2022年5月18日
五月女 政義 (事業創造大学院大学 学長)
- 調査・研究
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2022年5月18日
五月女 政義 (事業創造大学院大学 学長)
コロナ禍という未曽有の環境下で行われた昨年の東京オリンピック・パラリンピック、今年の北京冬季オリンピック・パラリンピックは、暗いニュースが渦巻く中で多くの人たちに感動を与えてくれた。また、規制緩和が進む中で、多くのプロ・アマスポーツが有観客で開催され始め、少しずつではあるが日常を取り戻してきていることを実感する今日この頃である。
一方、その主役であるアスリートたちは、卓越したスキル・能力を持ちながらも、年齢や身体的な限界などから、他のプロフェッショナルと比較しても現役として活躍できる期間はおのずと限られている。こうしたアスリート達は現役引退後、新たなセカンドキャリアを歩むことになるが、ごく一握りの突出した成果を上げた人や著名なプレイヤーは、解説者や指導者などこれまで蓄積したスキル・能力を活かすことができる仕事に就くことができるが、多くのアスリートたちは中途半端な年齢から全く異なる分野でセカンドキャリアを形成せざるを得ないというのが実状である。このことは、あえてデータを示すまでもなく多くの調査結果で明らかにされており、ここでは論をまたない。引退後のキャリアデザインが描きにくく、将来に不安があるということになると、ポテンシャルのある若きアスリートの金の卵を失う可能性も出てくる。
こうした特性がスポーツ関連だけの固有の問題かというと決してそうではない。ビジネスモデル的に捉えると、古くから音楽業界や芸能界といったエンターテインメント業界、ファッション業界など、不確実性が高く個人の能力・クリエーションなどに大きく依存せざるを得ない業界、現在ではユーチューバーやライバーなどにも共通して見られる特性である。これらの業界はもともと不確実性を前提として、「発掘~育成~成果(の刈り取り)」というプロセス、言いかえると「スクリーニング~新陳代謝~タレントポートフォリオ」というビジネスモデルの仕組みをごく自然に築き上げてきたということができるであろう。逆に言うと、図表1に示すように、先が見えない現代においては、伝統的な日本企業が得意としていたQCDを中心とした組織的な“改善”だけでは高付加価値を獲得するのは困難となりつつあり、価格競争に陥る可能性があるということである。また、ICTが発展すればするほど、ライブの付加価値は高まると考えられ、スポーツは大きなポテンシャルを秘めているといっても過言ではない。
一方、アスリートのセカンドキャリアとビジネスモデルという観点から捉えると、これまでもそれぞれの企業・団体などで努力はしてきているものの、「新陳代謝~タレントポートフォリオ」のプロセスにおいて、結果的に使い捨てという現象を招いてきたのではないかとも考えられる。前述の通り、中長期的な視点から考えると、これは入口の「発掘」段階における潜在タレント候補者プールの形成の制約になってしまうことが懸念される。
本学は「起業/事業創造」を特徴とする社会人向け経営大学院である。常日頃、不確実性が高く、旬の時期が限られ、個人の能力に大きく依存せざるを得ないビジネスは、「スクリーニング~新陳代謝~タレントポートフォリオ」というプロセスに加えて、「出口」をビジネスの仕組みとしてビルトインしておかなければならないと語っている。
今後の日本のスポーツのさらなる発展を考えると、図表2のように現役もしくは引退直後に本学のようなビジネススクールで学び直し、これまで培ってきた特定競技分野でのスキルや能力、スポーツを通じて身につけたリーダーシップやチームプレイなどを活かしたセカンドキャリア=出口をビジネスモデルとして組み込み、起業/事業創造など新たな活躍の機会を提供・支援していくような仕組みが求められるのではないかと考えられる。