2015.01.08
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2015.01.08
近年のインターネット業界において、ソーシャルメディアの台頭は誰もが知る大きな発展と言っても過言ではないだろう。Facebook社によれば、世界のFacebookアクティブユーザー数は2014年現在で約9億人に達したと報告している。日本国内のFacebookアクティブユーザー数に着目しても、2,200万人もの人々がこのインターネットプラットフォームで家族や友人、同僚とコミュニケーションを図っている。Facebookに加え、Twitter、YoutubeやLINEの利用者を考慮すれば、驚くべき数のアクティブユーザーが存在していることは容易に想像がつくだろう。
本稿では、このソーシャルメディアの驚くべき台頭を受けて、アメリカのスポーツチームにおいて、(1)どのような人物がソーシャルメディアスタッフとして従事しているのか、そして(2)どのようにこのプラットフォームを活用しファンとの関係を構築しているのか、いくつかの興味深い事例を紹介する。
アメリカのスポーツチームは多くの場合、ソーシャルメディアスタッフを雇用している。大手就職検索サイトSimply Hiredによれば、プロスポーツチームのソーシャルメディアスタッフの平均年俸は、日本円にしておよそ350万円である。決して十分な給与とは言えないかもしれないが、ソーシャルメディアを使って専門的にマーケティング戦略を遂行できる人材に投資をしているという事実が伺える。
ソーシャルメディアスタッフの雇用が難しい比較的経営体力の乏しいマイナースポーツチームであっても、学生インターンなどを活用しながらソーシャルメディアを使ったマーケティング戦略が展開されている。筆者が所属するフロリダ大学のスポーツマネジメント専攻の学生もインターン先のスポーツチーム(例えばメジャースポーツであればNBAマイアミヒートやNFLジャクソンビルジャガーズ、またマイナースポーツであればアリーナフットボールのジャクソンビルシャークスなどがある)において、ソーシャルメディアアシスタントとして従事することも少なくない。
スポーツチームの中で、ソーシャルメディアを用いたマーケティング戦略は、数億のスポーツ消費者に接触できる可能性をもつプラットフォームとして重要視されていることは確かである。
しかしながら、ソーシャルメディアスタッフと言っても、実際にどのような人材が重宝され、どのような仕事をしているのかイメージしづらい方もいるのではないだろうか。実際にアメリカのプロスポーツチーム(NFLダラスカウボーイズ)がソーシャルメディアスタッフの求人公募を発表した際の応募要件を概観すると、(1)Facebook、Twitter、Instagram、Google+、Snapchatの知識が豊かであり、(2)応募者自身がアクティブユーザーであること。そして(3)夜も週末も祝日も働くことができる人物であり、(4)Photoshopの技術をもっていることが望ましいとしている。同様に、スポーツ産業への就職支援を行うSports Resume.comによると、上記のような応募要件に加えて、HTMLやJavaScript、C言語などを扱うことができるコンピューターに長けた人物が重宝され、時にはコンピューターサイエンスや情報システムの学位を取得していることが望ましいという要件が出されることもあるという。
実際の仕事内容は、ファンのチームに対する関与を上げるコンテンツを作成し、全てのソーシャルメディアを駆使して宣伝することである。さらに、ファン同士がオンライン上でどのようなコミュニケーションを行っているか全てのソーシャルメディアをリアルタイムで監視することも重要な仕事である。このように、スポーツチームのソーシャルメディアスタッフとして働くことは容易ではない。アメリカのスポーツチームがソーシャルメディアを重要視し、ファンとの関係構築に尽力していることが想像できる。
前述のようにソーシャルメディアは大きな可能性を秘めているプラットフォームである。例えば、スタープレイヤーであるコービー・ブライアントを擁するNBAロサンゼルス・レイカーズは370万人のTwitterフォロワーをもつ、ソーシャルコミュニティにおいても人気のチームである。彼らはこの370万人強のスポーツ消費者へ直接メッセージを届けることができる。多くのファンとソーシャルメディアを通していかに繋がることができるかは、一つの大きな課題であろう。ファンのソーシャルメディア関与を上げるためにNBAは「ソーシャルメディアアワード」と題し、ソーシャルメディア上で人気がある選手やチームを、ハッシュタグやリツイート(RT)機能を用いてファン投票を行い表彰するプログラムを実施している。実際に投票を行うファンは既にソーシャルメディアのアクティブユーザーであると推察されるが、彼らのソーシャルメディア上でのアクティブな行動(例えば「いいね!」や「シェア」)は、選手や特定のチームをフォローしていないファンを後押しし、選手やチームに興味をもってもらうのに有用である。スポーツにおいては、「競技」に関連するコンテンツによってファンとの関係を構築することは非常に重要であるが、ソーシャルメディアアワードでの表彰は数々のカテゴリーに分かれている。
ある選手はベスト自撮り部門で表彰され、またある選手はベストジョーク部門で表彰される。この多様性は比較的関与の低いスポーツファンとの関係を構築するためにも重要な視点であると思われる。
ソーシャルメディアを活用したマーケティング戦略はプロスポーツだけではなく、大学スポーツでも盛んに行われている。例えばミシガン大学アスレチックデパートメントは、Facebookを活用して、ファンページに「いいね!」をしたファンをホームゲームの先行販売ページにリダイレクト(移動)させ、チケット購入の優遇措置を与えるキャンペーンを行った。彼らによれば、わずか24時間の宣伝により、およそ800万円のチケット収入が得られたとし、最も重要なことに、7,000人のFacebook新規ファンページメンバーを獲得したと報告している。以降、彼らがソーシャルメディアを通して獲得したファンに直接メッセージを届けることができるようになったのは言うまでもない。
最後の例として、ソーシャルメディアマーケティングにファンの視点を積極的に取り入れたのが、NHLニュージャージーレッドデビルズである。彼らはソーシャルメディアスタッフを雇用するよりも、彼らのチームを愛するヘビーファンの視点がソーシャルメディアマーケティングに不可欠だとし、「ミッションコントロールプログラム」を実施した。このプログラムは、チームを愛する25人のヘビーファンをリクルートし、ゲームがある日にボランティアとして活躍してもらうプログラムである。彼らは約2時間の交代制でソーシャルメディア上のファンのコミュニケーションを監視したり、チーム関連情報の告知などを行っている。チームを愛するヘビーファンは、ソーシャルメディアに精通した専門家にも気づきにくい複雑なファンの心理を理解する上で有用なのかもしれない。レッドデビルズは、2011年にスタートしたこのプログラムが、7万人の新規Facebookファンページメンバー獲得と、およそ200万円の年間チケット収入増加に貢献したと報告している。
本稿では、アメリカのスポーツチームのソーシャルメディアマーケティングを、事例を用いて紹介させていただいた。日本においても、人気のプラットフォームは変化するかもしれないが、ソーシャルメディアのアクティブユーザー数は増加していくだろう。ソーシャルメディアは多くのスポーツ消費者に直接メッセージを届けることができる非常に有用なツールである。上述のように効果的に活用することによって、ファンとの関係をより強固に構築できる可能性も秘めている。一方で、ネガティブな情報も多くのファンに瞬く間に伝わってしまうことも理解しなければならない。特にアスリート個々人のソーシャルメディアに関する教育も積極的に行っていく必要があるだろう。
レポート執筆者
佐藤 晋太郎
Assistant Professor of Marketing Montclair State University Correspondent, Sasakawa Sports Foundation