2015.02.16
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2015.02.16
前回紹介した「身体活動ガイドライン」では、どのような種類・量の身体活動を実施すると健康増進につながるかがまとめられている。それでは、そうした種類・量の身体活動を実際に実施する人々を増やすために、アメリカではどのような政策がとられているのだろうか?ここでは、そうした国の一連の政策のベースとなっている「Healthy People」における「計画」と「目標」に焦点を当てて見ていきたい。
Healthy Peopleは、米国の健康政策全般の計画・実施・評価の枠組みとなっているものであり、日本の「健康日本21」もこれを参考に推進されている。「Healthy People 2000」以来、10年ごとに更新されており、現在、「Healthy People 2020」が米国保健福祉省(U.S. Department of Health and Human Services)の主管により推進されている。この政策には、「目標による管理」という考えがベースにあり、現在は、2020年までに達成すべき目標値が、それぞれの分野ごとに設定されている。表1に、Healthy People 2020で設定されている身体活動に関する15分類の目標を示した。
目標 | 数値目標項目(例) | 現状値 | 目標値 (2020年) |
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余暇身体活動時間がゼロの成人の割合 | 36.2%(2008年) | 32.6%* |
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中高強度の有酸素性活動を150分/週以上もしくは高強度の活動を75分/週以上、かつ、筋力向上活動を2日/週以上行う成人の割合 | 18.2% a(2008年) 有酸素のみ:43.5% 筋力のみ:21.9% |
20.1%* |
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有酸素性身体活動を60分/日行う子どもの割合 | 28.7% b(2011年) | 31.6%* |
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体育が150分/週以上の小学校の割合 | 3.8% c(2006年) | 4.2%* |
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週に5日以上体育の授業を受ける9-12年生の割合 | 33.3% b(2009年) | 36.6%* |
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小学校に休み時間の設定を義務づける州の数 | 7州 c(2006年) | 17州** |
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20分以上の休み時間を小学校に義務付ける学校区の割合 | 61.5% c(2006年) | 67.7%* |
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TV・ビデオ・ゲーム時間が2時間以内の6-14歳の割合 | 78.9% d(2007年) | 86.8%* |
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子どもの運動能力の発達に資する活動を託児所・保育所等に義務付ける州の数 | 25 e(2006年) | 35*** |
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運動施設の時間外利用を認めている小中高校の割合 | 28.8% c(2006年) | 31.7* |
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循環器疾患・糖尿病・高脂血症患者の受診のうち、身体活動に関する助言や教育を含む割合 | 13.0% f(2007年) | 14.3%* |
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雇用主が提供する運動施設および運動プログラムを利用できる成人の割合 | (現状値なし)a | - |
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18歳以上の成人による移動のうち、1マイル(約1.6km)以下の移動に占める歩行の割合 | (現状値なし、 調査データ検討中) |
- |
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18歳以上の成人による移動のうち、5マイル(約8km)以下の移動に占める自転車利用の割合 | (現状値なし、 調査データ検討中) |
- |
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身体活動の機会を増やす構築環境に関するコミュニティ規模の政策の数 | (現状値なし、 調査データ検討中) |
- |
目標値の設定方法:*10%向上; **投影・傾向分析; ***国のプログラムや規制、政策、法律との一貫性
a National Health Interview Survey
b Youth Risk Behavior Surveillance System
c School Health Policies and Practices Study
d National Survey of Children's Health
e National Resource Center for Health and Safety in Child Care and Early Education
f National Ambulatory Medical Care Survey
これらの目標が選定された背景には、健康の決定要因(Determinants of health)に関する図1のような認識がある。すなわち、健康に影響を与えるものには、個人の特性や行動だけではなく、個人を取り巻く環境等も含まれる。したがって、表1の1番目、2番目のような身体活動の実施率・行動に関する目標に加えて、職場や環境に関する目標とその達成に向けた取り組みも重要となる。12番目の職域関連目標のように、ベースラインとなる現状値に関する全国データが存在しないものの、developmental objectives(発展途上の目標)として選定されているものも含まれている。
図1.Healthy People 2020における健康の決定要因の考え方
また、Healthy People 2020策定の一連のプロセスにおいて中心的な役割を果たしたのは連邦省庁間作業グループ(FIW: Federal Interagency Workgroup)である。この作業グループは、保健福祉省だけでなく、農業(U.S. Department of Agriculture)、教育(U.S. Department of Education)、都市計画(U.S. Department of Housing and Urban Development)など、実に多様な省庁からメンバーが集められている。身体活動の分野においても、例えば、個人の行動に影響を与えている「環境」という視点で考えると、歩道の設置や自転車道の整備などは、都市計画分野の参画なしに進めることはできない。こうした、多分野協働、分野横断的なアプローチの必要性を認識した上で推進がなされている。
Healthy People 2020では、ただ策定された計画が示されているだけでなく、ウェブ上でその達成状況が随時確認できるようになっている。例えば、計画全体の中でも優先度の高い目標と位置づけられているLeading Health Indicatorsの一つである「2. 『中高強度の有酸素性活動を150分/週以上もしくは高強度の活動を75分/週以上』かつ『筋力向上活動を2日/週以上』行う成人の割合」の達成状況を見てみると、図2のように推移している。2010年には、既に目標値である20.1%を上回っており、早々に目標を達成していることが分かる。この目標値は、ベースラインとして設定された2008年の値から10%向上という相対的な基準をもとに設定されているが、絶対値の割合としては2割と決して高い水準ではないため、2020年にはさらに高い割合にまで目標を引き上げることが検討されるべきであろう。
図2.「中高強度の有酸素性活動を150分/週以上もしくは高強度の活動を75分/週以上」かつ「筋力向上活動を2日/週以上」行う成人の割合
(Healthy People 2020ウェブ上の情報をもとに作成。データ元:National Health Interview Surveyによる自己申告データ)
こうした目標に関連するデータのほか、Healthy People 2020のウェブ上には、身体活動を促進するための様々な介入の効果に関する研究知見へのリンク(Interventions & Resources)が張られており、Consumer Informationのコーナーには、国民にとって直接生活に役立てられる情報をまとめたリンク集が掲載されている。
以上、Healthy Peopleの身体活動に関する内容について概観してきた。この政策全般の考え方や、インターネットを活用したその進め方には、興味深い点が多々ある。ここでは紹介しきれなかった部分もあるため、興味のある方はぜひ一度、ホームページを訪れて眺めていただきたい。
※本稿は、日本学術振興会海外特別研究員制度による研究の一環としてまとめたものである。
レポート執筆者
鎌田 真光 (2014年9月~2018年3月)
海外特別研究員
Research Fellow
Harvard T.H. Chan School of Public Health
Overseas Research Fellow, Sasakawa Sports Foundation (Sept. 2014~Mar. 2018)