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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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なぜ運動したくてもできないのか? やる気があってもできない30代とやる気が起こりにくい50代

健康関心度とスポーツライフに関する調査Ⅱ

 笹川スポーツ財団(SSF)は、2024年8月1日~6日にかけて、全国18歳以上の男女(性・年代による人口構成比割付)5,272名を対象とし、「健康関心度とスポーツライフに関する調査Ⅱ」を実施しました。

 健康増進法の施行から20年以上が経過し、2024年度からは新たに「健康日本21(第三次)」が開始されましたが、日本の健康づくり政策が抱える大きな課題のひとつに「健康無関心層」へのアプローチがあります。その対策を考えるために、2023年度には健康への関心と運動の実施状況についての把握を試みました。結果として、健康への関心は一定程度ある反面、運動実施の習慣化には至っていない人が多く、やりたくてもできない“ジレンマ”が課題として浮かび上がりました。

 本調査では、健康関心度の全国的な傾向を把握するとともに、そのジレンマの要因を探るために運動の促進要因・阻害要因との関連を分析しました。

  1. 健康への関心が低い「低関心」群の割合は7.0%にとどまる
  2. 健康への関心が高い「高関心」群でも、3割弱が運動を実施していない
  3. 主な運動阻害要因は「無精」「疲れる」「動機がない」「時間がない」
  4. 運動への消極性が高い30歳代と積極性が低い50歳代、要因は年代によって傾向が異なる

 昨年の調査から運動したくてもできない人々の存在が浮かび上がってきた。今回あらためて健康関心度の全国的な傾向を調査したところ、いわゆる「健康無関心層」が含まれる「低関心」群は全体の1割に満たない結果であった。また健康関心度が高い人の中でも約3割が裏腹に運動の実施に至っておらず、ジレンマを抱えていると推察される。令和元年国民健康・栄養調査(厚生労働省)でも示されたように、主な運動の阻害要因は無精や時間あるいは体力によるが、本調査では年代によって非実施の要因が異なることがわかった

 運動に対する積極性(促進度)は加齢に伴って低下がみられるものの、多くの人が定年を迎える60歳代以降では持ち直す傾向にあり、運動・スポーツに勤しむ元気な高齢者の姿が想起される。反面、生活習慣や嗜好性が定まり、体力の低下も重なりやすい50歳代では促進度が最も低く、好みや体力など個人に合わせた動機付けが課題といえる。運動に対する消極性(阻害度)は30歳代以下で高く、時間に追われて運動しづらい勤労・子育て世代にとっては仕事や育児をしながらでも運動しやすい環境づくりが課題といえる。運動したくてもできない理由は人によっても異なるが、こうした年代別の傾向をもとにニーズに合った対策を講じていく必要がある。本調査はアンケートによる定量的な分析に留まるため、今後はより詳細な実態の把握に向けた調査を実施する予定である。

笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 シニア政策オフィサー 水野 陽介


主な調査結果

1.健康への関心が低い「低関心」群の割合は7.0%にとどまる 

 2023年度の調査と同じく、先行研究に基づいた健康関心度尺度を用いた。同尺度は意識・意欲・価値観の3因子12項目について「そう思う」から「そう思わない」までの4件法で尋ねるものである。得点化した合計(12-48点)を3区分し、低関心群(12-24点)・中関心群(25-36点)・高関心群(37-48点)とすると、それぞれの割合は低関心群7.0%、中関心群76.1%、高関心群16.9%であった(図表1)。

図表1. 健康関心度尺度(合計得点)のヒストグラム

図表1. 健康関心度尺度(合計得点)のヒストグラム

2.健康への関心が高い「高関心」群でも、3割弱が運動を実施していない

運動・スポーツへの取り組みについては、先行研究に基づいた行動変容ステージモデルを使用した。

行動変容ステージモデルの段階

  • 前熟考期:わたしは現在、運動をしていない。また、これから先(6カ月以内)もするつもりはない。
  • 熟考期:わたしは現在、運動をしていない。しかし、これから先(6カ月以内)に始めようとは思っている。
  • 準備期:わたしは現在、運動をしている。しかし、定期的ではない。
  • 実行期:わたしは現在、定期的に運動をしている。しかし、始めてからまだ間もない(6カ月以内)。
  • 維持期:わたしは現在、定期的に運動をしている。また、長期(6カ月以上)にわたって継続している。

「前熟考期」は低関心群で70.3%と最も高かったが、中関心群では31.1%、高関心群でも11.4%を占めた(図表2)。「前熟考期」と「熟考期」を合わせてみると、低関心群で8割、中関心群で5割、高関心群も3割弱(前熟考期11.4%、熟考期16.3%)が運動の実施には至っていない。

図表2. 健康関心度3群別の運動実施状況(行動変容ステージモデル)

ワード書き出し図表2. 健康関心度3群別の運動実施状況(行動変容ステージモデル)

3. 主な運動阻害要因は「無精」「疲れる」「動機がない」「時間がない」 

 運動阻害要因尺度について項目ごとの回答構成比を示した(図表3)。5段階中3以上の合計をみると、最も高かったのは「無精である」74.7%、次いで「運動によって疲れてしまう」74.5%であった。続いて「動機づけに欠ける」71.0%、「十分な時間がない」68.3%など怠惰性や時間の管理に関する項目が上位となった。時間的なゆとりの少なさが主な要因ではあるものの、「仕事が多すぎる」は52.2%にとどまっており、仕事以外の理由で時間がとれていない可能性もある。また「一緒に運動する人がいない」「施設がない」といった社会的あるいは物理的な環境要因に占める割合は相対的に低かった。

図表3. 運動阻害要因尺度(全10項目)の回答構成比

図表3. 運動阻害要因尺度(全10項目)の回答構成比

4.運動非実施の要因は年代によって傾向が異なる

 運動促進要因尺度と阻害要因尺度を得点化し、その合計(10-50点)を用いて年代別の傾向を分析した。それぞれ合計点が高いほど運動に対する促進度または阻害度が高い、とみることができる。促進度は18-29歳が最も高く、最も低い50歳代までは年代が上がるほど低い傾向にあった。一方で阻害度は18-29歳から30歳代にかけて高く、40歳代以降は年代が上がるほど低い傾向にあった。

 すなわち、運動に対する積極性は20歳代までをピークに50歳代まで下がるが、60歳代以降では顕著な低下はみられない。運動に対する消極性は30歳代まで高いが、40歳代以降では低下がみられる。しがたって、運動非実施の要因はやる気があってもやれない30歳代と、やる気が起こりにくい50歳代を中心として特性の異なる課題が存在するのではないかと考えられる。

その他の調査結果(一部抜粋)

・健康関心度尺度の「健康のためにはある程度時間を割くべきだ」について「そう思う」「ややそう思う」の合計比率をみると男女ともにすべての年代で過半数を占めた。
 -性別や年代にかかわらず、健康に対して時間をかけるべきという意識は高い

・運動促進要因尺度(5段階中3以上の合計割合)が最も高かったのは「健康になる」92.0%、次いで「全身持久力が増す」85.6%、「適正体重を維持できる」84.7%。92.0%、次いで「全身持久力が増す」85.6%、「適正体重を維持できる」84.7%。
 -健康維持、体力向上、体重管理が主な促進要因

調査概要

調査名
健康関心度とスポーツライフに関する調査Ⅱ
調査方法
インターネットモニター調査
調査対象
全国18歳以上の男女(性・年代による人口構成比割付)
有効回答数
5,272
調査項目
就業状況/運動・スポーツ実施状況/運動・スポーツ実施時間/運動・スポーツ実施種目/運動不足感/主観的健康感/健康関心度尺度/運動促進要因・阻害要因尺度 など
調査期間
2024年8月1日(木)~6日(火)
2024年度 健康関心度とスポーツライフに関する調査

全文(PDF:2.16MB)

2024年度 健康関心度とスポーツライフに関する調査Ⅱ 目次
  • Ⅰ. 研究概要 詳細(PDF:473KB)
    • 1. 研究背景
    • 2. 研究目的
  • Ⅱ. 調査概要
    • 1. 調査方法
    • 2. 担当者
  • Ⅲ. 調査結果 詳細(PDF:1.88MB)
    • 1. 単純集計
    • 2. クロス集計
    • 3. 健康関心度と属性および運動実施状況(行動変容ステージ)との関連
    • 4. 運動促進・阻害要因尺度と属性および運動実施状況(行動変容ステージ)との関連
  • Ⅳ. 考察 詳細(PDF:618KB)
    • 1. 健康関心度尺度からみる健康意識の全国的な傾向
    • 2. 運動促進要因・阻害要因尺度からみる運動実態の全国的な傾向
    • 3. 今後の研究課題と方向性
  •    注・参考文献
テーマ

健康とスポーツ

キーワード
年度

2024年度

発行者

公益財団法人 笹川スポーツ財団

担当研究者