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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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スポーツチーム・アスリートによる社会貢献活動

2015.02.19

スポーツチーム・アスリートによる社会貢献活動

はじめに

近年、企業の社会的責任(コーポレートソーシャルレスポンシビリティ:CSR)という概念が注目を集めている。この概念は、企業が経済的利益のみを求めるのではなく、社会に及ぼす影響に責任をもちながら企業活動を行うことを指す。スポーツチームのCSRも例外ではない。比較的経営体力の乏しいスポーツチームにとってみれば、この社会の期待は重圧に感じられるだろう。企業だけでなく、アスリートや有名人も社会に責任をもちながら行動することが期待されている。スポーツは社会に強大な影響を与えることができる社会的機関である(Zeigler, 2007)。さらに言えば、彼らは社会に甚大な被害を与える存在にもなり得るのである。果たしてスポーツチームやアスリートは、社会に貢献できているのだろうか?本稿では(1)CSRの概念を簡単に概観してから(2)スポーツチームやアスリートが行う社会貢献活動についてアメリカの事例と考察を交えながら報告する。

CSRの概観

CSRと言われても、人それぞれ解釈が異なってくるのではないだろうか。企業の社会貢献を考える際、一つのガイドラインとして、CSRピラミッドという考え方がある(Carroll, 1991)。CSRを理解する際に有用なこの概念は、企業が果たすべき責任を ①経済的責任、 ②法的責任、 ③倫理的責任、そして ④社会的責任の4つに大別する。まず企業は利益をあげなければならない。スポーツを例にとってみれば、経営難でチーム自体が撤退したというケースは、最初の経済的責任すら果たしていないと捉えることができる。次に企業は法律を守る義務がある。そして経済的・法的責任を果たすことに加え、社会全体が共感できるような倫理にしたがって企業活動をすることも望まれる。これらの責任を果たして初めて、企業は社会全体にポジティブな影響を与えられるような活動をすることが望まれるのである。つまり社会全体のことを考えることも大事だが、まずそれぞれの企業自体が安定した経営を行い利益をあげ、健全な企業活動を行うことが社会貢献に対するボトムラインになるのである。

スポーツを例に考えてみると、経営が安定しているリーグやチームは社会にポジティブな影響を与えるような活動をすることを期待されるだろう。アスリートも同様である。競技力があり選手としての評価が高いアスリートは、社会の注目を集めると同時に、社会への影響力もあがっていくことを理解しなければならないかもしれない。1990年代に活躍した元プロバスケットボール選手のチャールズ・バークレーはNBA現役時代のインタビューで「俺はダンクシュートを決めることが仕事であって、人様の子どもを育てるのが仕事ではない」と述べている。子どもの教育にとって、アスリートは直接関わっていないかもしれない。しかし社会の注目を集めるスポーツチームやアスリートが、ロールモデルとなって社会を牽引していく姿を間違っていると唱える人は、この21世紀に少ないのではないだろうか。

スポーツの社会貢献:アメリカの事例と特徴

スポーツによる社会貢献活動のモデルケースとしてよく紹介されるのが、アメリカプロバスケットボールリーグNBAが主導して活動するNBA CARESである。NBA CARESは、教育・人間発達・家族・健康などに関する社会問題を提起し、その解決に貢献することをミッションに掲げている。2005年にスタートしたNBA CARESの具体的な活動は、アスリートが学校を訪問し、子どもたちに教育に対する動機づけを行ったり、病院を訪問することで病気を抱える子どもたちを励ましたりという活動が多い。さらに、自然災害の被害を受けた国や街を訪問して人々を勇気づけたり、国際的なステータスをもつアスリートを用いて、海外でのバスケットボールクリニックなどを行い、肥満や貧困、家族の重要性や男女差別の認識を高める活動も行っている。NBA CARESは2005年から2014年末までの約10年で合計300万時間超のチャリティー活動を行い、およそ250億円もの寄付金を集めたと報告されている。集められた寄付金はコミュニティパートナー(例えばユニセフや赤十字)を通して、多種多様な問題を抱える世界中の人々・団体に寄付されている。

アメリカではリーグやチーム主導の活動だけではなく、アスリートやコーチも社会貢献活動に自発的に取り組んでいる。例えばレブロン・ジェームズはLeBron James Family Foundationを設立し、家族の重要性を訴える活動を続けている。アジア系アメリカ人として初めてアメリカ4大スポーツのヘッドコーチになったマイアミ・ヒートのエリック・スポールストラも、自身の活動の拠点となるフロリダ州マイアミだけでなく、フィリピンやシンガポールで行われるバスケットボールクリニックなどに積極的に取り組み、青少年の教育に貢献している。

ここまで概観すると、日本国内でも同じような活動が多く存在しているように感じる。一つ違いを挙げるとするならば、アメリカのスポーツでは「多様性(Diversity)」に挑戦するという共通理解があるように感じる。何を意味しているかというと、社会貢献活動の種類が非常に多く、さまざまな問題の解決に取り組んでいるのである。言語、人種、文化など、私たちは多種多様な背景をもっている。特にアメリカでは言語を含めた多くの異なる文化背景があり、人々の多様性が極めて高い国である。多様性が高まれば、人々にメッセージを伝える方法も複雑化してくるのは想像がつくだろう。日本は比較的多様性の低い均質社会であると言われることがあるが本当にそうだろうか? 多様性が顕在化していないだけで、外国人もいれば、帰国子女、同性愛者などさまざまな背景をもった人々が生活している。スポーツは多種多様な不安や問題を抱える彼らと日本社会に対して、どのようにメッセージを伝えていけばいいのだろうか?

社会貢献活動主体との一致度

社会貢献活動の効果を最大化するためには、社会貢献活動の主体(スポーツチームやアスリート)と社会問題の一致度を考慮することが重要である。スポーツの特徴である「身体活動」と「健康」はとても一致度の高いケースであるため、スポーツチームやアスリートが行う社会貢献活動が、肥満などの健康に関する問題と関係している場合、人々はその活動のメッセージをより強く受け取ると思われる。実際、NBA CARESはその活動の一つに、NBA CARES FITという肥満問題に取り組む活動も行っている。他にも活動主体と社会問題の一致度が高い例を挙げるならば、Family foundationを設立したレブロン・ジェームズも家族を大切にするキャラクターとしてよく知られているし、同性愛者の権利を主張するジェイソン・コリンズ(元プロバスケットボール選手)自身も同性愛者であることを告白したアスリートの一人である。

さらに社会貢献活動主体とメッセージの受け手の一致度も重要な要因の一つである。私たちは多種多様な背景をもち、その背景を基に「社会的グループ」に属している。わかりやすく言えば、女性は「女性」という社会グループに属している感覚を持ったことがあるだろうし、北海道に生まれた方々は「どさんこ」という社会グループに属している感覚を持ったことがあるだろう。例えば、ジェレミー・リンは台湾系バスケットボール選手であり、彼のメッセージは台湾やアジアの人々に届きやすいだろう。スポーツチーム・アスリートは、自分たちが取り組むべき社会問題は何なのか、誰にメッセージを届けたいのか熟考し、社会貢献活動を行っていく必要があるのかもしれない。

参考資料

  1. Carroll, A. B. (1991). The pyramid of corporate social responsibility: Toward the moral management of organizational stakeholders. Business Horizons, 34(4), 39-48.
  2. Zeigler, E. (2007). Sport management must show social concern as it develops tenable theory. Journal of Sport Management, 21, 297-318.

レポート執筆者

佐藤 晋太郎

佐藤 晋太郎

Assistant Professor of Marketing Montclair State University Correspondent, Sasakawa Sports Foundation