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国際情報
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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

まんがでわかる みんなのスポーツ・コンプライアンス入門

時代はスポ根ではなくスポコン
まんがと逸話からわかりやすく学ぶ
スポーツの本当の価値

暴力、ハラスメント、ドーピング違反─。耳をふさぎたくなるようなニュースが盛んに報道されるようになって久しい。これらはスポーツに対するイメージや信用を損なうだけでなく、スポーツを愛する人の肉体や人格を痛めつける事態にも発展しているのだから、看過できない重大な社会問題だ。そうした世相を受け、2017年に設立された一般財団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構が「予防に勝る治療はない」との理念で世に送り出したのが本書である。

予防に主眼を置いているのだから、スポーツの現場で「やってはならない行為」の説明に紙幅を割くのは当然のことだが、その前段に「なぜスポーツは素晴らしいのか」という章を設けているところに強いメッセージを感じる。スポーツの素晴らしさ、よく使われるようになった"スポーツの力"とは何か。それを理解することが、ルールとフェアプレイ精神を尊重する、つまりはコンプライアンスの原点であるというポリシーである。

スポーツマンシップを伝えるために、第2章では那須与一の見事な弓の腕前を敵味方の区別なくたたえた「平家物語」、第26代アメリカ大統領、セオドア・ルーズベルトがハンティングで弱った熊を撃たなかった─といった逸話を紹介している。抽象的な表現ではなく、具体的なエピソードをたくさん紹介しながらスポーツとは何たるかを説く。

学生の大会でよく目にする選手宣誓が「古代オリンピックで競技者がギリシア神話の最高神ゼウスの前で誓いを立てたことに由来するらしい」という話や、八百屋の長兵衛が大相撲の親方のご機嫌を取るため、囲碁でわざと負けたことが「八百長」という言葉の始まりである、という豆知識もうまくちりばめ、硬くなりがちなテーマを読み物として十分楽しめるように配慮されているのはありがたい。
第3章の「スポーツ界のひずみ」は本書の柱である。体罰、暴力、暴言、ハラスメント、ドーピング、パラ・ドーピング、八百長、犯罪行為など、スポーツ界で問題になっている行為がまんがで紹介されている。絵の力が存分に発揮されていると言えるだろう。

実際の現場で競技に没頭していると、どんな行為がコンプライアンスを逸脱しているのか分からなくなってしまったり、その場の空気が現場にいる人たちの小さな疑問を許さなかったりするケースがあるはずだ。時代はスポ根(スポーツ根性ものの漫画やドラマ)ではなく、スポコン(スポーツ・コンプライアンス)である。このような本が身近に一冊あれば、現場にいるすべての人が最低限のコンプライアンスを共有できるだろう。

(掲載:2019年09月06日)

著者
一般社団法人 スポーツ・コンプライアンス教員振興機構
編集発行
株式会社学研プラス
紹介者
笹川スポーツ財団
ジャンル
スポーツ文化
定価
1,800円+消費税