2018.06.07
- 調査・研究
© 2020 SASAKAWA SPORTS FOUNDATION
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スポーツ政策研究所を組織し、Mission&Visionの達成に向けさまざまな研究調査活動を行います。客観的な分析・研究に基づく実現性のある政策提言につなげています。
自治体・スポーツ組織・企業・教育機関等と連携し、スポーツ推進計画の策定やスポーツ振興、地域課題の解決につながる取り組みを共同で実践しています。
「スポーツ・フォー・オール」の理念を共有する国際機関や日本国外の組織との連携、国際会議での研究成果の発表などを行います。また、諸外国のスポーツ政策の比較、研究、情報収集に積極的に取り組んでいます。
日本のスポーツ政策についての論考、部活動やこどもの運動実施率などのスポーツ界の諸問題に関するコラム、スポーツ史に残る貴重な証言など、様々な読み物コンテンツを作成し、スポーツの果たすべき役割を考察しています。
2018.06.07
サントスFCは、ブラジル南部の人口約44万人の港町サントスに本拠を置く国内有数の名門サッカークラブである。1912年、地元のスポーツ愛好家によって設立され、4年後、本拠地ヴィラ・ベウミーロ・スタジアムを建設。以後、サンパウロ州選手権に参加して現在までに22回優勝している。黄金時代は1960年代で、世界サッカー史上最高の選手とされる“サッカーの王様”ペレを擁し、1962年から二年連続でクラブ南米王者にして世界王者。2011年にもネイマール(現パリ・サンジェルマンFC)らの活躍で南米クラブ王者となっている。ネイマールはブラジル代表のエースで、今年6月14日から7月15日までロシアで開催される2018FIFAワールドカップでの活躍が期待されている。
輝かしい歴史もさることながら、サントスFCは下部組織から優れた選手を輩出することでも世界的に有名だ。プロ部門とその下部組織、フットサル部門、今年新設された総合スポーツ部門などを取材し、選手育成の秘訣を探ってみた。
サントスFCのホームスタジアム「ヴィラ・ベウミーロ・スタジアム」外観
クラブが保有する主な施設は、「ヴィラ・ベウミーロ・スタジアム」と2つのトレーニングセンター。スタジアムは主要人員が約1万6千人で、内部にオフィス、下部組織の選手用の寮とスポーツジムと食堂、フットサル練習場などがある。プロチームと下部組織の一部が使用するトレーニングセンター「レイ・ペレ」(「キング・ペレ」を意味する)は約4万㎡の広さで、芝生のグラウンド3面、選手が試合前日などに寝泊まりする宿泊施設、スポーツジム、リハビリルーム、疲労回復用の室内プール、医務室、会議室、スタッフルーム、食堂などがある。下部組織の選手が練習するトレーニングセンター「メニーノス・デ・ヴィラ」(「ヴィラの少年たち」の意味)は約2万5千㎡の広さで、芝生のグラウンド2面、更衣室などがある。
サッカークラブとして必要最低限の設備は揃っているが、ブラジル国内でもこれを上回る施設を所有するクラブは少なくない。選手育成におけるサントスFCの強みは、ハードではなくソフトにある。
トレーニングセンターの外壁に描かれているペレの雄姿
下部組織には、U-11/13/15/17/23の5チームがある。各チームに所属する選手は各々35~40人で、それぞれ監督、ヘッドコーチ、GKコーチ、フィジカルコーチがおり、さらに下部組織の全選手をケアするドクター、理学療法士、心理カウンセラーなどがいる。
選手の育成方針について、下部組織の総括責任者であるマルコ・アントニオ・マトゥラナ氏は、「サントスFCは、昔から攻撃的で創造性を重んじるスタイルでプレーしてきた。その伝統を受け継ぎ、国内各地からテクニックとイマジネーションを備えた子供たちをスカウトしてきて、経験豊富なスタッフがみっちり鍛え上げる」と語る。そして、「練習するための月謝はなく、用具はすべて支給し、食事も無料。家から練習場へ通えない選手は寮で生活し、そこから学校へも通うが、全費用をクラブが負担する。ただし、毎年末に各チームの陣容を見直し、大体、20~30%の選手が入れ替わる。選手は成長し続けないとクラブに居られないので、毎日が激しい生存競争だ。その点はプロ選手と全く変わらないし、契約期間がなくていつ退団を余儀なくされるかわからない分、むしろプロ選手より厳しいかもしれない」と説明する。
観客席からみたホームスタジアム:約16,000人収容できる
選手を探す方法には、以下の5つがある。
将来有望と思われる選手が見つかれば、クラブへ呼び寄せて下部組織の年齢別チームの練習に1週間から10日程度参加させ、入団させるかどうかの判断を下す。
取材に応じるサッカー下部組織責任者のマルコ・アントニオ・マトゥラナ氏
マトゥラナ氏は、「選手育成において最も重要なのは、まず優秀なタレントを集めること。我々には長年培ってきた選手育成のノウハウがあり、しかるべき環境を整えることもできる。素材が良ければ、選手の潜在能力を最大限に伸ばす自信がある」と言い切る。そして、「我々には、過去、80人を超えるブラジル代表を輩出してきた実績がある。そのことが知れ渡っているので、他クラブとの獲得競争になった場合でも、我々の育成能力を信頼して入団を希望してくれるケースが多い」と誇らしげに語る。
スカウトの中には、サントスFCの黄金時代のスター選手もいる。1966年から1978年までクラブに在籍してMFとして活躍し、1962年と1963年にクラブ世界王者となり、ブラジル代表にも選ばれて1966年ワールドカップに出場したリマ(76)。「将来性がある子供たちを発掘してきて指導するのは、とても楽しいしやりがいがある」と笑顔で語る。
レポート執筆者
沢田 啓明
Sports Journalist
Partner Fellow, Sasakawa Sports Foundation