2015.08.10
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2015.08.10
以下の数字は、2007年開催のボストン・マラソンに関する統計情報である(The Boston Globeより抜粋して引用)。
23,903 | 参加登録したランナーの数 |
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20,638 | 実際にスタート・ラインに立ったランナーの数 |
20,350 | ゴールにたどり着いたランナーの数 |
3,945 | 国外からの参加者数 |
181 | 参加国数 |
415 | 関わった州兵の数 |
7,000 | ボランティア数 |
1,200 | 医療スタッフ数 |
1,200 | 職務に当たった警察の数 |
63,360 | (大会に使用した)ロープの長さ(単位:フィート、約19.3 km) |
30,000 | (〃)フェンスの長さ(単位:フィート、約9.1 km) |
50,000 | (〃)ケーブルの長さ(単位:フィート、約15.2 km) |
140万 | 紙コップの数 |
10,000 | ゴミ袋の数 |
100,000 | 安全ピンの数 |
600 | プレハブ式トイレの数 |
395 | ランナーのために貸し切られたスクールバスの数 |
710万ドル | 主催者Boston Athletic Associationの年間予算(約8.3億円*) |
640万ドル | 大会による収入(約7.5億円*) |
1億ドル | 大会参加者がボストンで使うお金の推定総額(約117億円*) |
*1ドル=117円(2007年当時の平均)で換算
いずれも、その規模や影響の大きさを把握するうえで興味深い数字だ。少し古い資料であるため、現在と多少数字が異なるものもある。2015年大会では、2007年大会から6,000人以上増えて30,251人が参加登録している(Boston Athletic Association:以下、B.A.A.より)。うち18%の5,342人が国外からの参加者である。米国内居住者を含めた日本人は264人(日本居住者は165人)参加と、同じくアジアの中国104人、韓国107人と比べて多い。国籍で米国に次いで多かったのは、隣国カナダで2,501人であった。
このように国外からの参加者も少なくない大会であり、その経済効果の大きさなどは、スポーツ・ツーリズムの観点から興味深い。しかし、ボランティアとしてさまざまな担当を経験してきたレヴィン松子さんは、日本をはじめ国外参加者向けの多言語での情報支援が不十分だと指摘する。大会前から大会後にかけて、多言語での支援体制が整えば、ボストン滞在中の観光に伴う消費の活性化も期待できる。日本で同様に国外から参加者を呼び込み、観光消費を活性化させるためには、より一層の支援が必要になりそうである。
ボストン・マラソンの各参加者は、基本として180ドル(約2.1万円)の参加費を支払うが、他にさまざまな寄付プログラムが存在する。たとえば50万円ほどの寄付金を支払うことで、厳しい制限タイムをクリアする記録をもたずとも大会に参加できる仕組みとなっている。1989年にアメリカ肝臓財団への寄付プログラムが始まり、その後、1990年に開始したダナ・ファーバーがん研究所へのプログラムをはじめ、毎年30以上のプログラムが実施されている。爆弾テロ事件後の2014年、参加枠を36,000人に広げて開催された大会では、300以上の団体へ3,840万ドル(約46億円)が集められた。これまでの累積寄付金額は、計1.6億ドル(約192億円)に達するという。
さらに資金面から大会をみてみると、主要スポンサーはJohn Hancockというボストンを拠点とする保険会社であり、同社からの多額の出資金は世界トップ・クラスの選手を集めるための賞金確保につながっている。加えて、ボストン・マラソンは東京マラソン等と同様、World Marathon Majorsの一つでもあり、各大会の順位に応じた総合ポイントで賞金が出るようになっている。また、主催者であるB.A.A.は、コースが位置する地元8市町の自治体と3年間で計270万ドル(約3.2億円)を提供する契約を結んでいる。
以上、2回にわたってボストン・マラソンの実態を参加者(ランナー)・ボランティアの視点から、そして規模や資金面から概観してきた。100年以上続く大会を支えてきたのは、紛れもなくボストン市民であり、市民から愛されてきたランナー達である。寄付プログラム等を通して社会貢献しながら経済的に大会を持続させる仕組みも成熟している。改めて主催者であるB.A.A.のミッションを確認してみると、「スポーツ、特にランニングを通して、健康的なライフスタイルを促進すること」となっている。この成熟した大会を、「健康」もミッションのキーワードのひとつに掲げる組織が、市民とともにどのように持続・発展させていくのか楽しみである。
※文中 1ドル=120円で換算
※本稿は、日本学術振興会海外特別研究員制度による研究の一環としてまとめたものである。
レポート執筆者
鎌田 真光 (2014年9月~2018年3月)
海外特別研究員
Research Fellow
Harvard T.H. Chan School of Public Health
Overseas Research Fellow, Sasakawa Sports Foundation (Sept. 2014~Mar. 2018)