2015.01.08
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2015.01.08
「アメリカでは、健康づくりの観点から、どのようにスポーツが推奨されているのだろう?」
適度にからだを動かすことが様々な疾病を予防し、健康増進につながることは多くの研究により明らかになっている。例えば、心疾患、脳血管疾患、がん(結腸がん、乳がん等)など米国および日本で主要な死因となっている疾患をはじめ、うつ病や運動器疾患など障害(disability)の主要な要因となっている疾患に至るまで、多くの疾病の発症リスクが、適度にからだを動かすことで低下する。そこで、米国政府はこうした研究知見(エビデンス)をまとめて、国民の身体活動を促進する目的で2008年にガイドラインを策定した。それが2008 Physical Activity Guidelines for Americansである。
このガイドラインは、政策立案者と健康づくり・医療の専門家を主要なターゲット(読者層)として位置づけており、十分な健康増進の効果を得るために必要な身体活動の「種類」と「量」をまとめている。米国で健康政策としてスポーツ・身体活動の振興策が計画・評価される際は、このガイドラインの考え方が基盤となっている。ここでは、実際にどのように身体活動が推奨されているのかを整理してみたい。表1に、年代や特性に応じて推奨されている身体活動の主要なポイントを示した。
表1. 2008 Physical Activity Guidelines for Americansの年代・特性別のポイント
このガイドラインの基本的な考え方として、疾病予防等の健康効果を十分に得るためには、「年に1回」「月に1回」程度の頻度ではなく、「週に数回」といった頻度の習慣が必要だということが示されている。したがって、健康増進の要素も含めてスポーツ振興策を評価する場合、スポーツ実施率の調査では、「年に1回以上」「月に1回以上」といった低頻度の実施割合ではなく、「週に○日、○分以上」といった量の実施割合を評価・モニタリングすることが求められる。
身体活動の分類については、第1回で示したように「運動」と「生活活動」で区別するほかに、このガイドラインのように、その活動特性によって、有酸素(aerobic)、筋力増強・向上(muscle-strengthening)、子どもで推奨されている骨増強(bone-strengthening)、高齢者で推奨されているバランス訓練(balance training)といった分類をすることができる。また、運動強度によって、低強度、中強度、高強度と区別されるが、この米国のガイドラインをはじめとして、世界保健機関(WHO)のものも含め、多くのガイドラインが、中・高強度の身体活動(Moderate to Vigorous Physical Activity: MVPA)の実施を推奨している。スポーツ実施率の調査をすると、日本や米国等で必ず上位に入る「ウォーキング」や「ジョギング・ランニング」は、いずれも中・高強度の有酸素性身体活動に分類されるため、こうした活動を週に計150分以上行っていれば、米国のガイドラインの推奨量を満たすということになる。
冒頭で述べたように、現在、米国ではこのガイドラインの考え方に基づいて身体活動促進の健康政策が進められている。次回は、そうした取り組みを紹介する。
※本稿は、日本学術振興会海外特別研究員制度による研究の一環としてまとめたものである。
レポート執筆者
鎌田 真光 (2014年9月~2018年3月)
海外特別研究員
Research Fellow
Harvard T.H. Chan School of Public Health
Overseas Research Fellow, Sasakawa Sports Foundation (Sept. 2014~Mar. 2018)