2015.03.16
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2015.03.16
オーストラリアでは、1976年モントリオール・オリンピックでの成績不振(金メダル0個、獲得メダル数の合計5個)を挽回するため、80年代から国を挙げてエリート選手の育成を行ってきた。1981年にはエリート選手の育成やスポーツ科学の研究を行う機関オーストラリア・スポーツ研究所(Australian Institute of Sport:AIS)を設立、1985年にはスポーツ政策を担う連邦政府機関オーストラリア・スポーツコミッション(Australian Sports Commission)を設立し、夏季オリンピックの開催サイクルに合わせて4年ごとにスポーツ政策を見直すようにした。その成果は1988年ソウル大会から表れ、ソウル大会では14個のメダル(うち3つが金)を獲得、1992年バルセロナ大会では27個(うち7つが金)、1996年アトランタ大会では41個(うち9つが金)、そして2000年シドニー大会では人口わずか1,900万人(当時)ながらも58個のメダル(うち16個が金)を獲得し、国別メダルランキングでも世界で4位になる成功を収めた。しかし、近年、エリート選手の競技力向上においてはトレーニング技術の開発やコーチの引き抜きなど国際的な競争が高まっており、国内においては国民の健康問題への対応が求められている。スポーツの成功の尺度をオリンピックやパラリンピック、コモンウェルス・ゲームズでのメダル獲得に置き、エリート選手の支援・育成を重視していたオーストラリアだったが、選手層を増やすためにも国民の健康増進のためにも、草の根レベル・地域レベルでスポーツ参加(実施・関与)を増やしていくことが重要であると認識されるようになった。そのような社会的背景を受けて、連邦政府は2008年からスポーツ政策の改革に着手し、エリートと草の根の両方を柱とする政策を立案した。本稿では、その改革の背景と改革の内容について述べたい。
2007年12月の総選挙で自由党から労働党に政権交代し、ケビン・ラッド内閣が成立した。それに伴う省庁再編により、スポーツ行政は保健高齢化省(Department of Health and Ageing)に置かれることになった。この背景には、エリートスポーツとコミュニティスポーツには密接なつながりがあることや、スポーツには運動能力向上のほか生活習慣病の予防、希薄になった地域社会のつながりの強化といった幅広い役割があることが認識されるようになったからである。そこで、保健高齢化省は2008年5月にスポーツ政策の改革の必要性を唱える報告書「オーストラリアのスポーツ:表出する課題と新しい方向性(Australian Sport: emerging challenges, new directions)」を発表した。報告書では、社会環境の変化に伴う国内外におけるさまざまな課題とその対応について今後の方向性が示された。当時のケビン・ラッド首相は、スポーツやレクリエーションは国内において経済的・社会的に重要な分野であり国際的にもリーダーシップを発揮するのに重要と認識し、エリートスポーツ支援とスポーツ・レクリエーションを通じた国民の健康増進という二つの領域において新しい方向性が必要であるとした。そして、エリート支援、コミュニティスポーツ支援の2つを柱としながら、女性や先住民、障がいのある人たちのスポーツ支援を行っていくという、5つのテーマにおいてそれぞれ課題と今後の方向性を提示した。その内容は以下のとおりである。
テーマ1.エリートレベルの成功を維持する | |
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課題 |
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今後の方向性 |
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テーマ2. スポーツ実施を高め、予防できる健康問題に対処する | |
課題 |
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今後の方向性 |
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テーマ3.女性のスポーツ参加推進 | |
課題 |
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今後の方向性 |
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テーマ4.先住民向けスポーツプログラムの見直し | |
課題 |
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今後の方向性 |
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テーマ5.障がい者のスポーツ参加を支援する | |
課題 |
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今後の方向性 |
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※1「Active After-school Communities (AASC)」の詳細については前回の記事を参照。
こうした課題と方向性を踏まえ、2008年8月28日に当時のスポーツ大臣ケイト・エリスがスポーツに関する独立委員会(Independent Sport Panel)を設立した。委員会は、スポーツ関係者や一般市民から650以上の提案を受け、その中から将来の課題に対応できるスポーツ制度とするために特に重要なことを見極めて提案書をまとめた。委員長の名前をとって「Crawford Report」とも呼ばれる提案書「オーストラリアにおけるスポーツの将来(The Future of Sport in Australia)」が2009年11月に発表された。提案書ではさまざまな問題点とその対応が整理されているが、主として、エリートレベルと草の根レベルの両方で目標を達成する必要があること、国レベルの機関(連邦政府、AIS、NSOなど)と州レベルの機関(州・準州政府、州レベルのスポーツ機関など)が連携して資金提供やプログラムを実施すること、全国的なスポーツ政策の枠組みを作るべきであることなどが提言された。
その後、オーストラリアが引き続きスポーツ大国として成功し続けるにはスポーツ・レクリエーション政策に対して包括的かつ戦略的なアプローチがコミュニティレベルとエリートレベルの両方で不可欠であることを、連邦政府および州・準州政府のスポーツ担当大臣が合意した。また、スポーツ・レクリエーション担当大臣評議会(Sport and Recreation Ministers' Council)が「全国スポーツ・動的レクリーション政策の枠組み(National Sport and Active Recreation Policy Framework)」の作成にも合意した。
レポート執筆者
本間 恵子
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation
(2015年4月より、日本から情報発信)