本報告書は、2023年7月から2024年5月に開催されたシリーズセミナー「誰が子どものスポーツをささえるのか?」に基づいて作成しています。笹川スポーツ財団では2016年から、小学生の母親を対象とした「小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査研究」を実施してきました。
調査結果はメディアにも取り上げられ、当事者である母親をはじめ、この状況に関心を寄せる多くの方々から賛同の声が届きました。一方で、「課題は理解できたが、具体的にどうすればよいのか」「母親が担わないのであれば、誰がやるのか」という疑問の声もあがりました。
しかし、この問題に特効薬のような解決策はないと考えます。スポーツの課題と社会全体のジェンダーや子育ての課題が交差する複雑な問題であり、最終的にはそれぞれの現場に適した解決策を模索するしかありません。それでも当財団の問題意識にとどめることなく、複数の方の知見や考えを共有し、実践や研究を通して改善につなげることはできないか。そのような思いから、本シリーズセミナーを開催しました。セミナーには事務局の想定を上回る多くの方々にご参加いただき、終了後にも複数のクラブからご連絡をいただきました。
一部のクラブへの取材内容を2章にまとめています。すべての対象が野球関係者となった背景には、保護者の負担という観点で、野球がほかの競技に比べて課題が顕在化しやすい特性があるといえます。一般的に保護者、特に母親の間では「野球を習わせるのは大変」という認識が強いが、データ上でもその実態が確認できます(詳細は報告書P.18以降参照)。
また、第3回のセミナーから約4ヵ月後の2024年4月1日、登壇者である中桐悟氏は小中学生の野球チームが集う組織「ジュニア・エンジョイ・ベースボール・コミュニティ」(JEBC)を立ち上げました。JEBCには、北海道から沖縄までの30チーム(2025年1月時点)が参加し、「第二の選択肢」として、現在の社会環境やニーズに適応した先進的な野球の場を増やす取り組みを推進しています。また、セミナーで紹介されたPCGリーグを引き継ぎ、「INTINITY BASEBALL LEAGUE U-12」(インフィニティ・ベースボールリーグ U-12)という新リーグを始動しています。
今回は、中桐氏を含む実行委員メンバー3名に、JEBC結成の経緯や今後の展望に加え、学童野球の課題や保護者の理想的な関わり方について、幅広く語っていただきました。本内容も第2章後半で紹介しています。
左からジュニア・エンジョイ・ベースボール・コミュニティ立ち上げメンバー中桐 悟氏、島本 隆史氏、齊藤 宗章氏