2023年4月12日
朝日 健太郎 (参議院議員)
- 調査・研究
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2023年4月12日
朝日 健太郎 (参議院議員)
我が国の海岸線総延長をご存じだろうか。国土面積において日本は世界61位に対し、海岸線の長さは世界6位である。まさに、四方を海に囲まれた島国である日本の強みは、海に開かれた点にある。
豊かな海岸線を誇る我が国は、言うまでもなく海と共に歩んできた。その関わり方は時代と共に変化してきたことも事実である。ここでは日本の全般的な海洋政策は控えるが、これからの発展が期待できる点を共有しておきたい。
近代オリンピックのトレンドが変化を見せている。厳格なルールの下、公正公平に競技力を競い合い、その過程と結果にこそ大きな価値を生み出してきたスタイルから、個性や型にはまらないスタイルでの競技、ストリートスポーツとでもいうのであろうか、個人の表現を重視する流れが起きている。その特徴の一つに、競技特性を重視した施設や用具をあまり必要としない点があげられる。次回の五輪に正式に採用されたブレイクダンスなどはその代表格であろう。こうした、スポーツへアクセスする際の障壁が低いという視点は、大変重要であり、誰もが自分が希望するスポーツに取り組める、いわゆる共生社会の根幹でもある。
さて、話題を日本の海に戻そう。昭和の時代、夏のレジャーといえば海水浴であった。現在では、レジャーの多様化も要因であろうがいくつもの海水浴場が閉鎖をされ、さらに教育現場では臨海学校もほとんど聞かなくなった。つまり、ライフスタイルの中に海との関わりが大きく減少している現状がある。一方、海岸スポーツの代名詞であるビーチバレーボールは世界的に発展している。五輪大会では観客数で上位に位置している。そのすべてがいわゆる波打ち際で行っているかというとそうではない。どこへでも、砂を運び、敷き詰めることで競技することが可能であり、市街地でも山の上でも大会が開催されている。自然そのままではないとはいえ、環境破壊はほとんどなく、費用も少ない。ビーチバレーボール国際大会が盛んに開催されている代表的な国をあげれば、アメリカ、ブラジルは当然として、スイス、オーストリア、北欧等がある。地理的にビーチカルチャーと無縁な地域で大いに盛り上がりをみせている点において、スポーツへの関心や評価というのは色んな意味でまだまだ可能性があるということを証明してくれている。
2008年、アジア各国のオリンピック委員会の集合組織であるアジアオリンピック評議会(OCA)は、世界で初となるビーチスポーツに特化した「アジアビーチゲームズ」を開催した。
ビーチスポーツとは、砂浜や海域、またその両方を基本的に使用するスポーツを意味し、さらに言えばビーチ付近(ビーチ近くの広場含む)も含まれており、特別な施設をあまり必要としない点も特徴である。第1回大会はインドネシアのバリで開催され、世界的ビーチリゾート地でありながら、さらにスポーツという新しい景色を生み出す結果となり大成功を収めた。
ビーチゲームズ開催の目的をOCAにヒアリングをすると、
1. アジア地域におけるスポーツの発展
2. 誰もが参画できるビーチスポーツの整備
3. ビーチを利用することでコスト抑制
をあげていた。
つまり、成長、発展を続けるアジア地域においてスポーツを通して余暇を過ごす文化の醸成と、ビーチや海域を有する強み、そしてプレーする際のコストがかからない特性が合致し誕生するに至ったのである。2014年からは我が国でもこのビーチゲームズ招致プロジェクトがスタートしており、これまでいくつかの地域で国内版ビーチゲームズが開催されている。
日本の港や海岸の景色は経済発展と共に様変わりをしている。港は日本の物流の99%を担い、その機能の維持向上のために整備が進められており、その歩みはまだまだ続くであろう。それと並行して、耐震化や防災減災対策も拡充されており、まさに日本の基盤でもある。さらにコロナ禍において一時休止を余儀なくされているクルーズ船は、コロナ前までは全国の港で賑わいを見せていた。つまり、日本の海の景色というのは、時代の要請と共に変化する柔軟性を持ち合わせ、さらに言えばどのような社会テーマでも取り込み、発展できる可能性があるということは史実が証明している。
令和の時代に入り、社会の価値観やライフスタイルの変化はさらに加速している。私はこれからの時代、日本の新たなビーチ文化の醸成に期待している。社会基盤と共存する形で、スポーツでも観光でも海やビーチとの関わりを広め、深めていく必要がある。SDGsやカーボンニュートラル、さらに生物多様性といった社会課題の観点からビーチの今後を考えていくことも必要である。
海に開かれた我が国におけるこの豊かなビーチ空間を磨き上げることは、日本をさらに発展させる推進力になると思っている。その第一歩として、四季を問わずビーチへ足を向けてみてはどうだろう。世界に開かれた日本の未来のビーチを一緒に想像してみようではないか。