文部科学省「体育・スポーツ施設現況調査」(2008)によると、わが国の体育・スポーツ施設は22万2,553ヵ所であり、そのうち小・中学校、高等学校、専修学校などの「学校体育・スポーツ施設」が13万6,276ヵ所と全体の6割を占めている。施設種別は、「体育館」(3万7,339ヵ所)、「多目的運動広場」(3万5,933ヵ所)、「水泳プール(屋外)」(2万8,171ヵ所)となっている。文部科学省「学校基本調査」(2009)によると、2008年の学校数は小学校が2万2,476校、中学校が1万915校であるのに対し、「体育・スポーツ施設現況調査」における体育館の保有校数が小学校2万1,115校、中学校9,684校、屋外運動場の保有校数が2万1,479校、中学校が9,709校となっており、小・中学校の9割前後でこれらの施設が整備されている現状がうかがえる。
学校体育・スポーツ施設の有効活用は、国民へのスポーツ機会の提供における重要な課題である。「スポーツ振興法」(1961、第13条)は、教育に支障のない範囲で、学校の体育・スポーツ施設を一般に供するよう定めており、公立の小・中学校を中心に、体育館やグラウンドなどの学校施設が地域住民に開放されてきた。これは、今般の「スポーツ基本法」(2011)にも引き継がれている。「体育・スポーツ施設現況調査」によると、2008年度は98.3%の市区町村で学校体育施設開放を実施している。施設種別の開放実施率(施設開放数/施設保有校数)は、「体育館」が87.3%、「屋外運動場(校庭)」が80.0%、「水泳プール」が26.7%となっており、多くの学校体育施設において、施設開放が実施されている。一方、たとえば小学校の体育館における施設開放実施率は95.1%であるが、この値には学校の長期休業中の開放や要請に応じた不定期な利用が含まれており、定期的な施設開放に限ると、平日が75.7%、土曜日が67.4%、日曜日が63.9%にとどまっている。
笹川スポーツ財団(SSF)は、2010年度に学校体育施設の開放施策に関する調査を実施した。同調査によると、1950~80年代にかけて学校体育施設の開放を促すための条例や規則などが整備されてきたものの、社会の公共性に対する考え方の変化により、スポーツ政策の重点課題も変わってきたことから、現代のニーズや課題を見すえつつ、学校体育施設開放のありかたを見直す時期を迎えている。特に、既存登録団体の利用が施設開放時の大部分を占め飽和状態にあることから、新規の参加団体の受け入れが困難な事例については、今後、スポーツ政策がさらに推し進められ、人々の運動・スポーツ実施率が増加した場合、その実施を保障する環境を整える抜本的な対応が求められる。また、学校体育施設の管理主体については、現状の条例などにおいて、その責任が教育委員会であることが明記されているが、教育委員会内部でも、開放する施設や時間帯により担当する課が異なるケースがあり、管理業務に課題がうかがえた。たとえば、同じ学校でありながら、屋外体育施設と屋内体育施設の管理主体が生涯教育課と学校教育課に分かれていることや、そもそも学校体育施設開放は学校教育課から生涯学習課が施設を借り受け利用者に貸し出すことによる業務の煩雑化が発生している。
地方自治体は、授業時間帯以外の放課後から休日の学校体育施設の開放を、教育委員会ではなく、地域のスポーツクラブなど公益性の高い民間組織に委ねることで、施設利用の最適化に務めるべきである。つまり、社会体育施設が指定管理者制度を導入したように、学校体育施設も放課後と休日に限って学校運営協議会などが指定する団体に管理を任せ、効率的に運営する。学校教育としての体育は学校が責任をもって運営し、放課後と休日は地域住民への開放を促進することにより、学校が地域の公共財であることの再認識につながり、社会全体でスポーツをささえる基盤にもなる。さらに一歩進んで、民間組織による学校体育施設と社会体育施設の一元管理が実現すれば、教育委員会の業務負担を軽減でき、利用体系の幅が広がり、より個々のニーズに合うスポーツライフをおくることが可能になる。たとえば、放課後の利用について、これまで競技性の重視偏重により運動部活動への参加を躊躇していた児童・生徒が、自分の好きなレベル、頻度でスポーツを楽しむことが期待できる。学習指導要領には、部活動が教育の一環であるとの記載が加えられたが、教育活動であるならば、憲法および「教育基本法」にうたう機会の均等が保障されるべきである。しかし、学校がすべての児童・生徒にその機会を保障できると考えるのは現実的ではない。公益性の高い民間組織が放課後や休日の学校体育施設の管理・運営を担うことで、競技性を追及する種目に対する外部指導者の派遣手配や、スポーツを楽しむ児童・生徒向けのプログラムを提供するという交通整理がつき、より多くの機会の創造が可能となる。加えて、放課後や週末の運動部活動や既存組織による独占的な利用を解消し、子どものスポーツ指導の練習時間を適切なものにすることにも効果的である。
本項でいう公益性の高い組織としては、総合型地域スポーツクラブ(以下、総合型クラブ)、単一種目の地域スポーツクラブ、指定管理を受けているNPO法人などの非営利団体、および市町村の体育協会などが考えられ、その可能性に期待している。社会体育施設の指定管理実績でいえば、中学校敷地内に社会教育施設として建設された宇ノ気体育館の管理・運営を受託したNPO法人クラブパレット(石川県かほく市)の例があげられる。また、学校体育施設における総合型クラブと運動部活動の連携の点では、長野県下伊那郡豊丘村のNPO法人とよおか総合型地域スポーツクラブの部活登録者とクラブ会員を対象にした部活連携スポーツ教室や、岐阜県多治見市のこいずみ総合クラブのように、原則的に17時までは中学校の部活動、それ以降はクラブでの活動とした例が参考になる。2010年の文部科学省「総合型地域スポーツクラブ育成状況調査」によると、全国1,750市区町村にある3,114件の総合型クラブのうち、学校体育施設を活動拠点としている総合型クラブは55.1%(有効回答数2,537)であり、学校の施設が地域のスポーツをささえる現状がみてとれる。また、クラブハウス専用施設を有する総合型クラブの51.6%にあたる658件が、学校を利用していることがわかった。仮に現在、学校にクラブハウス機能を置いて活動している総合型クラブに、学校体育施設の管理・運営を委ねられれば、地域のスポーツ活動の中心として地域住民に対するより幅広いサービスを提供できるのではないだろうか。先の例をロールモデルとし、それぞれの地域特性にあった形で適応が進めば、公益性の高い組織による学校体育施設の管理・運営の全国展開にも道が開けるだろう。これは同時に、スポーツ立国戦略でうたう広域市町村圏300の総合型クラブの拠点化を、早期かつ容易に実現する施策になるはずである。
学校施設の開放は、「学校教育法」(1947)第137条(「学校教育上支障のない限り、学校には、社会教育に関する施設を附置し、又は学校の施設を社会教育その他公共のために、利用させることができる」)の規定に基づき、各教育委員会が条例を定めて実施している。この条例を改正し、放課後および休日の管理・運営の民間公益組織への委託を認めるべきである。
この施策に必要な財政としては、各教育委員会の条例などで定めた公立学校職員の特殊勤務手当のうち、運動部活動に支出している予算や、同じく各教育委員会が学校施設開放のために確保している予算を充当することが考えられる。条例の改正と財源の確保を行い、学校体育施設を運営する組織の裁量に委ねることで、学校はより効率的に地域や個人のニーズに応えるスポーツライフを実現する拠点となる。