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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

「スポーツライフ・データ 2022」からみたスポーツ政策に係るキーワード:自由回答を対象としたテキストマイニング

SPORT POLICY INCUBATOR(33)

2023年10月11日
横山 文人 (亜細亜大学 経営学部 准教授/笹川スポーツ財団 理事/上席特別研究員)

 笹川スポーツ財団が実施した最新の全国調査「スポーツライフに関する調査2022」における『スポーツに対する思い』や『スポーツの普及や発展』に対する自由回答を分析対象として、わが国のスポーツ政策に関与すると考えられるキーワードを探索的に抽出するためテキストマイニングをおこなった。当該調査は、日本国に居住する満18歳以上の男女を母集団として多段標本抽出法により3,000人を調査対象とし訪問留置調査法により実施していることから、当母集団の意見を推測する evidence の一つであると考えられよう。なお、当該調査の自由回答を対象とした分析は、当財団の特別許可の下で実施したものであり本邦初公開である。

 次に、探索的分析の手順について記述する。調査票の回収結果は3,000(男性 1,503、女性 1,497)であった。その中で自由回答欄に回答したものの内、「無回答」や「とくになし」といった分析対象とはならない回答でないものを除いた有効回答数は1,180(有効回答率39.3%: 男性 543(36.1%)、女性 637(42.6%))と全体の約40%であった。当該有効回答1,180を分析対象として、統計解析プログラミング言語のR言語をベースとしたUI(User Interface)ツールであるExploratoryを用い、データラングリング(生データのクレンジング、リストラ、および強化をおこなうこと (Any Connector, 2021) )を実施した後、テキストマイニングを適用した。その結果および考察について、以下に記述する。

 テキストマイニングの分析手法の一つである形態素解析(日本語文章を最小単位である品詞に分解し、その意味を分析する手法)を実施したうえで、抽出された単語の出現頻度について分析した(図 男女別単語出現頻度 上位25 参照)。ただし、自由回答の設問に含まれる単語の「スポーツ」と「思い」については、出現頻度は高いが、設問文に含まれる単語であり自明であることから分析から除外した。

 そのうえで、最も出現頻度が多かった単語は「身体(全体 252: 男性 73、女性 179)」、次に「健康(全体 234: 男性 86、女性 148)」、「運動(全体 211: 男性 56、女性 155)」となり、これら3つの単語だけが出現頻度200を超えている。有効回答数の男女比が概ね男性1対女性1.17であることを考慮すると、これらの単語の出現頻度が女性において相対的に高いといえる。

 この結果から、日本国に居住する18歳以上の男女は『スポーツに対する思い』や『スポーツの普及や発展』に関して「身体」、「健康」、「運動」というキーワードを最も多く想起していることが明らかになった。このことから、スポーツは「身体」を用いておこなう「運動」であり、それが寄与するものの一つとして「健康」を維持したり増進したりすることをでき得ることが、相対的に大きな関心事であることと思料される。さらに、スポーツによる「身体」「運動」を促進し、その先の「健康」を維持・増進することができ得るようなスポーツ政策が求められているとも解釈することができよう。その際には、これまで以上に、より女性の視点に立った政策策定が肝要であると考えられる。

 さらに、単語の出現頻度が相対的に高く、スポーツ政策へも関連が比較的高いと考えられる単語を抽出すると次のものが挙げられる。「時間(全体 131: 男性 50、女性 81)」、「子供(全体 95: 男性 34、女性 61)」、「体力(全体 86: 男性 24、女性 62)」、「施設(全体 73: 男性 37、女性 36)」、「環境(全体 68: 男性 33、女性 35)」、「観戦(全体 63: 男性 21、女性 42)」、である。

 この結果を概観すると次のようになる。

  • スポーツの不可欠な要素である「身体」「運動」に費やす「時間」に関心があることが推察される。その傾向は、女性のほうが男性よりも約1.6倍の出現頻度であった。
  • 「子供」のスポーツへの関心度が高いことがうかがわれるとともに「子供」によるスポーツ参加への何らかの影響があるようにも推察される。この単語については、女性のほうが男性よりも約2倍弱という相対的に高い出現頻度であった。
  • スポーツを実施することによる効用の一つである「体力」の維持・増進についても関心が高く、出現頻度は女性が男性の約2.5倍と女性の関心度の高さが顕著であった。
  • スポーツをおこなうことができる「施設」および「環境」についても関心度が高く、男女間の出現頻度にはほとんど差がみられなかった。有効回答数の男女比(男性1対女性1.17)から鑑みると、これらの単語の出現頻度は男性のほうがより多いことがわかる。
  • スポーツを「観戦」することにも関心があることがうかがえる。この単語の出現頻度は、女性が男性の2倍であった。

 以上のような形態素解析に基づく単語の出現頻度についての分析結果から、スポーツ政策に係る次のような仮説が導き出されよう。

  1. 「身体」「運動」をおこなうことができる「施設」や「環境」を、今以上に整える必要があるのではないだろうか。
  2. スポーツをおこなうための「時間」を捻出することを支援する「環境」を整備することが肝要ではないだろうか。
  3. スポーツを「観戦」することができる「施設」や「環境」を、これまで以上に充実させることが重要ではないだろうか。その際には、女性が利用する際の配慮が欠かせないこととなろう。
  4. 女性の「身体」「運動」による「健康」「体力」の維持・増進にかけられる「時間」を確保するために、「子供(子育て)」に配慮した「環境」を整えることが不可欠ではないだろうか。


 これらの仮説は、これまでのスポーツ政策においても考慮されてきており、何ら目新しいものではない。ただし、当該仮説を導き出したベースとなるものは、日本国に居住する満18歳以上の男女を母集団として多段標本抽出法により3,000人を調査対象とした調査結果という大規模データに基づくものであること、それ自体が比較的強固なevidenceとなっているということを認識しなければならない。こうしたより精度の高いevidenceが、“evidence based policymaking[1]”には不可欠なものであることは言うまでもない。

 今回はテキストマイニングにおける初期段階である形態素解析による単語の出現頻度分析により頻出するキーワードを抽出することはできたが、キーワード間の関係については分析されていない。今後は、こうしたキーワードの関係性を明らかにするとともに上記の仮説を検証するような追加的な研究が望まれる。

主要参考文献

  • 1) 上田太一郎(監修)・村田真樹・小木しのぶ・高山泰博・ 末吉正成・ 今村誠, 渕上美喜(2008)『事例で学ぶテキストマイニング』共立出版
  • 2) Exploratory (n.a.)
      https://ja.exploratory.io/
  • 3) Any Connector (2021) 「データラングリングとは何ですか?6つの主要なステップ」
      https://anyconnector.com/ja/data-transformation/what-is-data-wrangling.html
  • 4) DATA VIZ LAB (2023) 「テキスト分析を分析する「テキストマイニング」をわかりやすく解説」
      https://data-viz-lab.com/textanalytics
  • 5) Blavatnik School of Government, University of Oxford. (2023) "A guide to evidence based policymaking"
      https://onlinecourses.bsg.ox.ac.uk/blog/guide-to-evidence-based-policymaking

    [1]エヴィデンスに基づく政策立案とは、政治的な意見や理論というよりも、事実や信頼性があり妥当性のある裏付けとなる証拠(エヴィデンス)を参考にして意思決定をおこなう政策立案手法のことである。例えば、このアプローチをとる政治家は、イデオロギー的な信念ではなく、科学的なエヴィデンスを用いて新たなヘルスケア政策の開発に役立てることができよう。 (Blavatnik School of Government, University of Oxford, 2023;著者翻訳)

    • 横山 文人 横山 文人   Yokoyama Fumito, Ph.D. 亜細亜大学 経営学部 ホスピタリティ・マネジメント学科 准教授/笹川スポーツ財団 理事/笹川スポーツ財団 上席特別研究員 1991年 米国ミシガン州立大学大学院 公園・レクリエーション資源学科博士課程修了(Ph.D.)後、(株)三菱総合研究所(研究員)を経て現職。 専門分野は経営学領域に所属し、サービス・ホスピタリティ・スポーツを対象にマーケティングおよびデータ科学をツールとしてアプローチする。長年にわたりSSFのスポーツライフ調査委員ならびに研究助成事業の選考部会長を務め、国民のスポーツライフに関する実態調査においても高い専門性を有する。
      Consulting editor of “Journal of Hospitality Marketing & Management” 、BMIA(ビジネスモデルイノベーション協会)認定コンサルタント。