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BC Wheelchair Basketball Society のフィジカルリテラシープログラム

~Let’s Play プログラム 後編

2018.04.13

BC Wheelchair Basketball Society のフィジカルリテラシープログラム
~Let’s Play プログラム 後編

前編に続いて、本編ではBC Wheelchair Basketball Society(BCWBS)以外が提供しているプログラムを紹介したい。

車椅子バスケのローカルクラブ

地方の車椅子バスケットボールクラブでLet's Play車椅子を何台か管理し、対象となる子供を地域内で見つけた際にBCWBSの代わりに車椅子を貸し出したり、その子の学校に行って車椅子を使ったアクティビティなどを紹介することもある。また地域のコミュニティーセンターと共同で週1回のプログラムを提供していたクラブもあったが、参加人数や参加率が低下したこともあり現在は行われていない。

市営のコミュニティーセンター

バンクーバー郊外のサレー市では数年前から週1回のプログラムを提供している。市で採用したインストラクターが様々な身体運動を促す遊びを提供する1時間強のプログラムである。市内外の子供たちが参加し、BCWBSの車椅子だけでなく、市としても数台の車椅子を購入し、健常者の参加も可能にしている。今では数年の参加を経て、車椅子バスケットボールや他の車椅子スポーツに移行していった子たちも数名いる。市営であることもあり、参加費も安価で、Let's Playが目指すモデル的プログラムといえるだろう。

ラン・ジャンプ・スロー・ウィール(Run Jump Throw Wheel - RJTW)

カナダ陸上競技連盟(Athletics Canada)が提供するこのプログラムはフィジカルリテラシーの発達を促すため基礎的な身体運動を教えるプログラムで、以前は、「ラン・ジャンプ・スロー(走る、跳ぶ、投げる)」といわれていた。しかし、BCWBSとBCWSAの呼びかけで障害を持つ子供たちもこのプログラムに参加できるよう、ウィール(車椅子を漕ぐ)という動作も加えられるようになった。ゲームなどを通して様々な運動スキルを学んでいくRJTWのプログラムはまさにLet's Playのプログラムの趣旨と重なっている。Let's Playのワークショップを通して多くのRJTWインストラクターが車椅子とその操作やアクティビティの知識を学び、需要があった場合に対応できるよう準備している。ただ実際に障害をもった子供たちが参加した例はまだそれほど多くないようだ。

スクールディストリクト(学区)

学区で積極的にLet's Playを取り入れているところも少数だがみられる。前述したサレー市の学区では、障害児(身体障害以外も含め)のスポーツ参加に力を入れており、毎春セカンダリースクール(日本の中学校・高等学校にあたる)の生徒を対象に学区内で6週間の放課後スポーツ教室を開催している。そして昨年末、Let's Playと協力し小学生を対象としたパイロットプログラムを開催した。今回は学区内8つの小学校の4年生から6年生に対象を絞って開催し、合計10名の身体障害を持つ生徒が参加した。BCWBSのLet's Play担当者の監督のもと、プログラムをリードしたのはセカンダリースクールの生徒たちであった。彼らは、リーダーシップを養う授業(リーダーシップクラス)をとっている生徒たちで、ボランティアスタッフとしてこのプログラムを運営した。

州内の学区とうまく連携できればLet's Playのプログラムをより多くの障害を持つ子供たちに伝えることが出来る。しかし、一般的に学校から生徒たちの情報を得ることはプライバシーの観点から、非常に困難である。また、障害や車椅子に関する知識を持つ教員、知識があっても自発的に動いてくれる教員は少ない。そのため、Let's Playプログラムに適した子供たちを学校を通して見つけることは容易ではないのだ。だからこそ、サレー市のような学区の存在は大変貴重である。

その他パートナー

バンクーバー市内にあるサニーヒル子供ヘルスセンター(Sunny Hill Health Centre for Children)は、19歳以下の子供のためのリハビリテーションセンターである。BCWBSは、この理学療法士(PT)、作業療法士(OT)らと密に協力し、Let's Playプログラムの対象となる子供たちを紹介してもらったり、サニーヒルの体育館でイベントを開いたりしている。また、サニーヒルが行うアウトリーチプログラムでPTやOTが地方に行く際には、Let's Playの車椅子、あるいは情報を持って行ってもらい、参加した子供たちに対象者がいた場合にそれらを提供してもらっている。このアウトリーチプログラムにおける協力が始まったことで、BCWBSだけでは手の届かない地域へもLet's Playを紹介することが可能となった。

2019年にサニーヒルはバンクーバー市内にある子供総合病院内に新設される。その新しい体育館でBCWBSとともに週1回のプログラムを開始する予定である。

今後の活動

前述のとおり、Let's Playが力を入れているコンセプトがインクルーシブプレーだ。スポーツ用車椅子で動きやすくなっても、車椅子を利用しているのが一人だけだと、実際には教員がその生徒をうまく取り込めず、逆に子供が一人だけ車椅子で参加することをためらうケースが多々ある。そこでBCWBSはその子供の学校にもう一台車椅子を配布することを検討している。そうすることで、クラスの他の子供も一緒に車椅子に乗って遊んだり体育の授業を受けたりすることが可能になり、障害を持つ子供の継続的な身体運動につながるのではないかと考えている。また、Let's Playは障害を持つ子供やその親だけでなく、健常者の子供たちやその親たちにも遊びやスポーツの場でのインクルージョンについて考えてもらうきっかけにして欲しいとしている。車椅子を追加することで、さらにインクルージョンについて考える機会が増えるのではないかと考えている。

Let's Playが始まって9年が経ち、このプログラムを卒業する子供たちも増えつつある。そんな中、卒業後はどうするかという道筋をもう少し明確にしていかなくてはならないと考えている。車椅子バスケットボールだけでなく、その他の障害者スポーツ団体ともさらに協力していく方向だ。例えば、積極的に他のスポーツのキャンプ中に「遊びの日」を行うことで、それらスポーツをもっと身近に感じてもらったり、アスリートたちと話をしたりスポーツについて教えてもらったりする機会を増やしていく予定だという。車椅子バスケットボールの選択が必ずしも適切でない子供たちもいるからこそ、様々なスポーツに触れて、本人や親にとって、我が子に早い段階で多くの選択肢を学んでもらいたいそうだ。

近々、障害者スポーツとインクルージョンが題材となる絵本の第2弾が出版される予定である。「The X-Tails」という絵本シリーズを書いている BC州在住の絵本作家 Larry Fieldingの協力を得て、障害者スポーツをテーマにした塗り絵本が出版されることになった。(※第1弾は2014年に出版された「Ski at Spider Ridge」で、冬のスポーツが題材となっており、その中でシットスキーが紹介されていた。)多くの子供たちに遊び感覚で自然と障害者スポーツについて学んでもらえればと考えている。

Let's Playを担当しているBCWBSのスタッフは現在2名である。一人はフルタイムでLet's Playを担当しているプログラムディレクター(自身も車椅子利用者であり、車椅子バスケットボールの元代表選手、コーチという経歴がある)、もう一人はプログラムコーディネーターがバスケットボールのプログラムと掛け持ちで担当している(レクリエーションセラピストの資格を持つ)。数年前までは担当者がパートタイムだったこともあり、趣旨は変わらずとも、なかなかプログラム自体が発展しない実情があった。しかし、担当者がフルタイムとなったことで、少しずつプログラムは発展し、利用者数も順調に伸びてきている。しかし、課題もまだ多い。学校でもコミュニティーセンターでも車椅子の保管場所については常に難色を示され、車椅子の移動手段の確保が家庭や学校によって難しいことが多い。さらに車椅子のメンテナンスの知識がなかなか広まらず、「車椅子がうまく走らないから見て欲しい」とBCWBSが連絡を受けると、タイヤに空気が入っていなかっただけ、ねじが少し緩んでいただけ、なんてことも多々ある状況だ。それでもプログラムの認知度は高くなってきており、需要も増えてきている。これらの問題に対応しつつ、子供たちの遊ぶ権利、運動をする権利や機会を守るため、そして彼らが将来的にスポーツや運動を楽しみ、健康的な生活を送れるようサポートするため、このプログラムは成長を続けるだろう。

レポート執筆者

原田 麻紀子

原田 麻紀子

Manager of Program Development,
BC Wheelchair Basketball Society
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation