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「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。

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日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。

ブラジルのスポーツクラブ

~サントスFC~ 後編

2018.06.13

ブラジルのスポーツクラブ ~サントスFC~ 後編

(前編より続く)

サントスFCの選手育成の大きな特徴のひとつは、サッカーの練習の一環としてフットサルを非常に重視していることにある。14歳前後までの選手全員に、サッカーとフットサルを並行して練習することを義務づけている。下部組織の総括責任者であるマルコ・アントニオ・マトゥラナ氏は、「フットサルは、サッカーより狭いコートで少人数(5人)でプレーする。より頻繁にボールに触るのでテクニックを磨けるし、与えられるスペースと時間が限られているので判断力を養うこともができる。これは、サッカーをプレーするときに非常に役立つ」と説明する。

食堂に掛かっている名選手の写真(中央右がペレ、中央左がネイマール)

食堂に掛かっている名選手の写真(中央右がペレ、中央左がネイマール)

ネイマールも12歳の時、まずサントスFCのフットサルチームに入団し、その後、サッカーの下部組織に加わって掛け持ちで練習した。当時、彼を指導したフットサル部門の責任者アレシャンドレ・バラータ氏は、「ネイマールは入ってきたときから飛び抜けた技術とセンスを備えており、将来、大物になると確信していた」と語る。また、現在、サントスFCのトップチームにいる17歳のFWロドリゴは驚異的なスピードとテクニックの持ち主で「ネイマール2世」と呼ばれる逸材だが、「彼も11歳でまず我々のフットサルチームに入り、その後、サッカーのU-13に加わった。ネイマール以降では最高のタレントだ」(バラータ氏)。

フットサル部門責任者のアレシャンドレ・バラータ氏

フットサル部門責任者のアレシャンドレ・バラータ氏

また、サントスFCは伝統的に若手をトップチームで積極的に起用することでも知られる。ペレがプロデビューしたのは15歳10カ月で、ネイマールは17歳1カ月、そして、バラータ氏が名前を挙げたロドリゴは昨年11月、16歳10カ月でデビューしている。マトゥラナ氏は、「才能がある選手は、まだ10代であろうとどんどんピッチに送り出して経験を積ませる。そのことが選手の成長を加速させるんだ」と力説する。これについて、地元紙の記者は「サントスは他のビッグクラブに比べて財力が乏しく、他クラブから実績のある中堅やベテランを獲得するのが困難だ。そういう理由もあって盛んに若手を起用するのだが、そのことが結果的に選手育成上もプラスになっている」と説明する。

フットサル部門は2011年にプロチームを立ち上げて国内リーグで優勝したが、わずか1年でプロチームが廃部となり、現在はU-8からU-20までのアマチュアチームしかない。「プロチームは金がかかり、なかなか収支が折り合わない。だから、サッカー選手を育成するための組織に特化した」(バラータ氏)とのことだった。

 U-13の練習風景

U-13の練習風景

サントスFCは選手の学業も重視している。「誰もがプロ選手になれるわけではないし、仮にプロ選手になれても引退後の人生がある。学校へ行かない選手は、練習に参加させない」(マトゥラナ氏)。

選手の学業をサポートするため、スタジアムの内部に学習室を設けている。補習授業をする教師がおり、自習を助けるアシスタントが教室に常駐している。

下部組織の選手の多くは10代でアマチュアだが、家族や周囲からの期待を担っており、チーム内の競争も激しいから、心理的な重圧を感じている者が少なくない。このような選手たちを精神面でサポートするのが、心理カウンセラーのマリーナ・ベルザリオ・デ・パイヴァ氏だ。「練習や試合に同行し、選手一人一人の様子を観察します。試合前に気持ちの持ち方などについてチーム全員に話すこともあるし、監督、コーチから依頼されて個別に面談したり、選手本人からの要望で相談に乗ることもあります。プロ選手の卵である彼らは同世代の青少年とは著しく異なる状況に置かれており、家族と離れて生活する選手も少なくないので、精神的にサポートしてあげることが必要なのです」と説明する。

 取材に応じる心理カウンセラーのマリーナ・ベルザリオ・デ・パイヴァ氏

取材に応じる心理カウンセラーのマリーナ・ベルザリオ・デ・パイヴァ氏

ヨーロッパでは、中堅以上のクラブのほとんどがトップチーム、下部組織の双方に心理カウンセラーを配置している。南米やブラジルではクラブによって対応がまちまちだが、サントスFCの場合は10年以上前から下部組織に専門家を置き、若い選手たちを精神面からもサポートしている。

これまでサントスFCにはサッカー部門とフットサル部門しかなかったが、今年1月、総合スポーツ部門が創設された。この取材をした5月初めの時点で、スケートボード、野球、空手、テコンドー、陸上、バスケットボール、アメリカンフットボールの合計約200人。パラリンピックのゴールボール、スケートの選手も31人いる。

この部門責任者のロドリゴ・ガウヴォン氏は、「現時点でプロ契約を結んでいるアスリートはいないが、ゆくゆくはプロ選手を迎え入れ、ブラジル代表として2020年東京のオリンピックに20人、パラリンピックに数人を送り込み、メダルを2個以上獲得したい」と抱負を語る。

 総合スポーツ部門責任者のロドリゴ・ガルボン氏

総合スポーツ部門責任者のロドリゴ・ガルボン氏

サントスFCの下部組織は、ペレに始まってネイマール、そして現在のロドリゴに至るまで、優れた選手を育て上げてきた。もちろん外部には公表しないノウハウやスキルが他にもあるのだろうが、巧みな選手育成の理由の一端は広大なブラジル全土にスカウト網を張り巡らし、潜在能力が高い子供たちを下部組織に迎え入れ、10代前半でフットサルとサッカーを掛け持ちで練習させてテクニックと創造性を最大限に伸ばし、その土台の上にフィジカル能力と戦術理解能力を付け加え、さらにトップチームで若手を積極的に起用して成長を促すところにあると感じた。

 トレーニングセンターの外壁には、かつてサントスFCでプレーしていたカズ(三浦知良)も描かれている

トレーニングセンターの外壁には、かつてサントスFCでプレーしていたカズ(三浦知良)も描かれている

サントスFCの関係者によれば、ヨーロッパの著名クラブを含む世界中のサッカークラブが見学に訪れるという。日本のサッカー関係者も学ぶところが多いのではないだろうか。

レポート執筆者

沢田 啓明

沢田 啓明

Sports Journalist
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation