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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

IT企業が部活を奨励するのはなぜか

SPORT POLICY INCUBATOR(50)

2025年3月12日
澤田 敏(株式会社ボールド 代表取締役社長)

 当社、株式会社ボールドは、従業員1000人ほどのシステム・エンジニアリングサービス会社(SES)である。2003年に私が設立し、IT産業の拡大にしたがって成長していたのだが、事業を続けていく中で、この産業の課題を解決していきたいと思うようになった。その課題とは、

1)ITエンジニア35歳定年説

2)ITエンジニアの孤独(孤立)

が主なものである。そして、これらを克服していくために、

a) 定年まで「生涯現役エンジニア」として活躍できる環境を整え、支援する

b) ITエンジニア(=社員)にとって、ボールドが「所属」だけでなく「帰属」できる会社になる

ことを理念として掲げた。そしてこのab二つは、有機的に結びついている。会社に「帰属」しているから、ここで生涯現役で働こうと考える。だから会社は帰属できる場所にならなければいけない。またITは知識の陳腐化のスピードが速いので、生涯現役でいるためには、勉強と知識習得、そしてその目に見える成果としての資格取得を続けていかなければならないのである。この理念と施策のおかげで、ボールドの離職率は同業他社と比べて著しく低い。

具体的な施策としては

  • 技術勉強会(毎月15講座以上 開催):中堅社員が講師をつとめる
  • 感動大学(年間200回以上開催):専門性と人間力向上を目的として開催(講師は外部)
  • 資格取得の奨励:昨年は社員が計728 IT関連資格を取得した
  • マンツーマンのコーチ制度(常設):コーチはラインの上司ではなく、多くは他社で定年を迎えたベテランである。

などがあり、このような施策の一環として、50以上の「部活」がある。半数程度がスポーツである。講座数、資格取得数 、あるいは部活の数を社員数と比べてみてほしい。たとえば1000人の社員が年間合計728の資格を取得している。あるいは1000人の社員のために講座を年間350以上開講し、部活は50である。充実度、本気度がわかると思う。

フットサル部の様子   写真提供: 株式会社ボールド

フットサル部の様子  写真提供: 株式会社ボールド

 SESという業態は、システム開発会社(いわゆるSIer:エスアイヤー)やエンドユーザーにIT技術者を派遣する。自社オフィスでは仕事をしない。客先で開発・保守・運用等を担当する。人数としては、チームで派遣されている技術者が多いが、一人という場合もある。つまり派遣先のオフィスでは、自社(ボールド)の同僚は少数派であることが多い。自分の他に誰もいないということもある。また開発案件であれば、一つのプロジェクトが終了すると、別の顧客の別のプロジェクトに派遣されることも多い。仕事もオフィスも仲間も変わっていく。

 このような仕事の仕方は、精神的にキツいのではないかと考えるのが自然かもしれない。もちろん人それぞれなので、こういう働き方の方が好きだという人もいる。しかし、たとえば社員1万人以上のシステム開発会社に入社しても、同僚が1万人いるわけではない。IT技術者の職務は細分化されている。ふだん言葉を交わす同僚の人数は5人に満たないということも多い。多いというよりそれが普通であろう。ヨコのつながりを持ちにくい職種である。だからつなぎたい。つなぐ手段になるのが、上に述べたような講座、いつでも相談できるコーチ、そして部活なのである。

 運動系の部活としては、テニス、バスケットボール、マラソン、釣り、ボウリング、フットサル、卓球、野球、ビリヤード、ボルダリング、バドミントン、ダーツ、フィットネスなどがある。 7人以上の社員が「部員」になると、会社の福利厚生費から補助している。社員がヨコにつながることが目的なので、運動部でも文化部でも構わない。すべて「自然発生」であり、会社が部を作るということもない。福利厚生としての企業スポーツの、いわば原点のような活動である。参考までに文化系の部活はプログラミング、軽音、手芸、農活、管弦楽、映画鑑賞、写真、イラスト、アカペラ、オンラインゲームなどで、運動系に劣らず活動が盛んである。ITエンジニアというと男性をイメージすると思われるが当社社員の2割は女性で、結果として部活も多様で面白くなる。

 ただし、これまでの企業部活とは、明らかに違うところがある。一般的な業態の(つまり派遣ではない)企業の場合、部活は事業所単位であろう。しかしボールドの社員は固定的な事業所に所属していないので、ふだん仕事では顔をあわせない、別々の場所で仕事をしている社員同士が部活では「同好の士」として一緒に活動する。そこでは、「仕事上の同僚が少ない」という制約は克服されているのである。事業所という制約なしに1000人がヨコにつながれれば、同じ趣味の人、気の合う人が見つけやすくなる。しかも、同じ会社なのに仕事上の「しがらみ」がない。意外に優れたしくみなのである。

 

 私が現在力を入れていることの一つは、新卒者を一人前のエンジニアに育成していくことである。大学の学部は問わない。というより、問う必要はないと思っている。知り合いの経営学者は、日本企業は大学以上に教育機関であると言っている。長期雇用を理想とするなら、教育機能の充実が不可欠なのである。

 またITは日本では大学で専門的な教育がほとんど行われていない分野なので、この分野の人材を充実させようと考えるなら、経験者を採用するか、(学部や専門を問わない)新卒定期採用と教育を組み合わせるかのどちらかである。しかしITは産業として伸びているので、経験者の採用マーケットはつねに需要過多、供給不足になっている。だから新卒を教育することが必要だし、それができれば会社が成長していける。

 新卒採用で留意しておかなければならないのは離職率である。よく大卒は3年で3割辞めると言われるが、最新の統計(令和33月新卒)ではさらに増えて35%が辞めている。新卒の3分の1は、教育しても意味がないということである。情報通信産業は29%なので全体平均よりは低いが、絶対水準としては無駄の多い、もったいない離職率だと言ってよい。当社の教育システムと部活は、これまで中途採用者については明らかに有効に機能してきた。その長所を、新卒に対しても提供していけるものと考えている。

  • 澤田 敏 澤田 敏   Satoshi Sawada 株式会社ボールド創業者、代表取締役社長 1967年大阪府生まれ。広告代理店に入社し、営業職に従事。1998年創業、2003年に株式会社ボールドを設立。全国唯一無二のプレミアムSESとして「定年65歳まで現役で働けるエンジニア集団」を掲げ、毎日50名以上の社員が帰社して勉強する『感動大学®』『技術勉強会』や、エンジニア一人ひとりにマンツーマン指導を行う『コーチ制度』などの取り組みを行っている。著書に『変革 IT業界に革命を起こすボールドの秘密』(ゴマブックス)がある。