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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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将来のTeam USAメンバーの発掘と育成

2015.03.24

ハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムを経験したプレーヤーの活躍

昨年12月20日、オクラホマシティで行われた全米大学アスレチック協会(NCAA)1部の女子バレーボール選手権大会決勝で、ぺンシルベニア州立大学(Penn State)がセットカウント3-0でユタ州のブリガム・ヤング大学(Brigham Young University, BYU)を破り、2年連続史上7度目の優勝を遂げた。過去8年間でのPenn Stateの優勝回数はこれで6回を数えた(Penn State Athletics, 2014)。第5シードで本選手権をスタートしたPenn Stateは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を破り準々決勝進出を決め、前年度の決勝戦での対戦相手であったウィスコンシン大学を倒し、さらに準決勝で本選手権トップシードのスタンフォード大学に3-1で勝利した。そして、決勝でBYUを退け、貫録の優勝を飾ったのである(NCAA, 2014)。

もちろんこの優勝はPenn Stateの選手たちの努力の賜物であり、監督のRuss Roseが率いるコーチ陣の功績であることは間違いない。その一方で、本選手権でのPenn Stateの20名の登録選手のうち14名は過去に米国バレーボール協会が主催するハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムに参加していたことも特筆すべき点である。

アメリカ全土で行われているトライアウト

米国バレーボール協会のハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムの目的は、将来アメリカ代表チームで活躍する可能性が高い若いバレーボールプレーヤーを早期に発掘・発見して、国内エリートレベルから世界のトップレベルに引き上げることにある。ハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムに参加するには、アメリカ全土で行われているトライアウトを受けることから始まる。そのトライアウトで受けた評価に基づき、各プレーヤーの年代と競技レベルに応じて、ジュニアとユース代表チームへの招集、トレーニングプログラムへの参加、ハイパフォーマンス選手権大会への出場等の機会が提供されることになる。なお、前回紹介したアメリカ代表チームオープントライアウトもこのハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムの一環にある。

ハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムの中で最も大規模に展開されているのは、中高年代の女子のバレーボール(インドア)である。2015年の中高年代女子のトライアウトは2月中旬から4月下旬にかけて全米36ヵ所で行われている。トライアウトの開催地は、東海岸のボストン、太平洋上のハワイ、カリブ海に面するフロリダ、西海岸のワシントンやカリフォルニアにも及んでおり、アメリカ全土に渡っていると言える。また、アメリカ市民権を有し、海外やアメリカ領の離島に在住する中高年代のプレーヤーも自身の個人技術を映した動画を米国バレーボール協会へ送ることでこのトライアウトに参加できるように配慮されている。

トライアウトの主な申し込み方法は米国バレーボール協会のホームページ上のオンラインシステムである。トライアウトへの参加費は、トライアウト日の1週間前までに申し込みを完了する場合は$65(7,800円)、トライアウト前の1週間以内に申し込みをする場合は$90(10,800円)、トライアウト開始前4時間以内に申し込みをする場合は$110(13,200円)を支払う。昨年は男女合わせて6,000名を超えるプレーヤーがトライアウトを受けた。トライアウト参加料だけでも米国バレーボール協会では相当の収入を見込むことができる。参加費に加えて、トライアウトを受けるプレーヤーは必ず米国バレーボール協会の会員であることを証明しなければならない。そして、行動規範やプレーヤーの既往歴とトライアウト参加への保護者の同意を記したMedical Releaseを提出して初めて参加申し込みが完了する。各プレーヤーは参加費に加えて希望額を寄付することもできる。この寄付金はハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムに参加する上で財政的な支援が必要となるプレーヤーの奨学金として利用される予定である。

トライアウトでは、プレーヤーをジュニア、ユース、セレクト、フューチャーセレクトの4つの年代に区分して、年代ごとに5段階評価で競技レベルのランク付けをしていく(表1参照)。競技レベルは「代表チーム・A1・フューチャーセレクトトレーニングプログラム」「A2・地域協会ハイパフォーマンス・コンチネンタルプログラム」「A3プログラム」「ナショナル・スキル・プログラム」「該当なし」の5段階の評価が各プレーヤーに付けられる。

表1.ハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムでのランク付け

表1.ハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムでのランク付け

プレーヤーは、申し込み時に自身のポジションも申告する。トライアウトではポジションごとに評価が下され、ランク付けされる。1人のプレーヤーが複数のポジションでトライアウトを受けたい場合には、別の日に改めてトライアウトを受けることになる。また、1人のプレーヤーが同じポジションで複数回トライアウトを受けることも可能である。その場合には、高いほうの評価が採用される。

1回のトライアウトは全4時間のスケジュールで行われる。最初の1時間は身体・体力測定、2時間目はアウトサイドとオポジット、ミドルブロッカー、セッター、リベロの4つのポジションに分かれての基礎的な技術ドリル、3時間目は他ポジションとの複合的なドリル、4時間目はゲーム形式の総合的なドリルが行われる。参加人数にもよるが、上記に示した年齢区分によって組分けされて各ドリルに臨む。そして、4時間目には、各年齢区分の中でさらに競技レベルで上位半数と下位半数の2グループに分かれてゲーム形式の総合的なドリルが実施される。アメリカ全土で行われる36のトライアウトで全く同じスケジュールとドリルが実施されている。評価の公平性の確保がその狙いである。このドリルは米国バレーボール協会のホームページ上に公開されている。主に、トライアウトに関わるコーチが予め各ドリルの内容を把握してトライアウトに臨めるようにとの配慮からである。

トライアウト時には、コートコーチと評価コーチ(Evaluator)の2種類のコーチが各コートに着く。コートコーチは各ドリルをコート上で取り仕切り、評価コーチはドリル実施時に各プレーヤーの競技レベルを評価する。これらのコーチは米国バレーボール協会のハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムに登録したコーチ、大学のコーチ、そのほか高校やクラブチームのコーチがボランティアで参画している。

また、トライアウト時には米国バレーボール協会スタッフがプレーヤーの父兄に対してハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムの概要とトライアウト後に各プレーヤーに提示されるプログラムについて説明も行う。

中高年代女子のトライアウトのほとんどは全米選手権への予選トーナメントの前日に行われている。多くのトライアウト参加者はその予選トーナメントに出場するために自身のクラブチームとともに遠征に来て、大会前日にトライアウトを個人として受ける。よって、予選トーナメントに出場するクラブチームのコーチが、大会前日に4時間のトライアウトによる選手の疲労、トライアウト時の怪我、そして調整してきた選手のコンディションを崩すこと等を危惧することもある。その配慮として、適度な運動量を要するドリルをトライアウト時に実施する、怪我防止のための注意事項をトライアウト前に徹底する、そしてトライアウトに参画しているコートコーチと評価コーチは技術的なフィードバックを一切行わないことが徹底されている。

トライアウト後に提供されるプログラム

今年のトライアウトで年代ごとに規定された人数枠に残ったプレーヤーには、表2のように階層的に組織されたトレーニングプログラムの中から、プレーヤーの年代と競技レベルに応じたプログラムが提供される。ハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムに登録されたコーチがそのトレーニングプログラムで指導にあたる。

女子バレーボール選手権大会の様子

フューチャーセレクト年代の全選考プレーヤーとセレクト年代のスキルプログラムに選ばれたプレーヤーは、ミシガン州グランドラピッズ、ノースキャロライナ州ウィンストン‐セーラム、ルイジアナ州ニューオーリンズの3カ所で4日間のスケジュールで行われるいずれかのトレーニングプログラムに参加費$530~$655(63,600円~78,600円)を支払い、航空賃を自己負担して参加をする。このプログラムでは、主に各年代に必要とされる個人技術を中心にトレーニングが実施される。

セレクト年代とユース年代のA3プログラムに選ばれたプレーヤー達は、コロラド州コロラドスプリングス、ネバダ州ラスベガス、ミシガン州グランドラピッズの3カ所で5日間のスケジュールで行われるいずれかのプログラムに、参加費$655(78,600円)を支払ったうえ、航空賃を自己負担して参加をする。やはり、個人技術を高めるトレーニングに重点が置かれる。

セレクト年代、ユース年代、ジュニア年代のA2招待プログラムに選ばれたプレーヤーは、コロラドスプリングスで7日間に渡って行われるトレーニングプログラムに参加費$940(112,800円)を支払い、航空賃を自己負担して参加をする。最終日に同プログラム参加のプレーヤーで編成されたチーム同士でのトーナメントが行われるものの、やはり個人技術の習得が主なトレーニングの目的となる。

セレクト年代、ユース年代、ジュニア年代のコンチネンタルチームプログラムとA1代表チームトレーニングプログラムに選ばれたプレーヤーは、アイオワ州デモインで行われる10日間のトレーニングプログラムに参加費$1,255(150,600円)を支払ったうえ、交通費を自己負担して参加する。この10日間のうち前半5日間はトレーニング、後半5日間は同プログラムに選ばれたプレーヤーで編成したチームで、米国バレーボール協会が主催するハイパフォーマンス選手権大会に出場する。よって、トレーニングは個人技術およびチーム練習の両方に取り組むことになる。

ユース代表チームに選考されるには、前述のアメリカ全土で行われるハイパフォーマンス・トライアウトを受け、全米で上位24名以内にランク付けされなければならない。そして、その24名は5月にコロラドスプリングスの米国オリンピック・トレーニングセンターで行われるユース代表チームトライアウトに召集される。このトライアウトで最終的に14名(うち2名は控え選手)が選ばれ、アメリカ女子ユース代表チームが編成される。そして、今年はリマ(ペルー)で8月7日から16日にかけて行われる国際バレーボール連盟(FIVB)U18少女世界バレーボール選手権大会に派遣される。ここでユース代表チームに選考されなかったプレーヤーはA1代表チームトレーニングプログラムに参加することができる。

ジュニア代表チームのメンバーは、前回紹介した毎年2月に行われる代表チームオープントライアウトで選考されている。ハイパフォーマンス・トライアウトでよほどの逸材が見つけられた場合のみ、ジュニア代表チームメンバーへの選出を考慮することもあるが、例外的な措置である。シニア年代も前回紹介した通り、代表チームオープントライアウトで代表チーム候補選手とA2プログラム選手が選ばれる。

表2.米国バレーボール協会2015年ハイパフォーマンス・パイプライン・プログラム・レベル
フューチャーセレクト セレクト ユース ジュニア シニア
2002年以降生まれ 2000-2001年生まれ 1998-1999年生まれ 1996-1997年生まれ 通常1996年以前生まれ
96-128名が全米トレーニングプログラムに参加 55名がA1代表チームトレーニングプログラムに参加 12名がアメリカ代表ユースチームに召集 12名がアメリカ代表ジュニアチームに召集 12-24名がアメリカ代表チームに召集
33名がA1代表チームトレーニングプログラムに参加 33名がA1代表チームトレーニングプログラムに参加 48名がA2プログラムに参加
96名が全米育成プログラムに参加 22-33名がコンチネンタルチームプログラムに参加 22-33名がコンチネンタルチームプログラムに参加 11-22名がコンチネンタルチームプログラムに参加
128名がA2招待プログラムに参加 128名がA2招待プログラムに参加 64名がA2招待プログラムに参加
128名がA3トレーニングプログラムに参加 192名がA3トレーニングプログラムに参加
64名が全米スキルプログラムに参加

資料:米国バレーボール協会

国際基準で行われるハイパフォーマンス選手権大会

前述の通り、セレクト年代、ユース年代、ジュニア年代のコンチネンタルチームプログラムとA1代表チームトレーニングプログラムに選考されたプレーヤーでチームを編成し、米国バレーボール協会主催のハイパフォーマンス選手権大会に出場する。同選手権は、例年、中高年代の女子クラブバレーボールシーズンが終了し、高校女子バレーボールシーズンが始まる前の7月下旬に開催されている。昨年はオクラホマ州タルサ、今年はアイオワ州デモイン、来年はフロリダ州フォートローダーデールで開催される。同選手権開催の主な目的は、ハイパフォーマンス・トライアウトで選出された将来アメリカ代表チームで活躍する可能性がある若いプレーヤー達に、国際レベルでの競技経験を積ませることと、世界および大陸選手権大会の運営フォーマットに慣れ親しませることである。

よって、ハイパフォーマンス選手権大会では、海外の協会から派遣された各国の代表チームを積極的に受け入れて競技レベルを向上させている上、全てFIVBの規則とルールに則った大会運営を行っている。これまで、ブラジル、チリ、中国、ドミニカ共和国、イタリア、メキシコ、ニュージーランド、オーストラリア、プエルトリコがジュニア年代、ユース年代、それよりも若い年代の代表チームを同選手権に派遣している。

また、アメリカ国内ルールではジュニアよりも若い年代では3セットマッチ制が基準とされているが、ハイパフォーマンス選手権では5セットマッチ制がとられている。選手交代も国内ルールでは控え選手はセット中に何度でもコートに戻ることができるが、国際ルールに則り、一度のみの交代しか同選手権では認めていない。国内ルールでは、リベロがサーブを打つことができるが、それも同選手権では国際大会同様に認めない。そして、国際大会と同様に大会2日前に到着、大会前日にトレーニングを行うことが義務付けられている。また、国際大会で通常行われる出場選手の国籍や会員登録等を確認する事前照会とテクニカル会議も同選手権の前日に行われている。

女子のハイパフォーマンス選手権大会では、国際ジュニア、国際ユース、国内ユース、国内セレクトの4部門が設定されている。この各部門に、前述したトライアウトでコンチネンタルチームプログラムとA1チームトレーニングプログラムに選出されたプレーヤーで編成された米国バレーボール協会チーム、海外の協会から派遣された各国代表チーム、そしてハイパフォーマンス・プログラムを独自で実施している地域協会から派遣されたチームが、それぞれの年代と競技レベルに応じてエントリーをする。合計5日間の競技日程で、部門ごとに予選ラウンドと決勝ラウンドを行う。例年、合計で100を超えるチームが出場している。

スケジュールにもよるが、女子ジュニア代表チームや女子ユース代表チームが世界選手権大会や北中米大陸カリブ海選手権大会の前にこのハイパフォーマンス選手権大会に出場して、直前のトレーニングとするケースもある(USA Volleyball, 2015)。

まとめ

アメリカ全土で行われるトライアウトは、将来アメリカ代表チームで活躍する可能性があるプレーヤーを発掘しランク付けをする。トレーニングプログラムで、年代ごとにそれらのプレーヤーを強化育成して国内エリートレベルから国際トップレベルに引き上げる。そして、ハイパフォーマンス選手権大会でより国際大会に近い環境とレベルで競技経験を積ませる。ハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムでは、このサイクルを毎年継続して行っている。

冒頭で紹介したPenn Stateの選手達もこのプログラムに参加して競技レベルを高めた。また、2008年北京オリンピックで金メダルを獲得したアメリカ男子代表チームと銀メダルを獲得したアメリカ女子代表チームの全員がこのハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムを経験している。2012年ロンドンオリンピックのアメリカ男女代表チームメンバーのほとんども同様にこのプログラムに参加をした。1994年にスタートしたハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムは着実に成果を上げてきた。

そして、アメリカでは男子のバレーボールの競技人口が極度に少ないことから、高校バレーボールやクラブバレーボールでの競技経験以上に、より高いレベルでトレーニングと試合が行われるハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムが男子の競技レベルを引き上げる貴重な機会となってきた。

また、米国バレーボール協会ではビーチバレーボールのハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムにも力を入れている。近年、NCAAがサンドバレーボール(ビーチバレーボール)を公認し始めて若いプレーヤーの競技力向上が臨めるようになったものの、中高年代のプレーヤーの競技力向上の場が十分に確保できていない。そこで、ハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムは若年層のビーチバレーボールプレーヤーの格好の競技力向上の場となっている。次回は、その男子バレーボールとビーチバレーボールのハイパフォーマンス・パイプライン・プログラムを紹介する。

※1ドル=120円で換算

参考資料

  1. NCAA. (2014). 2014 NCAA Women’s Volleyball Championship Bracket. Women’s Volleyball. Retrieved March 7, 2015 , fromhttp://www.ncaa.com/interactive-bracket/volleyball-women/d1
  2. Penn State Athletics. (December 20, 2014). Women's Volleyball Sweeps BYU For Seventh NCAA Title. Women’s Volleyball. Retrieved March 7, 2015 fromhttp://www.gopsusports.com/sports/w-volley/recaps/122014aaa.html
  3. USA Volleyball. (2015). High Performance. Retrieved March 7, 2015, fromhttp://www.teamusa.org/USA-Volleyball/High-Performance/HP-Indoor/Girls

レポート執筆者

内藤 拓也 (2014年10月~2015年5月)

内藤 拓也 (2014年10月~2015年5月)

海外研究員
Coordinator of Special Projects, USA Volleyball
Correspondent, Sasakawa Sports Foundation