2014.11.21
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2014.11.21
前稿ではアメリカの典型的なスポーツコミッションの運営システムについて、フロリダ州ゲインズビルスポーツコミッション(GSC)を事例として紹介した。スポーツコミッションが恒常的に稼働するには、その活動の核となる当該地域の観光地マネジメント組織(Destination Management Organization:以下DMOとする)との関係性が重要である。本稿においてもフロリダ州ゲインズビルを事例として,そのDMOである「VisitGainesville(ビジットゲインズビル,以下VGとする)」を紹介し,DMOとスポーツコミッションを含めた観光関連施設・組織との関係性を探ることにする。
DMOとは、いわゆる「観光専門のマーケティング組織」である。アメリカではビジターコンベンションビューローと同義に扱われることが多い。日本の組織形態で言えば、各地方自治体の観光課のようなものとイメージしていただければわかりやすいかもしれない。実際、アメリカにおけるDMOは各自治体によって運営される行政組織であることがほとんどである。DMOの仕事は、マーケティングを駆使しながら、当該地域の観光ビジネスモデルを円滑に回し、観光による長期的な地域の発展を促すことにある。実際にアラチュア郡ゲインズビル市にも「VisitGainesville(以下VGとする)」という名称のDMOが活動している。
VGの主な仕事は、ゲインズビルを観光地として捉え、地域へ経済的・社会的便益を還元する仕組み作りをすることにある。DMOの運転資金はベッド税により賄われていることが多いが、VGの場合も5名の常勤職員の給与を含めた全ての運営費が、ゲインズビル市の位置するアラチュア郡が回収したベッド税によって賄われている。アラチュア郡は、ホテルの宿泊費に5%を上乗せして、ベッド税として観光客に請求する。アラチュア郡は、一度全てのベッド税をホテルから回収する(2013年の総ベッド税収入は約4億円である)。その20%を建設修繕費に、20%を新規観光施設建設積立金にする。興味深いのが残りの60%(約2億4,000万円)の使い道である。アラチュア郡行政はこの60%をすべてVGに預ける。VGは40%(1億6,000万円)の内の85%(約1億3,600万円)を職員給与などを含めたVGの運営費に充て、15%(約2,400万円)を学会・会議出席の出張費として使う。そして最後の20%(約8,000万円)が観光関連施設・団体に補助金として分配されるというシステムが取られている。スポーツコミッションを含めた観光関連団体は、VGが管理する総ベッド税収入の20%からできるだけ多くの資金を獲得し、効果的に運用していく必要がある。以下では、VGとGSCを含めたステークホルダーとの関係性を紹介する。
VGの場合、総ベッド税収入の20%の資金提供先は、観光関連施設・団体であるが、資金提供先は「随意契約」と「公募」によって決められている。前号にも寄せたように、VGはゲインズビルスポーツコミッション(GSC)に対して、ビッドプールと呼ばれるスポーツイベント誘致のみに使うことが許される資金(年間約1,200万円)を提供している。この額はVGとGSCの間の随意契約によって結ばれており、毎年変わることなくGSCが受け取れる最低収入保障と言える。このビッドプールはGSCがイベント誘致活動を継続する上で極めて重要であり、またGSCの他にVGとビッドプールのような契約を結んでいる地域の観光施設・団体はない。なぜGSCのみがそのような優遇措置を受けられるのか。その理由は、スポーツイベントの集客力が他の観光関連団体の集客力を圧倒し、ベッド税収入への貢献で抜き出ているという事実にある。
VG事務局長であるジョン・プリチャー氏によれば、「スポーツイベントによってもたらされるベッド税収入は、他のいかなるイベントにも勝る最大の収入源」になっている。仮に、スポーツ観戦者の多くが日帰りでゲインズビルに訪れたとしても、彼らが滞在中にレストランで支払う食事代など、地域に直接還元される金銭的便益を考慮すると、VGがGSCに投資する補助金の費用対効果は常に他を上回っていると考えられる。
VGがビッドプール契約を結ぶ団体はGSCのみであるが、VGから補助金をもらう観光関連施設や団体は多く存在する。それらはすべて「公募」によって募集・評価され、一定額の補助金を受け取っており、GSCもビッドプールに加えて運営費を獲得するためにこの公募に応募する。公募に際して、VGが着目する主な評価基準は、その観光施設や団体が①ベッド税収入に貢献できるかどうか、②州・郡外からお金を運んでくることができるかである。
上記の2点に加えて、VGが着目する評価基準が③ゲインズビルの都市イメージの向上に貢献できるかどうかである。代表例としては、美術・文化フェスティバルイベントを催す団体や、ヒポドロームと呼ばれるミュージカルや演劇が催されるシアター、ハーン美術館、自然歴史博物館などが資金提供の対象となっている。プリチャー氏は、「これらの観光施設・団体が創り出すベッド税収入は、スポーツイベントに比べれば極めて小さいが、ゲインズビル市民の特性(ゲインズビルは文化・教育レベルの高い住民が多い)を考えると、彼らが理想とするまちづくりや、彼らのQOLの向上に貢献できる的確なステークホルダーに補助金を提供する必要がある。そのためには、経済的な便益のみに着目するのは危険である」と言う。前稿の結びにも書いたが、経済的な基礎を固めた上で、状況に合わせて文化的・環境的な便益も視野に入れながらステークホルダーと関係性を発展させていくことが、SCの恒常的な稼働にとって重要なポイントになるかもしれない。逆説的に言えば、スポーツコミッション設立に際して、金銭的便益を考えるのはもちろんのだが、各市町村にどのような住民が生活をしているのか? 彼らにスポーツは必要なのか? などを熟考していく必要があるのかもしれない。これらの点を深く考えずに、スポーツマネジメントの専門知識を軽視した単なるイベント誘致団体として活動するのであれば、DMOはスポーツコミッションの独自性や必要性を感じないかもしれない。
レポート執筆者
佐藤 晋太郎
Assistant Professor of Marketing Montclair State University Correspondent, Sasakawa Sports Foundation