2014.11.27
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2014.11.27
Vol.1の冒頭で紹介したコロラドスプリングス・スポーツコーポレーション(スポーツコープ)が比較的に参加型のスポーツイベントを招致・開催する一方で、プロスポーツあるいはオリンピックスポーツのトップイベントを誘致して経済波及効果や自治体の名声を高めようとする自治体もある。
現在、レギュラーシーズンの真っただ中にある全米フットボールリーグ(National Football League, NFL)の決勝戦、スーパーボウルは毎年主催者であるNFL、スポンサー、マーチャンダイザー、開催地のホテル、飲食店、リテーラー、リゾート施設等、そして、開催地以外のスーパーや飲食店等にも巨額な経済波及効果をもたらすことから、スポーツビジネス業界のみならずビジネス界全般で“Big Money Maker”と称されている(Reitzel, 2012)。今シーズンのスーパーボウルは2015年2月1日アリゾナ州グランデール市にあるフェニックス大学スタジアムで開催される。NFLのNational Football Conference(NFC)西地区に所属するアリゾナ・カーディナルスのホームスタジアムでもある。グランデール市はフェニックス市に隣接しておりフェニックス地域でのスーパーボウルの開催は、1996年と2008年に引き続き今回で3回目となる。アリゾナ・スーパーボウル・ホスト委員会は、スーパーボウル開催前後と期間中は9万人の訪問客を見込んでおり、アリゾナ州全体に$5億ドル(500億円)の経済波及効果があると推計している。このスーパーボウルに関連する経済波及効果の算出方法には賛否両論はあるものの、全米および全世界から脚光を浴びることは間違いなく、同ホスト委員会も巨大な経済的な効果を期待すると同時に、良質なホスピタリティの提供、ボランティアの登用、青少年への教育の機会、環境に対する新たな取り組みなども重点に置き、地域の誇りと伝説を創出する絶好の機会として位置づけている(Arizona Super Bowl Host Committee, n.i.)。フェニックス地域スポーツコミッションもこれらのプロジェクトを担当することによってアリゾナ・スーパーボウル・ホスト委員会を積極的にサポートしている。
今年1月、国際バレーボール連盟(FIVB)は2015年の女子バレーボールのワールドグランプリのファイナルラウンドをアメリカのネブラスカ州オマハ市にあるセンチュリーリンクセンターで開催することを発表した。FIVBのワールドグランプリは夏に28ヵ国(2013年は20ヵ国、2011年と2012年は16ヵ国、2010年以前は12ヵ国が参加。2014年から28ヵ国に拡大した。)が数週間に渡って全世界で予選プールを行い、最終上位6チームがファイナルに進むというFIVBのメジャートーナメントである。アメリカ国内でこのようなFIVBのメジャーイベントが開催されるのは初めてのことである。ちなみに、日本では過去に6回このファイナルをホストしており、昨年は札幌で、今年は東京の有明コロシアムでこのグランプリ・ファイナルが開催された。
このファイナルの開催にあたり、地元の開催組織委員会のリーダーシップを執っているのが、オマハスポーツコミッションである。女子バレーボールの名門大学の一つネブラスカ大学が同州リンカーン市にあることから、ネブラスカ州では全般的にバレーボールの人気は高い。そこで、国際イベントを開催するに相応しい施設を持つオマハ市のスポーツコミッションがFIVBグランプリ・ファイナルの招致に成功した(Kauffman, 2014)。オマハスポーツコミッションは来年のFIVBグランプリ・ファイナルラウンドの地元開催による経済波及効果をもちろん期待するものの、それ以上にバレーボール人気の高さを全米および全世界に知らしめ、バレーボール分野でのオマハ市の確固たる地位の確立を図ろうとする狙いもある。
また、オマハスポーツコミッションは2016年に米国水泳連盟のリオデジャネイロ五輪への選手選考会、“U.S. Team Trial”をホストすることになっている。さらに、2017年には国際馬術連盟のジャンプとドレッサージュのワールドカップをオマハ市で開催することも決まっている。オリンピックスポーツに適する施設を保有していることも功を奏して、オマハ市ではオリンピックスポーツのビッグイベントの招致に成功している。
ダラス・コンベンション・ビジターズ・ビューローは去る10月29日新たにダラス・スポーツコミッションを創設することを発表した。これまでスポーツマーケティング担当であった同ビューローの副会長が新たなスポーツコミッションをリードする。そして、同ビューローでは4人でスポーツ部門の業務を担当していたが、スポーツコミッションでは6人に増員、予算も70万ドル(7千万円)から100万ドル(1億円)に引き上げ、スポーツイベントの誘致と開催に力を入れる。同ビューローのスポーツマーケティング部門は過去6年間で200以上ものスポーツイベントを誘致し、10億ドル(1,000億円)相当の経済波及効果を産み出した。その部門を同ビューローから独立させ、さらに強化しようとする試みである。ダラス周辺には、NFLチームのダラスカウボーイズ、メジャーリーグベースボール(MLB)のテキサスレンジャーズ、全米バスケットボールリーグ(NBA)のダラスマーべリックス、全米ホッケーリーグのダラススターズ、メジャーリーグサッカー(MLS)のFCダラスもフランチャイズを置く。スポーツの土壌は十分にある。これらのプロスポーツチームと連携を図り、魅力的なスポーツイベントの誘致に乗り出す。また、2024年のオリンピック夏季大会の開催誘致に立候補したものの、残念ながら第一次国内選考で漏れてしまったが、国内のオリンピック競技団体と連携して、オリンピックスポーツのイベントの誘致にも力を入れる。アメリカ国内のスポーツコミッションの中で今一番ホットな存在と言える(Mosier, 2014)。
スポーツコミッションとコンベンション・ビジターズ・ビューローの存在はアメリカの自治体では珍しいことではない。彼らはスポーツイベントの主催者と地元産業の間に立ち、主催者へはスポーツイベントの開催の上で必要となるビジネスを扱う地元の業者を紹介、地元産業へはスポーツイベントの誘致によりビジネスの機会を提供するという橋渡しをしている。逆に、スポーツコミッションとコンベンション・ビジターズ・ビューローが活発にスポーツイベントの誘致をしていない自治体では、スポーツによる景気の上昇も関心の高まりもほぼ期待できない。スポーツコミッションとコンベンション・ビジターズ・ビューローはアメリカの自治体の中で、スポーツイベントの開催による経済の発展とスポーツ振興を効果的に促進するカンフル剤の役割を担っている。
レポート執筆者
内藤 拓也 (2014年10月~2015年5月)
海外研究員
Coordinator of Special Projects, USA Volleyball
Correspondent, Sasakawa Sports Foundation