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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

オーストラリアにおけるスポーツ実施状況 Vol.2

2014.12.22

オーストラリアにおけるスポーツ実施状況 Vol.2

2.スポーツなど身体活動の実施状況の最新動向(2014年11月時点)

(2)子どもの実施状況:文化・レジャー活動への子どもの参加に関する調査(Survey of Children's Participation in Culture and Leisure Activities, Australia:CPCLA)

  • MPHS同様、労働力調査の一環として、2000年・2003年・2006年・2009年・2012年に実施された。
  • スポーツ・文化活動・レクリエーション・レジャーに関する子どもの実施状況、文化施設の利用やイベントに参加した子どもの特性、インターネットや携帯電話の子どもの使用状況などについて調べることを目的とした調査。学校の授業以外の時間に子どもが選んだ活動について情報収集することに重点を置いている。
  • 5-14歳を対象とし、回答は子どもの保護者が行った。2012年は7,300人のデータを収集した。
  • スポーツ実施率については、過去12ヵ月間に実施した授業以外の組織的な活動を対象としている。そのため、ジョギングやジムでの運動など非組織的な活動は含まれていない。
  • 2012年調査によると、授業以外の組織的なスポーツの実施率は60.2%だった。大人の組織的な身体活動への参加がMPHS調査で27%だったのと比べると、子どもは組織的な活動の実施率が比較的高い。
  • 年齢別では9-11歳の実施率が66.4%と高い。州・準州別では、首都準州が73.3%と際だって高いのに対し、北部準州は53.7%と総実施率を大きく下回っている。この違いは、子どもの教育やスポーツ関連施策を担っているのが州・準州政府であることと関係しているのではないかと考えられる。
(出典:ABS「Survey of Children's Participation in Culture and Leisure Activities, Australia,2012」をもとに作成)

(出典:ABS「Survey of Children's Participation in Culture and Leisure Activities, Australia,2012」をもとに作成)

  • 組織的なスポーツ活動の内容は、男子では屋外サッカー(22%)、水泳・飛び込み(16%)、オーストラリアンフットボール(15%)がトップ3だった。女子は水泳・飛び込み(19%)とネットボール(16%)が主なスポーツ活動だが、文化活動と合わせるとダンス(27%)の実施率が最も高かった。

(3)大人と子どもの健康:国民健康調査(Australian Health Survey:AHS)

  • 2011年から2013年にかけて行われた国民の健康に関する大規模な全国調査。健康状態や危険因子、身体活動、生活活動、栄養状態、社会経済状況など健康に関連する項目を幅広く調査している。
  • 「National Health Survey:NHS」「National Nutrition and Physical Activity Survey:NNPAS」「National Health Measures Survey:NHMS」の3つの調査で構成されており、身体活動関係の調査項目も複数調査にわたる。
  • 大人と子どもの両方を対象とし、2万6,000世帯で計3万3,500人のデータを収集した。
  • 2011-12年度の報告書によると、15歳以上の大人の過去1週間の運動状況は以下のグラフのとおりである。全く運動をしていない人が全体の1/3(35%)を占めていたが、2/3は軽度・適度あるいは激しい運動をしていた。
(出典:ABS「Sports and Physical Recreation: A Statistical Overview, Australia, 2012」をもとに作成)

(出典:ABS「Sports and Physical Recreation: A Statistical Overview, Australia, 2012」をもとに作成)

  • また、18歳以上の大人が適度な身体活動に費やした時間は平均して一日30分であった。全国身体活動指針(National Physical Activity Guidelines)では大人に対して「少なくとも一日30分適度な身体活動をほぼ毎日行うこと」と記されているが、その尺度に見合う「十分活動的(sufficiently active)」である大人は43%にとどまった。
  • 2-4歳の幼児・未就学児では平均一日約6時間、適度な身体活動をしていたが、その一方で約1時間半(83分)、テレビやDVD、ゲームなど座りっぱなしの活動に時間を費やしていた。5-17歳の子ども・若者は一日約1時間半(91分)適度な身体活動をし、約2時間(136分)画面を見る活動をしていた。年齢とともに、身体活動の時間が減り、画面を見る活動が増えていた。
  • 歩数計調査では、18歳以上の大人の平均歩数が一日7,400歩だったのに対し、5-17歳の子ども・若者の平均歩数は1日9,140歩だった。

3.まとめ

本稿では、オーストラリアにおける主なスポーツ実施状況調査として、ABSが行っているMPHS(大人の実施率)、CPCLA(子どもの実施率)、AHS(大人と子どもの健康)の3つを紹介した。スポーツや身体活動の実施率は、社会経済要因や年齢などによって変わってくる。そのため、さまざまな調査で明らかになった実施率の低い層(高齢者、海外出身者、収入・学歴・居住地といった面で不利な立場にある人、障害を持つ人や先住民など)に対して、啓発活動やサポートを行っていくことが課題となっている。

また、スポーツ実施状況は目的によって解釈も異なってくる可能性がある。国民の健康増進が目的であれば、頻度や運動強度を日常生活の身体活動(徒歩通勤など)も含めてみていく必要がある。一方、スポーツ産業向けのデータ収集であれば、スポーツ活動の内容や活動時間、組織化された活動かどうかなどの情報が役立つだろう。しかし、スポーツ活動は年齢や性別による違いのほか、国ごとの文化的背景の違いもあるため、国際比較は難しい。たとえば、オーストラリアの男子はオーストラリアンフットボールの実施率が高いが、同競技はオーストラリア独自のスポーツであり、実施率の高さの背景には競技団体の子ども向けマーケティング活動の成果がある。また、オーストラリアでサッカーの実施率が高くなったのは近年になってからである。このようにスポーツには国の独自性があらわれる。したがって、国際比較をする場合には、健康という観点から行うのが取り組みやすいのではないだろうか。健康面からみた運動やスポーツという観点で、その活動内容をウォーキングや水泳などに限定すれば比較も容易となる。また、運動を歩数換算することによって数値化した比較もできるだろう。

レポート執筆者

本間 恵子

本間 恵子

Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation
(2015年4月より、日本から情報発信)