6月17日、国会においてスポーツ基本法案が可決成立しました。
スポーツ振興法の公布(1961年)から50年という節目に、超党派議員の情熱とスポーツ関係者の願望が結実し、新たな国家戦略が幕を開けようとしています。
スポーツ基本法の前文にはスポーツの意義や効果が記され、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは全ての人々の権利であるとしています。心身の健全な発達、精神的な充足感の獲得、自律心その他の精神の涵養など、スポーツは国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営む上で不可欠なものとうたわれています。これは、スポーツを通じた日常生活の「陽」の側面が強調されたものと読み取れます。
歴史に大きな爪痕を残した東日本大震災から4ヵ月が経過しようとしています。未だ10万人を超える避難者に目を向ければ、一部で仮設住宅への移転が緩やかに進んでいるものの、そこには生活困窮、孤独死といった日常生活の「陰」の側面が心配されます。
笹川スポーツ財団が本年2月に発行したスポーツ白書の提言に「スポーツのもつ価値、可能性は『無縁社会』を『地域コミュニティ』に変容させる」との一節を付しました。スポーツ基本法でも同様の効果について言及していますが、これはスポーツの文化性に対する期待の高さを示すものであり、具体的な政策に落とし込むことが重要です。
スポーツ振興法からの半世紀を振り返ってみると、従来、日本のスポーツ政策はスポーツ関係省庁を中心に議論され、文部省・保健体育審議会の答申や「スポーツ振興基本計画」(2000)などに反映されてきました。一方、スポーツ基本法成立までの議論において、何人かの有識者が複眼的な政策形成議論の必要性を唱えていますが、「そうではなかった過去」が厳然と存在します。また、それは政策評価にも影響しているように思います。
過去10年間のスポーツ政策の指針であったスポーツ振興基本計画について、検証の議論が影を潜めています。国をあげて取り組んできた政策である以上、政策目標と施策の成果について客観的に評価し、新しい政策形成に反映すべきではないでしょうか。ともあれ、国家戦略としてスポーツ政策を推進する法的根拠ができたことは、未来の新しい可能性を創造することでもあり、スポーツ関係者の一人として素直に評価したいと思います。
今後の課題は、スポーツ基本法に掲げる理念に基づき、具体的な制度設計や政策形成の過程に立法や行政に携わる方々のみならず、多くのスポーツ関係者、国民が参画する仕組みづくりだと考えます。アカデミックな理論や方法論を用い、エビデンスに基づく実効性のある政策提言を、打ち出せる方(組織・人)が躊躇せずに打ち出すべきです。
スポーツ基本法には、障害者スポーツやプロスポーツ、紛争解決支援やドーピング防止活動など、時代を反映したものが数多く盛り込まれています。さらにスポーツ庁の設置にも触れています。機能的かつ的確な政策を形成するためには、スポーツ関係省庁の知見だけでは十分とは言い切れず、やはり複眼的な政策形成議論が必要です。そして、政策形成過程に数多くの眼がかかわることで、事後の適正な政策評価が可能となります。
本提言は、スポーツ界の一員である笹川スポーツ財団が、スポーツ基本法とスポーツ立国戦略を実現するための一方法論を、20年間にわたる当財団の事業成果の分析に基づき考察したものです。本提言が発火点となり、活発な政策形成議論が喚起されることを願ってやみません。
我々は、民間・非営利・独立のスポーツシンクタンクとして、今回の提言内容をさらに詳細かつ具体的なものとし、今後のスポーツ政策に反映されるよう研究を深めてまいります。そして、その実現をはたらきかけてまいります。