

 日本の活動的な移動手段(徒歩や自転車による活動的な登校)は、デンマークとともに等級がA-(充足率86%)であり、最も高かった6。身体不活動の子ども・青少年が少ない国、スポーツ参加が多い国、身体活動に関する政策が優れている国の特徴は図3に示している。

 

7.子ども・青少年の身体活動促進に向けての課題
   -日常生活全般の身体活動量に関する全国調査の必要性-

 笹川スポーツ財団による日常生活全般の身体活動量の調査は、新型コロナウイルスのパンデミック禍の2021年にも実施された。パンデミックによるロックダウンがもたらした子ども・青少年の身体活動量への影響を検討したシステマティックレビュー(系統的レビュー)によると、より厳しいロックダウンを実施した国において、身体活動量の低下が見られたことが報告されている7

 中高強度の身体活動を週4日以上実施していた中学生の割合は59.7%であり、パンデミック以前(63.2%)と比較して、3.5ポイントの低下に留まった。しかし、「毎日、中高強度の身体活動を少なくとも160 分」実施していた中学生は11.5%であり、パンデミック前(19.0%)(表1)と比較して 7.5ポイント低くなっており、中高強度身体活動の実施頻度は男女ともに低下していたことが見て取れる。今後、継続的にパンデミックを経験した子ども・青少年の心身への影響(体力・運動能力、体型、心理面などの健康関連指標)を検討していくことが重要であろう。

 日本では、幼児については文部科学省が幼児期運動指針を、成人や高齢者については厚生労働省が「健康づくりのための身体活動基準2013」を策定している。しかしながら、小学生以上の子どもについては、日本体育協会(現名称:日本スポーツ協会)が、諸外国のガイドラインを参考として策定した「アクティブチャイルド60min」しかなく、国による日本の子ども・青少年のためのガイドラインは、現時点で策定されていない。

 国際的にも、子ども・青少年の身体活動のガイドラインは過渡期にある。前述した通り、WHOや英国の5~17歳の身体活動のガイドラインは、「平均して160 分の中高強度の身体活動量(日間/週)」を推奨している。一方、米国では、「毎日少なくとも60分の中高強度の身体活動量」を推奨している。

 暫定的に、WHOのガイドラインを参考として、週4回以上の中高強度活動とした場合は、日本の子どもの約40%が身体不活動と言えるが、米国等のガイドラインを参考にし、毎日少なくとも60分の中高強度活動とすると、前述した通り約80%の日本の子どもが身体不活動となる。さらに、パンデミック禍においては約90%に達していた。

 したがって、日本の子どもを対象とした研究で得られたエビデンスに基づく日本の子ども・青少年のための身体活動のガイドラインが必要であると言える。例えば、幼児では、3~4歳の子どもを対象に、カナダとオーストラリアのガイドラインを参考に策定されたWHO24時間行動ガイドライン(身体活動量、座位行動、睡眠)が、果たして全世界の子どもに適応可能であるか否か、WHOの関係者も参画し、経済状況の異なる日本を含む52ヵ国で実施されている(SUNRISE International Surveillance Study of Movement Behaviours in the Early Years8

 また、前述の“The Active Healthy Kids Global Alliance”による国際比較研究によると、日本は、徒歩や自転車などの活動的な移動手段が最も優れている国であった6。しかし、都道府県別に見ると、高い県(大阪府: 98.0%)と低い県(青森県: 67.8%)の差は男女ともに約30ポイントあった9。このことは、男女にかかわらず、活動的な移動手段で登校している割合が低い地域では身体活動の実施環境などの改善が必要であると言える。

 子どもの身体活動の現状を知るためには継続的な全国調査が重要であるが、活動的な登校の割合については、スポーツ庁の「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」以降、実施されていない。登下校は学期中の平日は毎日行うため、子どもの主要な日常の身体活動の一つと言える。これまで、国では「スポーツ・運動」の実施状況を中心に調査が実施されてきたが、今後は、全国の子どもを対象とした「日常生活全般の身体活動量」の調査や「活動的な登校手段」などの変動要因(運動・スポーツへの参加や休日を含めたスクリーンタイムなど)に関する継続した調査が望まれる。

<参考文献>

1)田中千晶. 基礎から学ぶ発育発達のための身体活動~元気な子どもを育む確かな根拠~, 1-192, 杏林書院, 2019.

2)Hallal PC et al. Global physical activity levels: surveillance progress, pitfalls, and prospects. Lancet. 2012;380(9838):247-257.

3)Aubert S et al. Global Matrix 3.0 physical activity report card grades for children and youth: results and analysis from 49 countries. J Phys Act Health. 2018;15(suppl 2):S251-S273.

4)Guthold R et al. Global trends in insufficient physical activity among adolescents: a pooled analysis of 298 population-based surveys with 1?6 million participants. Lancet Child Adolesc Health. 2020;4(1):23-35.

5)笹山健作. 全国体力・運動能力、運動習慣等調査の質問紙で評価した運動時間と加速度計のActiGraphで評価した中高強度身体活動との比較. 発育発達研究, 2022; (94):1-8.

6)Aubert S et al. Global Matrix 4.0 Physical Activity Report Card Grades for Children and Adolescents: Results and Analyses From 57 Countries. J Phys Act Health. 2022;19(11):700-728.

7)Kharel M et al. Impact of COVID-19 pandemic lockdown on movement behaviours of children and adolescents: a systematic review. BMJ Glob Health. 2022;7(1):e007190.

8)Okely T et al. Cross-sectional examination of 24-hour movement behaviours among 3- and 4-year-old children in urban and rural settings in low-income, middle-income and high-income countries: the SUNRISE study protocol. BMJ Open. 2021;11(10):e049267.

9)田中千晶ら. 児童・生徒における身体活動関連指標の47都道府県間の比較-"REPORT CARD ON PHYSICAL ACTIVITY FOR CHILDREN AND YOUTH"に基づく国際指標を用いた検討-. 運動疫学研究, 2018;20(1):37-48.

  • 田中 千晶 東京家政学院大学人間栄養学部・東京家政学院大学院人間生活学研究科 教授

    アーティスティックスイミング日本代表(旧姓:山村)を引退後、中京大学大学院体育学研究科にて博士(体育学)を取得。専門は、公衆衛生学(専門社会調査士)、発育発達学、運動生理学。
    現在、子どもと家族の身体活動量促進を目的として、57か国が参画する国際機関「Active Healthy Kids Global Alliance」および、世界保健機関などが参画する「International Surveillance Study of Movement Behaviours in the Early Years(SUNRISE Study)」の日本の責任者を務める。国立健康・栄養研究所 リサーチ・レジデントなどを経て、2021年4月より現職。
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活用例

  1. 政策立案:所属自治体と全国の比較や調査設計に活用(年齢や性別、地域ごとの特徴を把握)
  2. 研究:研究の導入部分の資料や仮説を立てる際に活用(現状の把握、問題提起、仮説、序論)
  3. ビジネス:商品企画や営業の場面で活用(市場調査、データの裏付け、潜在的なニーズの発見)
テーマ

スポーツライフ・データ

キーワード
年度

2022年度

担当研究者
  • 田中 千晶 東京家政学院大学人間栄養学部・東京家政学院大学院人間生活学研究科 教授