2015.06.25
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2015.06.25
国内の、さらに世界の頂点を目指して競技に励む多くのアスリートがいる。ドイツでは、年の終わりが近づくと、スポーツに関わるさまざまな表彰が行われる。何といっても一番の注目は「今年のスポーツマン(Sportler des Jahres)」の表彰式だ。2014年は12月21日(日)に行われ、22時からZDF(第2テレビ)で実況中継された。会場はヨーロッパ有数の温泉地であるバーデン・バーデンのクアハウス。ここで催されるイベントは格式が高く、女性は長いイブニングドレス、男性は礼服着用がマナーとされる。1988年夏季オリンピック開催都市を決める国際オリンピック委員会(IOC)総会で、名古屋がソウルに敗れたのもこの会場である。
「今年のスポーツマン」の選考は1947年から行われており、票を投じるのは国内のスポーツジャーナリストである。男子では3年連続で陸上・円盤投げのロベルト・ハルティング(Robert Harting)、女子では2014年ソチ大会でドイツ選手団の旗手を務めたアルペンスキーのマリア・ヘフルリーシュ(Maria Höfl-Riesch)、チームではもちろん、2014FIFAワールドカップブラジル大会を制したサッカー男子ナショナルチームが選ばれた。サッカーの男子ナショナルチームは歴代最多の10回目の受賞で、これに続くのは女子テニスのシュテフィ・グラフ(6回)、男子テニスのボリス・ベッカー(5回)である。なお、この1週間後の12月28日には、大衆紙「ビルト(Bild)」が「私たちが本当に好きな100人のスポーツマン(100 Sportler, die wir Deutschen wirklich lieben)」を発表した。グーグルの検索で上位にあがる選手100人を抽出し、1,000人を対象に実施したオンライン調査の結果である。上位10人はすべて男子選手、1位はミロスラフ・クローゼで、上位10人中8人がサッカー選手であった。円盤投げのハルティングは12位、マリア・ヘフルリーシュは100人の中に入っていない。100人中およそ半数がサッカー選手であり、ドイツでサッカーがいかに愛されているかがわかる。
「今年のスポーツマン」のほかにも、以下のような表彰制度がある。
【ドイツ大統領府による表彰】
【ドイツスポーツ連盟(DOSB)・ドイツスポーツユーゲント(dsj)による表彰】
生涯スポーツの表彰として特に注目すべきは「スポーツの星(Sterne des Sports)」である。DOSBとフォルクスバンク・ライフアイゼンバンクグループ(農業組合など組合系の銀行の連合会)の共催で、イノベイティブなアイディアやコンセプトで社会貢献をするスポーツクラブが表彰されており、以下の11テーマが設けられている。
まず、地域単位で応募、選考が行われる。地域で最優秀に選ばれたクラブには、「銅の星賞」が授与され、州の選考に進む。州単位の最優秀クラブには「銀の星賞」が与えられ、連邦(全国)の最終選考に進出する。金賞にあたる最優秀賞は「スポーツの大きな星(Der Große Stern des Sports)」である。2014年は全国でおよそ2,500のスポーツクラブが応募し、地域・州で選びぬかれた17クラブが2015年1月28日、ベルリンでの表彰式に招待された。
DOSB会長のアルフォンス・ヘアマンは表彰式の席上でこう述べた。「スポーツ国ドイツには9万1千のスポーツクラブがあり、それぞれが日々さまざまな活動をしている。これについては世の中で語られることはあまりない。この表彰を通じて、全国のスポーツクラブの運営に携わる約880万人のボランティアに光を当てることができることは素晴らしい」。DOSBの副会長や組合系銀行グループをはじめ、2大テレビ局、2大新聞、ドイツプレスエージェンシー、全国都市連絡協議会それぞれの代表で構成された審査委員たちは1~3位を選んだが、残り14クラブの優劣はつけられないと、すべて4位とした。プレゼンターは連邦大統領と首相が毎年交代で行っており、今年はヨアヒム・ガウク大統領の番であった。大統領は祝辞で、「"自分には何かできる、私は強い、ほかの人と一緒にやればもっと沢山できる"ということを認識すること。これはスポーツだけでなく、人間が共同生活をするうえで、重要な要素である。スポーツはそのためのよいチャンスを私たちに与えてくれる」と述べた。1位のクラブには1万ユーロ(140万円)、2位に7,500ユーロ(105万円)、3位に5,000ユーロ(70万円)、4位の14クラブにはそれぞれ1,000ユーロ(14万円)の賞金が授与された。賞金はスポンサーの組合系銀行グループが提供した。
「スポーツの星」の表彰式では、同時に「ボランティア支援賞(Pro Ehrenamt)」の表彰が行われた。これは、自分の時間を犠牲にして社会貢献活動する者にも、政治や経済、メディアの支援が必要であるという考えのもと、ボランティア活動推進に貢献した人、企業、団体を表彰する制度である。2014年は11年前の「スポ-ツの星」設立以来支援し、その発展に貢献してきた組合系銀行グループの会長ウーベ・フローリッヒ(Uwe Fröhlich)に授与された。
スポーツにはたくさんの「顔」がある。
※文中1ユーロ=140円で換算
参考資料:
DOSB-Presse Nr.4,5,6、ビルト(Bild)紙、DOSBウェブサイト
レポート執筆者
高橋 範子
Special Advisor, Sasakawa Sports Foundation