2015.03.16
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2015.03.16
(Vol.1より続く)
スポーツに関する独立委員会の提案書「オーストラリアにおけるスポーツの将来」に連邦政府が回答する形で、2010年に「オーストラリアのスポーツ:成功への道筋(Australian Sports: the pathway to success)」という報告書が発表された。この報告書は改革のビジョンと今後の実施施策を示しているため、新しいスポーツ政策と捉えられている。「オーストラリアのスポーツ:成功への道筋」では、エリート支援に比重が置かれていた従来の政策に代わって今後は草の根スポーツやレクリエーションへの予算配分をこれまで以上に高めるとし、草の根とエリートをつなげるネットワークも構築すること、支援対象競技をオリンピック競技だけではなくオーストラリアで人気のある競技も対象とすること、学校のスポーツ施設の改修に助成を行うとともに一般市民への学校施設開放も行うことなどが明記されている。こうした改革に対して、連邦政府は4年間で12億豪ドル(約1,104億円)の資金提供を行っていくとし、これによりスポーツ政策への資金提供は過去最大となった。資金配分については、スポーツ政策全般を担うオーストラリア・スポーツコミッション(ASC)が連邦政府の方針に基づいて行っていく。注力分野ごとに実施していく改革内容は以下のとおりである。
テーマ1. スポーツ参加(実施・関与)の向上 | |
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教育を通じた子どもたちの スポーツ実施向上 |
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地域スポーツと社会参加向上の ために競技団体を支援する |
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障がいのある人・ 選手を支援する |
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女性や少女の スポーツ参加を高める |
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先住民のスポーツ参加を高める |
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スポーツ施設の提供 |
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テーマ2. スポーツの道筋の強化 | |
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地域のボランティア・ コーチ・審判の支援 |
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コミュニティスポーツ振興に 選手が関与する |
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有望選手の発掘 |
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選手育成の道筋 |
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テーマ3. 成功に向けた取り組み | |
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エリート選手のコーチ・ 審判の支援・保持 |
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国際大会への支援増加 |
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エリート選手への投資 |
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トレーニング環境に関する イノベーション・リサーチ |
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エリート選手向けの機関・ アカデミーの改革 |
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ドーピング対策の継続 |
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2009年の提案書「The Future of Sport in Australia」の発表後、スポーツ・レクリエーション担当大臣評議会が中心となって作成してきた「全国スポーツ・動的レクリーション政策の枠組み(National Sport and Active Recreation Policy Framework)」が2011年に発表され、連邦政府と州・準州政府のスポーツ・レクリエーション担当大臣によって承認された。
この「全国スポーツ・動的レクリーション政策の枠組み」は政策文書というよりはスポーツと動的レクリーションに関する政策・戦略・プログラムを立案するためのガイドである。その原則として、連邦政府と州・準州政府、地方政府が互いの目的を共有して目的達成のために連携して政策を進めていくこと、その際に各政府の課題と公共政策を踏まえたアプローチをとること、政府間で実行できる共通の長期的な戦略・政策を立案すること、スポーツや動的レクリーション推進の要となるNSOなどの組織による計画や方向性を尊重することがあげられている。また、スポーツ・動的レクリーションにおける連邦政府および州・準州政府の役割と責任範囲を示している。政府間の連携を強化することによって、各レベルで行われていた政策・プログラムを見直して重複するものを排除し、より効率的にリソースを配分すること、公的資金の投資から得られる成果を高めることを目指している。
さらに、この枠組みに沿って政策・プログラムが立案・実施されているかどうかを監視・評価する委員会を設立するとともに、初期評価を2年後に行い、その後は4年ごとに評価し、必要に応じて見直しをしていくことが示されている。評価の指標としては、重点領域ごとに目標と成功の尺度を掲げており、例えば、スポーツ・動的レクリーション政策の実施状況の向上という目標に対しては実施率やクラブ会員数の増加、イベント参加状況などが尺度としてあげられている。重点領域は、こうした実施状況の改善のほか、国際競技力の向上、国内選手権の質や参加機会の向上、地域のクラブを中心としたスポーツ振興の継続、スポーツやレクリエーションをより広範な政策課題(保健・観光・教育・環境・都市計画など)に活用していくことがあげられている。
1980年代後半から2000年代前半まで、オーストラリアはオリンピックなどのメガスポーツイベントにおける獲得メダル数をスポーツの成功とし、エリート育成に重点を置いてきた。しかし、国内外の現状の課題や将来起こりうる課題に対応するため、2008年から改革が行われ、草の根レベル・地域レベルの活動を従来よりも重視するとともに、誰もが草の根からエリートまでの道筋に参画できるような効率的な仕組みを作り出すこと、そのために国レベルの機関と州レベルの機関が連携していくという方向性が示された。この改革はオーストラリアのスポーツ制度において画期的であったが、2010年に発表された「成功への道筋(The pathway to success)」の内容を見ると、成功とは国際大会で好成績を残すことであり、そのための道筋を作ったと解釈できる。一方、2011年に発表された「全国スポーツ・動的レクリーション政策の枠組み(National Sport and Active Recreation Policy Framework)」では、草の根のスポーツに関して実施率やクラブ会員数の増加、イベント参加状況などが成功の尺度としてあげられている。メダルの獲得数は投資額に対する効果を数値化しやすいため成功の尺度として捉えやすいが、草の根のスポーツ実施や国民の健康といった視点でのスポーツ・レクリエーションの効果・便益をどのようにして可視化・数値化し成功したと判断するのかについては尺度が提示されたばかりであり、その評価については今後の状況を見ていきたいと考えている。
※文中の「豪ドル/円」レート(1豪ドル=92円)は2015年3月12日時点のもの
レポート執筆者
本間 恵子
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation
(2015年4月より、日本から情報発信)